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僕は断罪される公爵令嬢に恋をした ~彼女を救うためなら王太子だって敵に回す~  作者: ぱる子
第7章:華の舞台

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第19話 決戦の夜会②

 レティシアは立ち止まり、王太子に視線を合わせるように頭を上げる。周囲は一瞬静寂に包まれる。それは、次の瞬間、何か大きな出来事が起こるのではないかという予感から生まれる沈黙だった。


 クラウスはその背後で緊張を噛みしめていたが、レティシアが少し肩を落とすように息を吐くのを感じ取る。彼女は今こそ闘いに臨む覚悟を固めている。


「ここでわたしたちはすべてを暴く」――その意思を二人はあらかじめ確認している。手に入れた証拠、協力者たちの証言、それらを夜会の場でどう提示するかは、すでに打ち合わせ済みだ。問題は、いつどのタイミングで仕掛けるかという一点にある。


「クラウス、準備はいい?」


 レティシアが(ささや)くように問いかける。クラウスは(かす)かに(うなず)き、声を潜めて応じた。


「もちろんです。こちらの資料はすべて揃っています。いつでも動けますよ」

「……そう。なら、わたしは少しだけ周囲の様子を見てくる。何が起こるか分からないから、しっかり目を配っていて」


 そう言い置いて、レティシアは優雅に会場を回り始める。傍らのクラウスも少し遅れて歩調を合わせる。華やかに笑う令嬢たちや、音楽を楽しんでいる貴族が向ける好奇の眼差しが、二人をじっと観察しているのをひしひしと感じる。


 そして、まるで待ち構えていたかのように、派閥の一員らしき青年が近づき、軽く挨拶を交わした。


「これはこれは、公爵令嬢もいらっしゃったのですね。お噂は存じておりますが、今夜はいかがお過ごしになるのか楽しみです。……伯爵家の次男殿もご一緒とは、なかなか意外な組み合わせですな」


 その声音は丁寧だが、どこか嫌味と探りを含んでいるのが見え透いている。レティシアは涼やかに微笑み返してみせる。


「わたしがどう過ごそうと、あなたには関係ないでしょう。もっとも、この華やかな場を楽しんでいるだけではつまらないものですから、何か興味深い話題でも見られればと思っているだけよ」


 レティシアの刺すような言葉に、青年は苦笑しながら一礼し、そのまま立ち去っていく。その背中からは「何かを企んでいるのでは」という勘ぐりが見え隠れした。


 こうした微妙なやりとりが会場の至るところで行われている中、王太子エドワードが壇上へと足を運び、場が一気に静まり返る。視線が集中する中心で、エドワードはセレナの手をとり、微笑ましいポーズを取りながら、出席者たちを見渡した。


「皆様、今宵はご多忙のところお集まりいただき感謝いたします。本日は……」


 王太子が言葉を発するたび、人々は耳を傾けながらも、レティシアの出方を気にしている。セレナは相変わらず柔らかい笑みを浮かべ、まるで自分こそが主役であると主張するかのようにうなじを見せていた。


 クラウスはその様子を見ながら唇を引き結ぶ。彼とレティシアの間では、どのタイミングで切り札を出すかが肝要だと繰り返し話し合ってきた。もし早まれば、王太子派閥がそれを力ずくで封じ込めようとするかもしれない。逆に遅すぎれば、王太子が一方的にセレナとの婚約を宣言し、会場を味方につけてしまうだろう。


(焦らず、でも決して遅れずに。レティシア様を見ながら呼吸を合わせよう)


 クラウスは胸中でそう誓い、改めてレティシアの方を盗み見る。彼女はまるで隙のない姿勢のまま、その銀色の髪を輝かせながら壇上をじっと見つめていた。


 今夜こそが決戦の舞台――そう思うと、彼らがこれまで注いできた努力のすべてがこの場に集約されるかのようだった。


 王太子が口火を切り、セレナとともに自分たちの「正しい結びつき」を宣言しようとする瞬間、レティシアとクラウスの戦いがいよいよ幕を開ける。豪華な夜会は、華麗なる宴ではなく、幾重にも緊張をはらんだ決戦の香りを帯びていた。


 大広間には、誰もが一触即発の空気を感じている。笑い声は続いているものの、その底には得体の知れないざわめきが潜み、まるで爆弾を抱えたままの祝宴のようだった。


 レティシアはクラウスと視線を交わし、(かす)かに(うなず)く。すべての準備は整っている。あとは、自分たちの手で事実を示すだけだ。貴族たちのゴシップなど一瞬でかき消してみせる――その覚悟が、二人の胸にしっかりと息づいている。


 こうして、再び集う華の舞台は、いよいよ運命の夜を迎えた。華やかさと不穏さが混じり合う中、レティシアとクラウスは自らの意志を貫くべく、臨戦態勢を崩さない。そこには、人々がまだ知らない真実と、二人の熱い覚悟が満ちていた。

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