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僕は断罪される公爵令嬢に恋をした ~彼女を救うためなら王太子だって敵に回す~  作者: ぱる子
最終章:愛の勝利とその先に

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第28話 婚約披露の宴①

 アルヴァトロス公爵家の広大な屋敷は、今夜、きらびやかでありながら優美な装飾に包まれていた。白と金のモチーフが交織する大広間には、幾重にも輝くシャンデリアが設えられ、伯爵家と公爵家の紋章が淡く照らされている。壁際では使用人たちが控え、招待客の誘導を落ち着いた所作で進めていた。


 その場が通常の夜会と違う空気を帯びているのは、誰の目にも明らかだ。クラウス・フォルスターとレティシア・アルヴァトロスの正式な婚約を公表し、祝福を得るための一夜――いわば、二人の新たな人生が始まる舞台だった。激動の事件を乗り越え、誤解と断罪を経て、いまようやく二人は堂々と並び立つことを許される。だからこそ、貴族社会がこぞって注目し、華やかな祝祭が用意された。


 音楽が流れ始める中、エントランスホールから大広間の奥まで、客たちが思い思いに語り合いながら移動している。アーチ状の天井を見上げる者、装飾に目を奪われる者、そして何より今日の主役二人を探す者――ざわめきはかすかな期待と祝福の入り混じった、穏やかな盛り上がりだった。


 奥の壇上付近では、アルヴァトロス公爵とフォルスター伯爵が並んで立ち、それぞれ招待客に挨拶をしながら目配せを交わしている。政治的な思惑は今でも少なくはないが、少なくとも今宵は「子どもたちのために」手を携える日。王太子エドワードの姿はなく、セレナ・グランも当然ながら招かれていない。あの騒動を引きずっているのか、それとも恥を忍んで来られないのかは定かではないが、誰もが「あの二人は出席を辞退したのだろう」と薄々察していた。


 こうして宴が整った後、やや遅れて大広間に二人が姿を現す。レティシア・アルヴァトロスは深みのあるブルーのドレスを(まと)い、銀色の髪を優雅にまとめて歩む姿に人々は息をのむ。かつての彼女を「冷たい美貌」として扱っていた者たちも、その気高さがいま真に解放されたのだと感じている。


 クラウス・フォルスターはやや淡いトーンの礼装を選び、落ち着いたマナーでレティシアの隣を歩く。かつては「伯爵家の次男」として陰に回りがちだったが、いまは堂々と「彼女を支える相手」として、世間の祝福を受けるに足る姿を示していた。


 二人は壇の中央へ進み、招待客の前で静かに揃って一礼する。すると人々の拍手が大広間を満たし、穏やかな音楽が静まるのを合図に、壇に控えていたアルヴァトロス公爵が一歩前に出る。


「皆様、よくお越しくださいました。本日は、わたしの娘レティシアと、こちらフォルスター伯爵家のクラウスの婚約披露の場を用意させていただきました。どうか、二人の新たな門出をお祝いくださると幸いです」


 改まった公爵の挨拶に、会場が静寂のうちに耳を傾ける。そして再び、盛大な拍手が響く。


 レティシアは、父の後ろから壇の中央へゆっくりと進み出る。あの夜会で、王太子に断罪される場面を思い出す者がいるかもしれないが、今日はあのときとはまるで違う空気だ。銀色の髪は月光のように輝き、ドレスの裾がゆるやかに揺れるたび、隣にいるクラウスの面差しも心強い。「かつての屈辱」など遠い昔のことのように思えるほど、レティシアの表情には穏やかさが宿っている。


「皆様には、長らくご心配をおかけしておりましたが……このたび、わたくしレティシア・アルヴァトロスは、クラウス・フォルスター様と正式に婚約を結ぶ運びとなりました。こうして多くの方が祝福に駆けつけてくださることを、心から感謝申し上げます」


 彼女が口を開くと、それまでざわついていた会場が次第に静まり、レティシアの言葉を聞き逃すまいと注視する。かつては「裏側で暗躍する高慢な存在」と噂されたレティシアだが、いまや「堂々と身を正し、真の力を示した令嬢」として広く認められている。周囲の視線には疑念よりも称賛が多く、微妙に視線を()らす者もいないわけではないが、表立って批判する者は見当たらない。


 続いてクラウスが一礼し、はっきりした声で言葉を継ぐ。


「私は伯爵家の次男という立場ではありますが、こうして公爵令嬢であるレティシア様の想いを得られたことを、何よりの誇りに思っております。まだまだ至らぬ点は多いかもしれませんが、彼女の隣にふさわしい者となるよう、尽力する所存です。何卒、皆様にも見守っていただければ幸いです」


 その言葉に、来賓たちから惜しみない拍手が寄せられる。さらに大きな拍手へと繋がっていくのは、二人の背後にいる公爵と伯爵が互いに笑みを交わしているのを認めたからだ。レティシアとクラウスの婚約は、すでに両家が合意している正真正銘の結論なのだと、ここに居合わせた誰もが理解する。


 この日のために用意された小さな演出があった。クラウスは胸元のポケットから小さな箱を取り出し、改めてレティシアの手を取る。少し前に渡そうとした婚約指輪――「控えめながら二人の強い絆を象徴する宝物」が再び現れ、それをいま正式に彼女の左手の薬指に()めるのだ。


 かつてレティシアが、クラウスの用意した指輪をその場でつけるよりも「もう少し整った形で披露したい」と希望したのが、この日の舞台で成就された。月夜を思わせる淡い輝きが、彼女の指先を飾り、まわりの貴族たちから感嘆の声が上がる。


「なんと美しい指輪……」

「伯爵家の次男がここまで誠実な贈り物を用意するとは……」


 耳に入るそんな(ささや)きに、レティシアは微笑んで応える。目の前には、王太子の時代には感じなかった温かさがある。クラウスは彼女に寄り添い、決してその手を離さないだろうと感じられる安心感が胸に広がる。


 人々も、レティシアが「冷たい悪評」を背負っていた頃の記憶は、もはや過去のものだと捉え始めている。こうして穏やかな笑みを浮かべ、伯爵家の次男と仲睦まじく並び立つ姿には、「本来の高潔さ」と「真の優しさ」が匂い立つように感じられるのだ。

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