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僕は断罪される公爵令嬢に恋をした ~彼女を救うためなら王太子だって敵に回す~  作者: ぱる子
第7章:華の舞台

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第19話 決戦の夜会①

 どこまでも高い天井には、金色の装飾が惜しみなく施され、幾重にも連なるシャンデリアが琥珀色の光を大広間いっぱいに投げかけていた。磨き上げられた大理石の床には、集まった貴族たちが色とりどりの衣装をまとい、まるで花畑のように群れをなして華やいでいる。


 その夜会は、王太子エドワードが主催するとあって、王都でもとびきり格の高い行事だと評判だった。裾の長いドレスを(まと)う令嬢や、紋章付きの上着を着こなす紳士が次々と入場し、会場には早くも音楽とさざめきが満ちている。ある者は壁際で繊細なレースを自慢げに見せ合い、またある者は盛大に笑いながらワインのグラスを揺らしていた。


 しかし、その(きら)びやかな空気の裏側には、妙に張り詰めた気配が混ざり合っているのを、多くの貴族たちが感じ取っていた。どうやら、今夜はただの祝賀や歓談で終わるものではないらしい――誰もが、どこか落ち着かない面持ちで、この夜の行く末を予感しているのだ。


 会場の中央には、特に派手な装飾が施された小さな壇が用意されていた。そこには王太子エドワードと、その隣に微笑むセレナ・グランの姿がある。セレナは、淡いクリーム色のドレスに繊細な刺繍をあしらい、見るからに儚げで純粋な雰囲気を醸し出している。


 彼女は周囲に向かって時折はにかむように微笑み、王太子と視線を交わすたび、さらに笑顔を深めていた。まるで自分こそが王太子に相応しい伴侶であると示すかのように、その姿勢はどこか誇らしげにすら見える。


 一方、エドワードは穏やかな表情を保ちつつも、その瞳の奥にはなみなみならぬ意志が宿っていた。先ごろから囁かれている噂――レティシア・アルヴァトロスへの批判を改めて強調し、この場でセレナを「正しい伴侶」として認めさせる、そうした構図を作り上げようとしているのは誰の目にも明らかだった。


 周囲を取り囲む貴族たちは、美酒を口にしながら盛んに会話を交わしている。けれど、そのうちの何人かはチラチラと入り口の方を(うかが)い、ある人物の登場を待ち構えていた。


「レティシア・アルヴァトロスは今夜現れるだろうか?」「もし姿を見せたら、いったいどんな顔をするのかしら」――そんな(ささや)きが至るところで交わされ、音楽とともに不穏な緊張感を会場へ拡散していく。


 そうしたざわめきが高まる中、入り口近くがわずかに騒がしくなった。見れば、一組の男女が堂々と姿を見せる。


 美しい銀色の髪を夜空のように引き立てる深いブルーのドレスで現れたのは、レティシア・アルヴァトロス。そして、その隣には伯爵家の次男であるクラウス・フォルスターが控えるように歩んでいた。


 レティシアは凛とした(たたず)まいで、一点の曇りも見せない。周囲の視線を受け止めながらも、まるで「ここはわたしの戦場」とでも言いたげな威厳があり、その姿は誰の目にもひときわ目立つ。クラウスもまた、深い色合いのタキシードを身にまとい、堂々とした足取りで彼女をフォローしていた。


 この光景に、大広間が一斉にどよめく。セレナと王太子を中心に据えた祝福の雰囲気を作り上げようとしていた派閥の面々が、一瞬動きを止める。明らかに緊張の走る空気が二人の到着とともに濃厚になったのだ。


「レティシア様、来たのね……やはりあの方も黙ってはいなかったわけだ」

「あの伯爵家の次男、なぜあそこまで肩入れしているのかしら。何かあるに違いない……」


 あちこちで低い声が交わされつつ、視線はレティシアとクラウスに集中する。ゴシップ好きの貴族たちは、それぞれ思い思いの想像を膨らませながら、今夜こそ何か起こると期待しているようにも見えた。


 そんな周囲の反応を感じ取りながらも、レティシアは一歩ずつ奥へ進んでいく。並ぶ貴族たちが自然に道を開ける中、クラウスも後ろから視線を感じつつ、しかし堂々と胸を張る。


 ちらりと見る先では、王太子エドワードがセレナを伴って壇に上がろうとしている。その表情は落ち着いて見えるが、目元にはわずかな警戒の色が浮かんでいた。彼もまた、レティシアの登場は当然予想していたが、いざ現れるとやはり簡単にはいかないのだろう。

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