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僕は断罪される公爵令嬢に恋をした ~彼女を救うためなら王太子だって敵に回す~  作者: ぱる子
第8章:騒乱のあとさき

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第23話 問いかけられる未来②

 ある日の午後、クラウスは意を決して公爵邸を訪ねた。公的な用件ではなく、レティシアに直接会って、近況や彼女の心境を聞きたかったからだ。玄関まで通されると、侍女が庭園にいるレティシアへ取り次ぐと言う。


 待ち受けた庭園は、花の彩りが鮮やかに映える美しい場所で、レティシアが一人で散策をしていた。まだ少し冷たい風が吹くが、日差しは穏やかで過ごしやすい。


「いらっしゃい、クラウス。いま仕上げるべき書簡がひと段落して、少し息抜きに庭を回っていたところよ」


 淡々とした口調ながら、どこか柔らかな気配が伴っている。クラウスはほっと安心しながら、彼女の隣を歩き始める。


「あなたは……周囲からいろいろ言われているんじゃないかしら? わたしと共に王太子へ立ち向かった結果、噂が変に広がっているとも聞くけれど」

「ええ、少なくとも『伯爵家の次男の分際で王家に逆らった大胆者』とか『公爵令嬢を得ようと企んでいるのでは』とか、いろいろ言われてはいます。気にするほどでもありませんが」


 クラウスが苦笑混じりに答えると、レティシアは(かす)かに笑った。公爵家の令嬢としての彼女は周囲のまなざしに慣れているが、クラウスにとっては政治的な注目が一気に集まるのは初めての体験かもしれない。


「でも、あなたを批判する声ばかりでもないでしょう? むしろ、わたしの名誉回復を実現した立役者として、一目置く者も増えているわ」

「そのようですね。父はまだ困惑しているようですが、僕自身はさほど悪くない状況だと思っています」


 実際、クラウスは伯爵家の中でも強く叱責されずにいる。それは、彼の行動が結果として伯爵家の名を大きく高める結果になったからだ。


 だが、同時に周囲の関心は「クラウスがレティシアをどうするのか」という将来的なところに向かっている。伯爵家と公爵家の婚姻を勧める声もあれば、周囲が余計なお世話で騒ぎ立てることに嫌気がさしている者もいる。


「わたしは、あなたが何を考えているのか、はっきりとは聞いていないわ。今後、伯爵家の次男として、この国の未来にどう関わっていくのか……正直、気になるわね」


 レティシアが視線を横に向け、静かに問いかける。彼女にとっても、王太子との破談後、再び王家の話題に引きずり込まれるのは避けたいはずだが、周囲は「もう一度、レティシアを王妃候補にしてはどうか」と言い始めてもいる。まるで彼女の未来が他人の思惑で決まっていくかのようだ。


 クラウスはその問いに答えようと、少し言葉を探した末、遠くの木々を眺めながら口を開く。


「……正直、王位継承がどうなるかなど、僕の力が及ぶ範囲ではないと感じています。でも、少なくとも、あなたが再びあのような不当な扱いを受ける状況だけは避けたい。そんな気持ちが一番強いですね」

「つまり、わたしを守りたいと?」

「はい。それが僕にできることなら、ぜひやりたいと思っています。レティシア様の隣に立てるかどうかは……結局、あなたの意志次第で決まることですが」


 その言葉に、レティシアは(かす)かに頬を染めた。彼女がかつて王太子の隣に立つと信じて疑わなかった頃と、今の状況は大きく異なる。自分の誇りを理解してくれる、同じ方向を向いて歩ける相手が、すぐそばにいる――そう思うだけで心が温かくなるのを感じる。


 だが、彼女もまた、すぐに「わたしの隣にいて」とは言えない性格だ。政治的な不安もあるし、王家の継承がどう転ぶか見えない今、安易に踏み込めばクラウスを危険に晒すかもしれないとも思っている。


「……ありがとう、クラウス。その言葉だけでも、わたしは充分救われる気がするわ。王家を敵に回してまで、わたしを(かば)ってくれたあなたの行動力や真っ直ぐさは、本当にすごいと思う」

「いえ、僕は……レティシア様の誇り高さに惹かれたんだと思います。どんなときも自分の信念を曲げないところが、わたしには尊く見えて」


 静かに寄り添い合う二人の姿を、遠目で見ている侍女たちが、穏やかな微笑みを交わしている。かつてはギスギスした空気ばかりだった公爵家も、今やこうして落ち着きを取り戻し、主を見守る余裕が生まれているのだ。

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