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僕は断罪される公爵令嬢に恋をした ~彼女を救うためなら王太子だって敵に回す~  作者: ぱる子
第9章:結ばれる想い

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第27話 公爵令嬢の答え②

 ふいにドアがノックされ、控えの侍女が入りかけるのを見て、二人は小さく笑い合う。噂好きな屋敷の人々は、もうすでに「二人がここで婚約を確認したらしい」という話をささやき始めていることだろう。レティシアはわずかに照れながら、侍女に声をかけた。


「ごめんなさい。もう少しだけ時間をちょうだい。大事な話がまだ終わっていないの」


 侍女は驚いた様子で一礼し、扉をそっと閉める。その向こうでは、使用人たちが顔を見合わせて嬉しそうに微笑んでいるのが手に取るようにわかる。公爵家の令嬢が、ようやく幸せを(つか)もうとしているということは、大きな喜びでもあるのだ。


 静かになった応接室で、レティシアはクラウスに向き直る。


「これから周囲が騒がしくなるわ。あなたも伯爵家でいろいろ言われるかもしれないけれど……わたし、自分の意思だということをはっきり示すつもり」


 クラウスは力強くうなずき、レティシアの言葉を胸に刻む。


「ありがとう。僕もあなたが自ら選んでくれたのだと堂々と言えるよう、誠心誠意を尽くします」


 二人はこくりと(うなず)き合う。まるで長い戦いの終着点がここにあるかのようだが、実際には「新しい物語」が始まる合図とも言える。王太子の事件の傷跡はまだ残るし、家や政治の問題も完全には片付いていない。


 けれど、何より大事なのは、レティシアが己の意思でクラウスを受け入れたこと。クラウスがその誓いを表明していること。両者が同じ道を歩む決意を固めた瞬間、周囲の雑音はまるで遠のいていくようだった。


「わたしたちの道は、まだ試練があるでしょうね。でも……クラウスと一緒なら大丈夫だって、思えるの。これがわたしの正直な気持ち」


 そう言い終えたレティシアの表情は、驚くほど穏やかで、それでいて喜びが(にじ)む柔らかな笑みだった。かつて「高慢」だと噂されたころの鋭さはそこになく、ほんの少し照れながらも心から微笑んでいる。


 クラウスは、その変化がたまらなく愛おしく感じられて、思わず胸が詰まるような思いになる。正式な結婚宣言がなされたわけではないが、もう二人の中では「ずっと一緒にいこう」という答えがはっきり刻まれているのだ。


「これから、正式に婚約を公表する段取りを整えましょう。わたしも近く、わたしの父とあなたの父が再度対面する場を設けられるよう手配します」

「了解しました。僕も伯爵家の人々に早めに伝え、祝福を得られるように動いてみせます。大丈夫、父も最終的には応援してくれるはずですから」


 それを聞いたレティシアは、今まで見せたことのないほど素直に笑い、そしておもむろにクラウスへ手を伸ばす。一瞬目を見張る彼に向けて、ささやかな感謝と愛情をこめた目線を送る。


「あなたがどんな場所にいても、わたしはあなたを頼りにしていいのね? もう一度だけ、あなたの答えを聞かせて」

「……はい。僕はあなたの隣を離れません。どんな困難があっても、あなたを護りたい」


 そのやりとりを最後に、レティシアは視線を落としつつも、クラウスの手をぎゅっと握る。互いのぬくもりを感じる指先から、安堵と幸福がじんわり広がっていく感覚。


 こうして、アルヴァトロス公爵家の令嬢と、フォルスター伯爵家の次男は、一筋縄ではいかない道を選びながらも、確かな婚約への一歩を踏み出した。


 扉の外には、すでに「二人が結ばれるらしい」という噂が駆け巡り、使用人たちの間に小さな祝福の輪が広がり始めている。その光景を前に、レティシアはかつて見せたことのない「素直な笑顔」を浮かべ、クラウスの腕を取ってともに立ち上がる。


「行きましょう。わたしたちには、やるべきことが山ほど残っているもの」

「ええ。新しい人生の始まりですから」


 こうして公爵家の扉が開かれ、二人が歩み出ると、柔らかな陽の名残が二人を照らした。かつて王太子との婚約を失った苦い記憶も、長く誤解を受けた日々も、すべてが過去のものになりつつある。今や二人の周囲には、「愛と信頼」という新たな絆が生まれ、屋敷の外にも祝福の風が流れ始めているようだ。


 王太子との一件で負った傷は、完全に消えるわけではない。けれど、クラウスとレティシアは確かに前へ進んだ。婚約を公表し、その後に待ち受けるだろう政治の問題も、家格の差も、二人ならば超えていけると信じられるだけの自信がある。


 こうして、伯爵家と公爵家を繋ぐ新たな物語が始まる。遠くからは、早くも祝福の声と、期待する(ささや)きが混ざり合って聞こえてくる――二人の決断が、やがてこの国にどんな風を呼び込むのか。誰もが胸を高鳴らせながら、次の章を楽しみにしているかのようだった。

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