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僕は断罪される公爵令嬢に恋をした ~彼女を救うためなら王太子だって敵に回す~  作者: ぱる子
最終章:愛の勝利とその先に

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最終話 幸せの形②

 誓いを交わした二人が、歓声に包まれながら立ち上がる。見守る人々の視線と祝福を一身に受ける中、司祭が改めて「それでは、指輪の交換をお願いいたします」と促すと、クラウスは小さな宝石箱を取り出した。


 箱を開けると、中には新たに(あつら)えられた結婚指輪が二つ並んでいる。先日、婚約指輪とは別に用意していた特別な品だ。飾り立てるより、二人の絆の堅牢さを示すような落ち着いたデザインが施されている。


「あなたとの新しい人生を大切にしたい……この指輪を、受け取ってもらえますか」


 クラウスはそう言い、レティシアの左手をそっと取る。かつてなら彼女は視線を外してしまったかもしれないが、いまは真っ直ぐクラウスの瞳を見据え、かすかな笑みを浮かべる。


「もちろんよ。あなたが選んでくれたものなら、心から誇りを持って身につけるわ」


 そう言いながら、レティシアは少しだけ指先を伸ばし、クラウスの動きを受け入れる。彼が彼女の薬指へゆっくりと指輪を嵌めた瞬間、会場にはひときわ大きな拍手が湧き上がった。


 ささやかな宝石が照明を受けて淡く光り、レティシアの深い瞳が喜びを反射している。それを見たクラウスは、微かに安堵と満足が混ざった笑みを漏らす。二人が長い道のりを経て、ようやく手にした結晶は、この指輪の輝きそのものだった。


 さらにレティシアは箱からもう一つ指輪を取り出し、「お待ちかねね」とでもいうように淡く微笑む。


「今度は、わたしからあなたへの番よ。ずっとわたしを守ってくれたあなたに、誓いを形にして返したいわ。」


 クラウスが驚いたように目を開くと、レティシアはそっと彼の左手を取る。そして少し恥ずかしそうにしながらも、指を伸ばして彼の薬指にもう一つの指輪をゆっくりと嵌めた。


「これでわたしも、あなたと同じ気持ちを同じ形で示せるわ。これからは、わたしがあなたを支える時だってあるのだから」


 小さく笑う彼女の声は、誇り高い令嬢としての威厳を保ちながらも、今は気負いのない優しさに満ちている。クラウスは、温かみを帯びた指先から伝わる感触を感じ取りながら、わずかに声を詰まらせつつ言葉を返す。


「ありがとう。レティシアがここまでしてくれるなんて、夢のようですよ。……どんなことがあっても、これを見ればあなたの存在を思い出せます」


 指輪を交わしたことで、二人の絆が確かになったと同時に、長い騒動を乗り越えてここに至ったという実感が一層深まる。先日の激しい事件や誤解、そして散々噂された過去が、目の前のこの幸福の瞬間を際立たせていた。


 満場の祝福がさらに高まり、広間は盛大な拍手と歓声で包まれる。そこでレティシアはクラウスへ向けてかすかに笑いかけ、その腕を取った。彼女の視線はまっすぐ彼を見つめていて、恐れているものなど何もないのだと物語っているようだった。


「あなたとなら、どんな未来も心強いわ。わたしたちが選んだ道に、胸を張って進んでいきましょう」

「もちろんです。すべてを失ったとしても、あなたを守り抜くと誓った以上、もう僕は二度と退くつもりはありませんから」


 互いにしっかりと手をつないで、人々の温かい視線を受けながら、二人は真正面を向く。かつては孤立していたレティシアが、今や胸を張り、愛を選び、正しい誇りを取り戻しているのだ。クラウスもまた伯爵家の次男である身分を超えて、いま彼女の横に立つ誇りを守ろうと決意を新たにする。


 指輪が象徴するのは、新しい人生の扉を開いた証。お互いの左手薬指に光るそれが、二人の想いを永遠に留めていくように感じられた。広間にはこれまでの試練をすべて洗い流すような拍手が響き渡り、レティシアは歓喜の拍手とともに明るく微笑む。いつかの悲壮感からは考えられないほど、今の彼女は満ち足りた表情を浮かべていた。


 この瞬間、誓いの儀式は完結した。二人は離れることなく、そのまま堂々と人々の前を歩み、皆の祝福を受けながら高らかに愛を宣言する。


 冷淡と言われた頃のレティシアや、次男と侮られた頃のクラウスの姿は、もうどこにもない。かつての争いの傷は、強い愛で覆い隠され、いまや輝くばかりの笑みと心の通い合いが周囲を魅了している。


 こうして、二人の絆は誰もが認める形で固められ、名実ともに新しい人生を歩み始める。過去に落ちた闇さえ、いまの愛の光に照らされて希薄な影を残すのみ――確かに幾多の試練はあったが、それがあったからこそ、二人の関係はより強固になったのだ。


