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僕は断罪される公爵令嬢に恋をした ~彼女を救うためなら王太子だって敵に回す~  作者: ぱる子
第6章:公爵令嬢の逆襲

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第18話 破滅への序曲①

 夜の闇が深まる王宮の一角で、エドワード・オルディスとセレナ・グランが、静かに言葉を交わしていた。窓を厚いカーテンで閉ざし、周囲からの視線を遮断しているのは、外部に動きを知られたくないからだ。


 テーブルの上に広げられた書類は、彼らがここしばらくの間に生じた「問題」を解決するための策を練る際に用いてきた資料。そのいずれもが、レティシア・アルヴァトロスとクラウス・フォルスターの行動を阻害するために使われてきたものであり、今やエドワードとセレナには切羽詰まった焦燥感が漂っている。


 先日手にしたはずの優位性が、いつの間にか揺らぎ始めた。王太子であるエドワードの威光に、少しずつ不審を抱く者が出てきているのは事実だし、セレナもまた、周囲から「本当に弱いだけの少女なのか」と疑われ始めている。


 だが、今さら後戻りはできない。レティシアを完全に(おとし)め、王太子派閥を盤石に固めるためには、もう一段階、強引な手段を使うしかないという結論に達しようとしていた。


「セレナ、ここにある貴族名簿を見てみろ。いまだに我々の動きに懐疑的な者や、中立を保っている者が少なからずいる。こういう連中を買収なり脅しなりして取り込めば、あの公爵令嬢が何を言おうと誰も聞かなくなるはずだ」


 エドワードが低い声でそう告げると、セレナは一瞥(いちべつ)してからかすかに笑みを作る。


「その通りですわ。少々荒っぽい手ではありますが、今やそれを惜しんでいられる状況でもありません。あの二人が手に入れたという証拠が、どれほど効果的なものかはわかりませんが……放っておくのは危険ですもの」


 二人のやり取りは、すでに正当性を装うという範囲を超え、「どうレティシアとクラウスを踏み潰すか」という方向に向かっていた。もっとも、王族であるエドワードがあからさまに脅迫や買収を指示するわけにはいかない。そこには取り巻きや側近が協力することで、表向きは「王太子の知らないところで勝手に行われる」といった形を整える必要がある。


 しかし、エドワードの派閥内にも微妙な亀裂(きれつ)が生まれつつあった。もともと、王太子殿下に忠誠を誓う者たちは、彼が公正な道を歩むことを信じて付き従っている面がある。だが、最近のあまりに露骨なセレナ偏重や不自然な噂の流布は、彼らの道徳観や政治観と衝突し始めているのだ。


「それにしても、王太子殿下が少し強引すぎるのでは……」

「これでは、殿下の評判まで落ちるのではないか」


 そんな声が取り巻きたちの間で小さくささやかれ、エドワードの派閥内での結束は徐々に揺らいでいる。表立って反対する者はいないにせよ、裏で不満を抱く者が増えれば、いずれは深刻な内紛を招きかねない。


 一方、その兆候を察知しているレティシアとクラウスは、離れの書庫で最終的な計画を詰めようとしていた。先日手に入れた決定的な証拠をどう扱うか、その公表の場として「近々開催される大規模な夜会」を狙う案が有力に浮上している。


 王宮の広間を借りる形で行われるその夜会には、多くの貴族が一堂に会する。王太子とセレナが表舞台で「公爵令嬢の悪行」を改めて糾弾するつもりなら、逆にこちらもそこを利用して、彼らの虚偽を暴き返す絶好の機会といえた。


「どうやら、あの夜会は王太子殿下自身が主導しているらしいわ。セレナとの連携を再度アピールし、わたしを徹底的に否定するシナリオを想定しているはずよ」


 レティシアが険しい表情で言葉を続けると、クラウスも深刻そうにうなずく。


「こちらの噂が広がる前に、王太子派閥が一挙に畳みかけてくる可能性が高いですね。まさに最後の手段を行使する気なのでしょう。だからこそ、そこが狙い目です」


 エドワードたちが強引な手を使うほど、周囲は彼らに不信を抱きやすくなる反面、実行力をもって攻められればレティシア側にとっては大打撃を受ける危険もある。


 だが、これまで積み重ねてきた証拠がそろった今ならば、王太子派閥の強硬策に対してカウンターを狙える余地がある。夜会の場で、エドワードがどれだけ華麗にセレナを擁護(ようご)しようとも、レティシアが当日決定的な証拠を提示してしまえば、王太子派閥の企みは大きく揺らぐだろう。


「この夜会で証拠を公開するとなれば、当然リスクも高いわ。一瞬で『国への反逆だ』と糾弾される可能性もある。でも、わたしはもう躊躇(ちゅうちょ)しない。この機を逃せば二度と取り返せない気がするの」

「僕も同じ意見です。王太子殿下を前に(おく)するかどうかで、勝敗が分かれるでしょう。今こそ、堂々と事実を示すべきです」


 クラウスの言葉を聞いて、レティシアは胸の奥が熱くなる。かつては、自分ひとりで戦うのが当然だと考えていたが、今はクラウスの存在がどれほど大きな支えか実感している。二人でなら、この危うい駆け引きにも打ち勝てるはずだと信じたくなるのだ。

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