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第1話 魔法の学校 SCHOOL OF MAGIC『入学式のことは良く覚えてる』

第1話 魔法の学校 SCHOOL OF MAGIC 『入学式のことは良く覚えてる』


“ミレニアム”に来てから三日目の朝、その日の空はやけに澄んでいた。


古びた尖塔と歴史を感じさせる校舎に出迎えられた私は、何人かの新入生と一緒に、案内係に導かれて入学式の会場へ入っていく。そこは石造りの講堂、木製の長椅子に腰かける新入生の顔ぶれは実に多様だった。


ぐるりと見まわしてみれば、銀髪をひとつにまとめた上品そうな老婦人。鉱山で石でも掘っていそうな筋骨隆々の男。東方の草原からやって来た遊牧民らしき女性。一緒に会場へ案内された全身黒い服の静かな青年。他にも、軍服らしき者、日に焼けた南国風、楽器を背負った旅芸人、さらには未だに幼さの残る少年少女まで……その中に、私もいた。


「ここが……ほんとうに魔法学校なんだ」


小さくつぶやいた声は、隣の男の子のクシャミにかき消された。少年は私より年下のように見えるが、手にしている杖には細やかな文様が彫り込まれていて、なんとなく“本物”の感じを醸し出している。そんなものを見てしまうと、ここにいる自分が場違いのように感じられた。


(私、こんなところにいていいのかな)


ついこのあいだまで、地方の市場で売り子をしていた。野菜の目利きは、まあそこそこかなと自負している。父親が病に倒れ、母親は畑で働き詰め。家族で魔法が使える者はいない。


ただ、ある日突然、私は街の石像を“なんと無し”に動かしてしまった。動かせてしまった。気がついたら、口を利く鳥がやってきて、あれよあれよという間に「入学許可証」を渡していった。まるで御伽噺のような、夢のような話。




講堂はざわめきに包まれ、それぞれの期待と不安が交錯していた。

その空気が一瞬で変わったのは、さして威圧感を持っているわけでもない、

ひとりの教師が壇上に立ったときだった。

深紫のローブに銀の留め具。足音すらざわめきに埋もれるほど静かだったが、

彼女が口を開いた瞬間にささやかな風が会場を吹き抜けて、講堂に静寂が降ってきた。


「ようこそ。わたしたちの、そして皆さん自身の旅の始まりへ」


私でも知っている。あの人がトワイライト先生。この初等科で最も古く、最も尊敬される教師。

年の頃は二十代前半のように見えるが、その瞳には深く遠い時間が宿っている。永遠の若さを持つ魔女。学舎の中で、彼女のことを知らぬ者はいなかった。


「魔法は、誰にでも開かれているけれど、

 “意志”や“願望”だけで、誰にでも手に入るというわけではありません」


彼女の言葉に、若干浮かれていた多くの新入生たちは少しだけざわめきを取り戻す。


「皆さんは、まだ1歩目を踏み出したばかりです。

 疑問や課題ばかりが増えていく時期もあることでしょう。

 だからこそ……皆さんには、魔法を楽しんでほしい」


私たちの中には、偉大な魔法使いとなる者もいれば、町の薬草師として静かに暮らす者もいるだろう。場合によっては、魔法の道から離れる者もいるかもしれない。しかし、どんな道を選んだとしても、学びに始まりはあっても終わりはない。


トワイライト先生は“ふっ”と笑い、少しだけ間をおいた。


「一緒に、学んでいきましょう。生涯をかけて、ゆっくりと」




その夜、寮の自室に戻った私の元に小さな包みが届いた。それは、魔法学校から送られた、入学記念の“魔法ノート”だった。表紙に書かれた文言は、不思議な金のインクで記されている。


“あなたの魔法は、どこから始まりますか?”


そっとノートを開き、ぎこちなく名前欄にメイ・ルーと鉛筆を走らせる。

その先になかなか進まない鉛筆のお尻をフリフリさせながら、

思案顔で視線を天井に向けてしばらく考えた後、入学式の感想と共に、こう書き添えた。


「私は、魔法のことを何も分かりません。

 でも、私は私のチカラの理由を解き明かすつもりだし、

 どうしてこんなチカラがあるのかを知りたい」


“意志”や“願望”はある。これで足りなければあとは何があれば良いのだろう?

さっそく最初の授業で先生に聞いてみようかと思ったが、

それはさすがに、少しは自分で考えてみなさいって怒られそうな気がした。

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