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僕は断罪される公爵令嬢に恋をした ~彼女を救うためなら王太子だって敵に回す~  作者: ぱる子
第7章:華の舞台

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第20話 暴かれる真実③

 会場は騒然とし、レティシアのもとへ駆け寄って(うやうや)しく挨拶をする貴族さえ現れる。先ほどまで彼女を敬遠していた者も、「どうやら真実が違っていたのか」という気配を感じて、あわてて態度を変え始める。


 セレナの膝が(ふる)え始め、まるでこちらに縋りつくようにエドワードの腕を(つか)む。だが、王太子である彼はその手をどう扱っていいか戸惑い、視線を宙にさまよわせるだけだった。


 この場で何かを弁明しようとしても、提示された証拠と証言を(くつがえ)す手段がない。むしろ、反論すればするほど矛盾が露わになるだろう。


 レティシアは淡々と胸を張り、深い息を吐き出した。


「ここでわたくしはすべてを終わらせたいわけではありません。もし殿下が本当に騙されたのなら、それ相応の釈明をしてくださればよろしい。ですが、今はっきり申し上げられるのは、『セレナ・グラン嬢によるわたくしへのいじめ被害』は虚偽である、ということ。それを断罪として利用してきた方々も、事実を誤認していたと認めるべきでしょう」


 クラウスも最後の言葉を付け加えるように声を張り上げる。


「伯爵家の次男として云々はさておき、いち貴族として、真実を(ゆが)める行為を見過ごすことはできません。今夜こうしてお示しした証拠が、あなた方の行動にどれだけの誤りがあったかを証明しているはずです」


 会場を包む空気が大きく変わり始めた。王太子とセレナを信じていたはずの貴族たちが、次々と耳打ちし合いながら距離を取ろうとする。先ほどまでの歓迎ムードは失われ、壇上の二人は立ち尽くすしかない。


「……レティシア、き、きみは……どこまで……」


 エドワードが声を絞り出すが、もはや反論の余地も薄い。セレナが必死に取り(つくろ)おうとしても、それを援護する言葉が見つからない。


 貴族たちのどよめきは最高潮に達し、「これが本当に真実なら、王太子殿下の判断はあまりに軽率」「セレナという令嬢も怪しすぎる」など、あからさまに批判が上がり始める。


 こうした反応はレティシアにとって待ち焦がれた瞬間でもある。嘘と詐術によって誤解をかけられた日々が、ようやく終わりに近づくのかもしれない。


 やがて、そこここで耳打ちをし合っていた貴族の何名かが、意を決したように壇下へ集まり始めた。彼らは王太子を求めるように視線を向け、「事実関係をはっきりしていただきたい」と声を上げる。もはや王太子という立場だけでは人々を押さえつけられないのだ。


 エドワードの顔には敗北感がにじんでいる。今やセレナを「正しき伴侶」と紹介する名分を失いかけているうえ、レティシアの実直な証拠が場を制してしまった。一部の取り巻きは王太子のもとに駆け寄るが、的確な弁明が思いつかないらしく、ただオロオロするばかり。


 こうして、レティシアが自らの名誉を取り戻すために準備してきた「切り札」が、夜会という舞台で炸裂した。その衝撃は王太子派閥を深く揺さぶり、セレナが言葉を紡げないまま(うつむ)く姿に、貴族たちが痛烈な視線を注いでいる。


 クラウスはレティシアに視線を送り、静かに微笑んだ。彼女もかすかな笑みで応じる。その間、血の気を失ったようなセレナの腕を、王太子はどう扱えばいいのか戸惑っているが、ここに至っては王太子派閥が先に言いだした断罪の構図が一転、彼らこそ被告の立場になりつつあった。


 大広間は次々と声が上がり、目も耳も忙しい混乱を極めている。けれど、その騒ぎの真ん中で、レティシアとクラウスはしっかりと立ち、すでに次の一手を考えていた。この場を制しているのは、もはや彼らと言っても過言ではない。


 かつての「悪者」扱いから一転して脚光を浴びるレティシアの姿を、誰もが驚きとともに再評価し始める。彼女の名誉が回復されるまで、あとほんの一押し――そんな雰囲気が広がり、会場は騒然としながらも新たな流れを受け入れ始めていた。


 こうして、長く続いた誤解や陰謀を吹き飛ばすがごとく、レティシアは自らの潔白と、エドワードとセレナの隠された偽りを公然と暴いたのだ。王都でも指折りの大規模な夜会で、事実が明るみに出る。この光景が、やがて次の瞬間へと繋がっていくのは誰もが感じ取っていただろう。


 王太子の地位を守るためにレティシアを悪者に仕立てた事実が露呈しかけ、セレナの虚偽の涙が観衆の前で()がれていく。貴族たちは息を飲みながら、貴重な真実の一幕を目撃していた――そして、その結末を固唾(かたず)を飲んで待ち受けているのだ。

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