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僕は断罪される公爵令嬢に恋をした ~彼女を救うためなら王太子だって敵に回す~  作者: ぱる子
最終章:愛の勝利とその先に

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第29話 それぞれの道①

 王都では、レティシア・アルヴァトロスとクラウス・フォルスターの婚約披露の宴が大きな話題を集める一方で、かつての騒動の首謀者とも言える王太子エドワード・オルディスの評判がどう変化するのかにも、人々の関心が注がれていた。事件の後始末から日が経ち、王宮からは公式な処分が発表されることはなかったが、社交界のあらゆる場でエドワードへ向けられる目は冷ややかだというのが実情だ。


 王太子という立場にあるため、彼が明確に廃位されるような事態は回避された。しかし、あの夜会での不当な断罪と、セレナ・グランという少女に対する過度の肩入れ――それらが公になったことで、エドワードを完全に信頼する者は減り、取り巻きの人数もめっきり少なくなった。


 とりわけ若い貴族たちは「殿下は思ったよりも人を見る目がなかったのではないか」「あの方は優しいだけで強い決断力に欠ける」といった噂を口にするようになり、同時にエドワードを表立って非難はしないまでも、距離を取る動きがあちこちで起こっている。


 王宮の中枢に仕える者たちの中にも、あの一連の騒動を通じて王太子の政治手腕に疑問を抱き始めた者がいた。とはいえ、現時点で王太子を否定して代わりを立てようとする動きは表面化していない。周囲は、時間をかけて王太子が失った評判を回復してほしいと考えているが、当のエドワードは心身共に疲れ果てているという噂が絶えなかった。


 その影響をもろに受けたのが、セレナ・グランという少女だ。彼女が抱えていた「弱く儚げ」な仮面は完全に()がされ、王太子派閥でかつて担っていた地位も失った。事件からほどなくして、彼女の姿は王都から消えたという。


 ある者は「セレナは他国へ嫁ぐか、もしくは辺境の領地へ隠れるように暮らすのでは」と推測し、また別の者は「完全に信頼を失い、公の場に戻る余地などない」と断じている。どれだけ真実が混ざっているかは定かではないが、少なくともセレナがレティシアや王太子の周囲に出現することはもうないだろうと、大半の人々が信じていた。


 やがて王太子自身も、セレナの行方を詮索する素振りを見せなくなったらしい。自らの甘い判断によって王太子妃候補の座からレティシアを遠ざけ、セレナの言葉を盲信した末に評判を落としてしまった――その事実を背負って、殿下はしばらく公の社交の場へ姿を見せる機会を減らしている。


 ただ、これらの状況が今後どう転ぶかは、まだ誰にもわからない。王太子は王家の要であり、いずれ王位を継ぐ立場であることは変わりないのだ。いつかは王太子としての責務を果たさねばならない時が来るだろうし、その時に評判を立て直すきっかけを得るかもしれない。


 だが少なくとも、今のところ王都では「王太子の名声は大きく揺らいだ」という認識が広がりつつある。それは皮肉にも、レティシアの「復活」と婚約発表が明るい話題として人々の口に上るほど、エドワードの立場が相対的に落ちていると見られるからだ。


 一方、騒動の背後で活躍したクラウスとレティシアを支えてくれた者たちは、今どうしているだろうか。


 まず公爵家で長くレティシアを見守っていた侍女たちは、主人の幸せを誰よりも喜んでいる。かつては遠慮がちに従うだけだった彼女らも、レティシアが本来の華やかさと優しさを取り戻したのを間近で感じ、「夜会の悲劇」以降の辛い時期を乗り越えたことを誇らしげに語っている。


 クラウスの周囲では、フォルスター伯爵家の使用人たちが大忙しの毎日を送っていた。伯爵家の次男が公爵令嬢と婚約したとなれば、様々な準備や調整が必要だ。貴族たちからは祝福の声と同時に細かい質問が寄せられ、屋敷には婚姻にまつわる書簡や贈り物が絶えない。


 それでも使用人たちは、「このお屋敷も華やかになるでしょうね」と楽しげだ。主君であるハンス伯爵の心配をよそに、クラウスが誠実に行動して結果を出したことで、かつてのような不安定な空気は消え、伯爵家全体が活気を帯びている。


 また、夜会の当日までレティシアとクラウスの行動を助けてきた友人や協力者たち――たとえば、クラウスが情報収集の際に手を借りた友人や、レティシアが公爵家で相談していた家臣たちも、それぞれが二人の幸せを心から喜んでいる。


 ある友人は、夜会後にクラウスのもとを訪ね、「まさかあの王太子派閥をひっくり返すとは思わなかったが、結果的には多くの人を救う行動だったな」と笑いかける。別の人は、「レティシア様のために頑張った君を見習いたいよ。次男でも道は自分で切り開けるんだな」と感嘆の声を漏らす。


 こうして、かつては「王家に楯突く無謀者」と噂されながらも、今は「誠実で頼りになる若き紳士」としてクラウスを見る人が増えたのだ。名誉は一朝一夕で築けるわけではないが、事件を通じて得た信頼は確実に彼の評価を高めていた。


 そうした周囲の動きとは対照的に、王太子エドワードとセレナの近況は完全に交わらない場所で展開している。冒頭で触れたように、エドワードが大きく責任を問われることはないものの、従来のような絶対的支持を社交界から得るのは難しくなった。


 一方セレナは、結局公の場には戻れず、噂によれば遠い領地へ身を退かせられたとか、他国の辺境へ嫁ぐ話が立ち上がっているとささやかれている。詳しいことを知る者は少ないが、少なくとも王都の貴族社会では彼女の姿を見かけることがなくなった。


 人々はそれを「自業自得」と評しながらも、わずかに同情の色を見せる者もいる。過剰に守られた結果、王太子との関係を利用してしまった少女。もし彼女がもっと違う道を選んでいれば、あるいは周囲を欺くような行動をしなければ、こうはならなかっただろう。そう考えると、悲しい結末だという見方もあるのだ。

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