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第13話 魔獣舎 MAGICAL BEASTRY 『ロップラビー、空を跳ぶ』

第13話 魔獣舎 MAGICAL BEASTRY 『ロップラビー、空を跳ぶ』


いま、ミレニアムでは“とあるウサギ”が空前のブームを巻き起こしている。

特に子供たちからの人気はすさまじく、

ヌイグルミから絵本まで、関連商品は軒並み品薄状態となるほどだ。


これは、そのはじまりのお話。


ミレニアム外れにひっそりと、魔獣研究所の育成舎がある。

戦闘用としては強靭さに欠け、農業や運搬などの使役用としても使い道がなく、

ただし育成は比較的容易であり、おとなしく扱いやすい。

そんな魔獣たちが育てられている場所だ。


つい最近、ある豪商から愛玩用としての将来性を見込まれて資金がつぎ込まれるまで、

ずっと資金難で苦労してきた研究施設だ。

そんな施設だから、ここに残っている職員は生粋の魔獣好きばかり、

自らの三度の飯を惜しんで、魔獣たちの三度の飯を用意するような者たちだった。


施設内の柵の中で、数十頭のホーンラビットたちが飼われている。

白い体毛。しなやかな四肢。額からピンと生えた一本角。天に向かって伸びた耳。

凛々しく、美しい。愛らしい。どこから見ても堂々たる“魔獣種のウサギ”だ。

ミレニアム周辺で見られる唯一のウサギ型をした魔獣の姿があちこちにあった。




ただし、一匹を除いては。




「……あー、また端っこに追いやられてる……」




飼育員のナナは、小さなウサギの背にそっと手をかざした。


その子は角が生えておらず、耳もふにゃりと垂れていた。

毛並みもどこかくせっ毛で、すぐに泥だらけになる。体も他のウサギより一回り小さい。

ホーンラビットたちは、その子を明確に避けていた。

餌の時間になっても、回し蹴りされるか、跳ね飛ばされるか。

仲良くご飯を食べる姿を1度も見たことがない。




「ごめんね……言って聞かせて、どうにかなるもんでもないからなぁ」




ナナは、魔力をたっぷり染み込ませた人参をそっと差し出す。

少しでも成長を促そうと、このウサギには特別な餌を毎回用意している。

垂れ耳は小さく鼻を動かし、控えめにポリポリとかじった。


食べても、角は生えない。耳も垂れたまま。体もさして大きくはなっていない。

けれど、ナナは信じていた。

“こんなに可愛いんだから、いずれ世界を獲れる!”

なお、どの世界の何を獲るのかは、彼女にも明確なビジョンがあるわけではない。


そんなある日のこと。

ミレニアムでは滅多におこらない野良の害獣による暴走事件が起こった。

ナナがいつものようにウサギエリアの掃除をしていると、

柵の外から異常な気配が迫ってきた。


破壊される金属音。叫び声。警報。野生の魔獣が研究舎に侵入したのだ。

それは激しい炎をまとい、頭部に三つの目を持った、熊のような魔獣だった。

ナナと一緒に掃除をしていた飼育員が、止めようとして簡単に弾き飛ばされる。




そして、魔獣の口から放たれた炎はホーンラビットの群れへ――




他のウサギたちがただただ震える中、垂れ耳の小さなウサギだけが、一歩前に出た。

決して震えていないわけではない、それでも前に出て四肢にチカラをぐっといれると、

魔獣の前に跳び出す!


炎をまとった魔獣が、自分から近寄ってくる美味しそうな獲物に雄叫びを上げながら、

舌なめずりをして襲い掛かる。




次の瞬間――




ズォンッという重い音と共に垂れ耳の背中から風が走った。

毛が逆立ち、空気が震える。

――背中に“黒い輪のような魔力翼”が現れた。




「飛んでる……!?」




ナナが叫ぶ。垂れ耳は空中を旋回して攻撃を避けると、敵の頭上に出た。

魔獣が見上げたときには既に遅い。

旋回した勢いそのままに、その長い耳をしならせると魔獣の首筋に斬りつける。

鋭く、的確で、決してパニックの中で生まれたマグレなどではない。それは狩りだった。

首がゴトンと落ちると、それでもしばらく走っていた魔獣が前足から崩れ落ちる。



ここに至って、ようやくナナは気づいた。

垂れ耳は“首狩りヴォーパルバニー”だったのだ。


どおりで角は生えないし、耳は垂れているわけだ。と納得する反面、

でもなんで?どこから?

ミレニアムの周辺にいるウサギ型の魔獣はホーンラビットしかいない。

それは数々の調査や、これまでの歴史から見ても間違いのないこと。


しかも、垂れ耳はこの育成舎で生まれており、

親ウサギがどちらもホーンラビットであることは、これも間違いがない。

だから、ホーンラビットの中での個性としか見られていなかった。




理論上は起こっていると考えられていた、動物や魔獣でのチェンジリング現象。

そのはじめての観測者として、ナナの名前は長く留められることとなる。




垂れ耳については、さらに気になる要素があった。

それは背に現れた”黒い輪のような魔力翼”。

ヴォーパルバニーに、本来そんな特徴はない。

ウサギというものは、どんなに高く跳ねても自由自在に空など飛ばないのだ。


これによって垂れ耳は、チェンジリングかつ異能の発現という特殊個体として、

ミレニアムの正式な研究対象となる。

以降、垂れ耳の生活は大きく変わっていくことになった。


ある日は東で魔力特性の検査、ある日は西で飛行能力の調査、

……ある日は南でニンジン農家の視察。

ある日は北で魔獣の侵入があれば、勝手に飛んで行って首をザクンッ!


お腹を空かせて泣いている子供がいれば飛んでいき、

咥えて持って行ったニンジンをそっと差し出して、器用に耳で頭を撫でる。

(それを見た親は、ひっ!と青くなって声を漏らす)


その活躍が、研究誌から新聞に、そして子供たち用の絵本になるまで、

それほど多くの時間はかからなかった。


後日。この騒動の記録報告には、こう記されていた。

「魔獣研究所の育成舎所属のホーンラビット飼育個体、名称未登録。

緊急事態において特定の種族固有の戦闘行動によりヴォーパルバニーであると判明。

また、異能の発現により飛行魔法を併用して撃退を行う。」


名称未登録のはずの垂れ耳だったが、

その報告書が子供たちに伝わるころには、彼の名はもう定着していた。

垂れロップウサギ(ラビー)……と……。

 

その姿を一目見ようと、きょうも多くの子供たちが訪れる。

あんなに静かだった魔獣研究所の面影は全くなく、味気ない普通の壁だった育成舎の壁は、

有志の子供たちによって描かれたファンシーな絵が所狭しと並んでいる。


ロップラビー!垂れ耳で、空を跳ぶ、みんなのヒーロー!

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