「クラウス、これがわたしたちの『本当のスタート』ね。どうか、これからもよろしくお願いします」

「こちらこそ、レティシア。あなたの隣を歩いていられるなら、僕は何も怖くありません」


 二人はそっと見つめ合い、そして笑顔を交わして人々のもとへと進む。目の前には光にあふれた未来が延び、過去の痛みは乗り越えるための一歩に変わっていく。


 こうして、かつて誤解と断罪に苦しんだ公爵令嬢と、それを支え抜いた伯爵家の次男は、晴れて一つの家庭を築くことになった。王家の陰謀も、周囲の憶測も、今はただ二人の愛の深さをさらに引き立てる背景にすぎない。


 この夜、アルヴァトロス公爵家の屋敷を照らす灯火は、二人が得た幸せと、これから広がる新しい物語を象徴しているかのようだった。誰もが惜しみない祝福を送り、あの名高い公爵令嬢と心優しき伯爵次男の、すべてを乗り越えた愛を見つめている。


 その温もりの中で、レティシアとクラウスは互いの笑みを確かめ合いながら、もう誰にもさえぎられない道を歩き始めた。いつか王都を揺るがした陰謀の記憶は遠くかすみ、二人を結びつける強い絆こそが、これからの人生を明るく照らしている。こうして幾多の試練を乗り越えた二人は、真の幸福を手に入れ、そして誰よりも誇り高く、穏やかな未来を約束していた。


 その後、華やかな宴が始まり、客たちは再び飲み物を手に乾杯の声を上げる。あれほど大きな事件を経た末に訪れた大団円が、こうして貴族社会に新たな物語として語られているのを、レティシアとクラウスはひしひしと感じていた。


 確かに、これからの道のりにも波乱はあるだろう。伯爵家と公爵家の結び付きが国の政治にどんな影響を与えるか、王家との距離をどう保つか、難題は尽きない。だが、二人は心を通わせ、同じ目標を持っている。困難を前にしても、あの夜会で示した勇気と愛を思い出せば乗り越えられるに違いない。


「さあ、行きましょう、クラウス。あなたが手を引いてくれるなら、わたしはどこへでも行ける気がするわ」


 レティシアがくすりと笑いながら(ささや)くと、クラウスはその腕をしっかりと取り、堂々と歩み始める。人々の拍手や声援が背中を押し、二人は揺るぎない確信を胸に抱きながら、優雅なステップを踊るように本格的なスタート地点へ降り立った。


 見上げれば、屋敷の高い天井に飾られたシャンデリアが(きら)めき、花々が彩る庭園へと続く窓の外では、柔らかな風が吹いている。まるで、これからの二人を祝福するかのように、黄金色の夕陽が柔らかな光を注いでいた。


 かつて不当な断罪を受け、周囲から冷たい視線を集めた彼女が、いまは誰よりも愛される立場にある。その傍で最後まで彼女を信じ、守り抜いた彼との結ばれた姿は、貴族社会の人々に深い感動を与え、同時に新しい希望を抱かせた。


 こうして、長い時間をかけた戦いや苦しみを経て、二人は堂々と「夫婦としての道」を歩み始める。どんな困難が待ち受けようとも、心を通わせた二人なら乗り越えられる――そう確信させるだけの奇跡を、彼らはすでに成し遂げてきたのだから。


 満ち満ちた祝福の空気の中、レティシアは遠くの窓を見つめ、微笑む。あの王太子の事件で知った悲しみも、セレナが残した苦い記憶も、すべてを飲み込んで自分は強くなれた。そして今、その強さを分かち合う相手が隣にいることが、最高の幸せだ。


 人生で最も辛かった日々を超え、自らの意思で手を取り合った二人の物語は、ここで完結する――いや、より正しくは「新しい物語の始まり」と言っていいのだろう。手をつないだまま、クラウスとレティシアは観客の前を堂々と歩んでいく。未来へと続く扉が開かれたのは、この日の夕暮れ。王都を穏やかな光が包み込む中、誰もが二人に惜しみない祝福を送っていた。


 この先にあるのは、ひとつの幸せの形。激しい嵐のあとに咲いた鮮やかな花のように、二人の愛が大きく開花した瞬間が訪れたのだ。いつか訪れる新たな試練さえ、互いを高め合う糧になると信じられる――そう確信して微笑み合う姿は、まさしく最高の幸福を描き出していた。


(完)

 みなさま、この物語を最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。


 長い道のりを二人の登場人物――クラウスとレティシアに寄り添って描くことができ、とても充実した執筆の時間になりました。


 今後、この二人がどのような新しい物語を紡いでいくかは、また別の余韻として読者の皆様の想像に委ねることとします。それでも、彼らが共に歩む世界で、さらなる試練が待ち受けても、きっと二人なら乗り越えていくに違いありません。

 

 改めて、ここまで本作を読んでくださった皆様へ心からの感謝を申し上げます。

 お楽しみいただけましたなら、これ以上の喜びはありません。誇りと愛を失わずにいられる道が必ずどこかにある――そんな願いを込めて、この物語を締めくくらせていただきます。ありがとうございました。

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