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第11話 訓練場 TRAINING HALL 『何も問題ない、曲がった』

第11話 訓練場 TRAINING HALL 『何も問題ない、曲がった』


ミレニアム魔法学校の東棟近くにある古い訓練場。

最新の魔法装置はないが、無駄にだだっ広くて多少壊してもあまり怒られないという、

前向きに後ろ向きな理由で貸し出され、今日はとある生徒が放り込まれていた。


グラド・バルヴァス

筋骨たくましい大柄の少年で、魔力の総量は常人のおよそ十倍。

けれどその制御はからっきしで、授業では爆発、試験では吹き飛ばし、対話では沈黙。


「……別に、怒ってるわけじゃないです」


それが、いつもの彼の口癖だった。

風の噂では似たような境遇の学生が他にもいるらしいが、特に面識はない。




そんな彼の指導係に任じられたのは、准講師のソレイユ。

小柄で快活な女性で、土系魔法の達人。


学校上層部の一部は、グラドの持つ常人の十倍の魔力量に期待しているらしく、

個人の指導用としては多すぎるくらいの魔力回復薬が提供されている上に、

古いとはいえ、この訓練場も一人の生徒のために3日間も占有期間が与えられている。

彼女は、グラドの指導がうまくいけば魔法学校の正式な講師の座を約束されていた。


「なるほど~、なるほどね」


指導にあたって作成された調書には、彼の魔法に関する情報が諸々記載されている。

そもそも操作が苦手なことに加えて、

彼は、保有している現魔力量の半分ずつしか出力できないという特性を持っていた。


万全の状態から魔法を打ち始めたとして、

最初の1発目は常人の5倍、2発目は常人の2.5倍、3発目は1.25倍、4発目は0.625倍……

それ以降は見るも無残な数値になっていくのだが、たいていはそこまでたどり着かない。

初期の5倍や3倍相当の魔法を発動した時点で、様々な暴発事故を起こしていた。


「なるほど、わかった!……いい? あなたの魔力は“まっすぐすぎる”の」

「そんなこと、今更言われなくても分かってます」

「えっ、なんか怒ってる?」

「……別に、怒ってるわけじゃないです」


調書通りの反応にニンマリすると、彼女は満足げにうなずく。


「よし!まずは曲げる訓練をしましょう」

「……曲げる?」

「ええ。真っ直ぐ進むだけなら壁にぶつかってオシマイ。

 でも、上手に曲げることができれば、

 それは強い“流れ”となって、きっとあなたを助けてくれるわ」


訓練の内容は、魔力球の曲線投射。

そり立つ壁の向こう側へ、弧を描くように上を飛び越えて魔力球を飛ばす。

ただそれだけの訓練。


訓練1日目、

グラドから放たれた魔力球は真正面に進み、

鉄球がぶつかるような硬質の音をたててボコボコと壁を壊し続ける。

壁と彼を交互に見つつ、ソレイユは笑いながら言った。


「よし、これで三つ目の壁も突破ね。貫通するまで残り一枚よ♪」


翌日も、彼女が魔法で作り直した障壁の向こうにむかって、魔力球を放り込む訓練。

見るからにグラドのモチベーションは下がっており、

放たれる魔力球も、心なしかノロノロと進んでいるように見える。

この日も上手くいかず、彼が壊した壁の数は前日よりも少なかった。


3日目の朝、グラドが言う。


「……俺、別に上手くなれなくても良いんです。

 ただ、人に迷惑をかけちまう、どうにもできない暴れる力を止めたい。

 こんな練習、本当に意味あるんですか?」


ソレイユは少しだけ考え、こう答えた。


「なるほど、分かった。じゃあ、きょうも訓練を続けよう♪

 力を抑え込むには、それ以上の力が必要になるんだよ?

 それって凄い疲れそうじゃない。そういうのは止めた方がいいんじゃないかな」


その日の午後。多めに用意された魔力回復薬にも終わりが見えてきた頃。

ノロノロと飛んで行ってはメリメリと壁を削っていく魔力球を見ていたソレイユは、

そういえばと思い出したように質問する。


「グラド君、魔力球を壁の向こうの地面に向かって撃ってるんだよね?」

「そうですけど……」

「手元から弧を描くように飛ばそうとしても、一直線に飛んでっちゃう。と?」

「だから、そうですけど?ずっと、見てるじゃないですか」


「なるほど、なるほど~。グラド君、上に向かって撃ってみて」

「はぁ……わかりました。(こんなの何の意味があるんだよ)」


ぶつくさと言いながらグラドの放った魔力球は、まっすぐに青空へ吸い込まれていくが、彼の制御距離を超えたところで、軽くブレると跡形もなく消え去る。


「なるほどね。じゃあ次は、壁の向こうの、いままで狙っていた着弾点の真上に魔力球を出して、下に向けて撃って」

「それでいいんだったら、今までやってた訓練は何なんですか!」


明らかにイラついた声をあげると、壁の向こうの空中から地面に向かって、グラドの放った魔法球がズドンと落ちて地面にくぼみを作る。


「なるほど。まあ、回復薬を飲んでのんで~~、回復した?」

「……はい」

「一番ノロノロな魔力球を、手元から真っすぐ壁の上に向けて撃って!」

「……はい」

「よしよし、壁に近づいてきたら~……

 はい!すぐに魔力球を自分の最大高度に出して、ノロノロ魔力球に撃ちおろす!」

「えっ、あ、はい!」




グラドの真上に作られた2つ目の魔力球は、物凄い勢いでノロノロ魔力球に投げ落とされ、

魔力球同士がぶつかり、ガキンッ!と音を立てて跳ね返る。


あとから放たれた魔力球は、跳ね返ってグラドの後ろに飛んでいき、

軌道を変えられたノロノロ魔力球は壁の向こう側へと着弾していた……。


「よし!魔力球は壁を越えて向こう側に着弾した。目標達成ね」

「え?えぇ……上手に曲げて強い流れとかいう、あの話はどうなったんですか?!」


「そういうところが“まっすぐすぎる”のよ。“流れ”に任せて自分を曲げるのも大事なことよ」

「いやでも、結局まっすぐしかできてないんですけど?」

「壁にぶつからず、オシマイにならない方法もあるって分かったから、いいじゃない」


発射地点から、壁の上を越えて、向こう側に着弾。何も問題ない。と言い切るソレイユに、

グラドは少し戸惑って、それから呆れたように不器用に笑った。




後日、訓練について提出した報告書を、ソレイユはこう書いて締めくくった。


「やっぱり、ひねくれ者になるよりは、まっすぐ育ってほしいですよね」


だいたい何処の訓練場を使っても、なにかしら壊すため、彼女への貸し出しは“あの訓練場”がお決まりとなっている。今回、訓練場の破壊については土魔法で直しておいたので、彼女はとても良いドヤ顔をしていたのだが、生徒用として支給された魔力回復薬を申告せずに相当数使って直したことがバレて、普通に薬代の請求書が渡された。


なお、当然だが正規に申告を行っていれば経費で落ちるし、怒られることもない。

彼女は、そういうことが面倒で苦手なタイプだった。


さらに、肝心の訓練に関する進捗についてはマイナス査定で大目玉を食らい……ソレイユ准講師が講師になる日は、まだまだ遠そうである。

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