第一話 落ちこぼれの剣
静寂の夜、蒼い星が空を横切る。
それはただの流星ではなかった。
ソルステア歴二六三七年――“星の記憶”が、再び地上に託される。
‾‾
「……不合格だ、ルシエル=アリステリア。魔力反応、ゼロだ」
教師の冷たい声が、聖星学院の講堂に響く。
生徒たちの笑い声が波のように押し寄せる中、シエルは黙って立っていた。
「やっぱりな。アリステリア家の末裔とか言って、結局このザマかよ」
「星の祝福がない人間が、この学院に入れるわけないだろ」
言葉は、痛みよりも虚しさを連れてくる。
わかっていた。自分には“魔力”がない。
この世界で唯一、星の記憶アストレコルを読み取れない存在。
魔法も使えず、星読みの資格すら与えられない落ちこぼれ。
それでも、諦めきれなかった。
‾‾‾
「剣を振るって、何になる。魔法がすべてのこの時代に」
訓練場の片隅。古びた木剣を手に、シエルはひとり汗を流していた。
正確な打ち込み、無駄のない足運び。それは彼の孤独な日々が刻まれた証。
村の子供たちがからかっても、彼は黙々と剣を振り続ける。
「じいちゃんの剣だけが、俺の……居場所なんだ」
剣を構えたときだけ、自分が“何かになれる気がした”。
魔力がなくても、星の声が聞こえなくても。
剣は――裏切らない。
‾‾‾
その夜、祖父のヴァリウスが焚き火の前で静かに呟いた。
「……シエル、お前には“星”がなかった。だが、もしかしたら“剣”が呼んでいるのかもしれん」
「……え?」
「お前が振るうその剣……。かつての英雄も、同じ構えをしていた」
「“剣紋”というものが、古には存在した。星に抗う、剣の記憶だ」
「けんもん……? なにそれ、魔法みたいなもん?」
祖父はそれ以上語らなかった。ただ遠くを見つめていた。
「忘れろ。昔の話さ。……けど、もしもお前が、何かを“継いで”いるとしたら……」
その言葉は、夜の風に消えた。
‾‾‾
翌日、村の裏山にある“古い神殿”へ、祖父とともに向かった。
星を祀る神殿跡には、今や誰も寄りつかない。
だが、そこに――一本の剣があった。
「この剣……」
薄く光る青白い刃身。錆びていない。それどころか、まるで脈動するかのような光を放っていた。
「触れてみろ、シエル。お前の中に何かがあるのなら、きっと応える」
恐る恐る剣に手を伸ばす。
――その瞬間、背中に激痛が走った。
「――っぐ、ああああああッ!!」
焼け付くような熱。目の前が白く染まり、視界の中に光の紋様が浮かぶ。
背に刻まれるのは、剣を模した七つの線――“剣紋”。
「う……わ、これ……なに……?」
「出た……本当に、現れおったか……“黎剣の紋”が……」
祖父の声は震えていた。
それが恐怖か、それとも歓喜かは、わからない。
「まさか、お前が“継承者”だったとはな……。星に見放され、剣に選ばれし者……」
‾‾‾
その夜。
祖父はシエルの部屋を静かに叩いた。
「明日、お前にすべてを話す。剣紋とは何か、お前が何者か。そして……なぜ世界が、お前を恐れるのかを」
扉が閉まり、静寂が戻る。
だが、少年の運命は――もう、戻らない。
そして始まる。黎明の継承者の物語が。