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僕は断罪される公爵令嬢に恋をした ~彼女を救うためなら王太子だって敵に回す~  作者: ぱる子
第6章:公爵令嬢の逆襲

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第16話 決定的証拠②

 ちょうどそのとき、扉の向こうで控えていた侍女が顔を(のぞ)かせる。彼女の表情は緊張を帯びており、小声で言いづらそうに告げた。


「お嬢様、フォルスター様。先ほど、屋敷の周辺で見かけない人物がうろついているとの報告がありました。どうやら、わたしたちの動きを探っている可能性があるようです」

「やはり……。王太子派閥に内通者がいるのか、それとも密偵を送り込んできたのか。わたしたちの動向を詳しく把握して、証拠を潰そうとする狙いかもしれないわね」


 レティシアは唇を軽く噛みながら、クラウスへ視線を向ける。こうした状況下では、大事な書類が漏れる可能性は常に頭をもたげてくる。


「となると、タイミングを見誤れば一瞬で逆手を取られる恐れがありますね。こちらの計画がバレたら、彼らはあの手この手で隠蔽や妨害を進めるでしょう」

「ええ。でも、だからこそ正面から勝負できるとも言えるわ。この証拠を確実に公表すれば、王太子派閥とセレナは言い逃れできない。少なくとも、わたしが“いじめをした”という嘘は完全に崩せるはずよ」


 レティシアは決して甘い見通しを持っているわけではない。むしろ、これが最後の大きな勝負だと強く認識しているからこそ、闇雲には動けないのだ。


 一方、クラウスも同様に警戒している。もし内部にスパイがいれば、証拠の隠滅だけでなく、思わぬ流言が先回りして流され、彼らが悪者として弾劾される可能性すらある。


「……身内からも警告がありました。伯爵家の一部が、王太子派閥の圧力に折れて『クラウスの行動を監視する』という約束を交わしたらしい、という話があるんです。事実かどうか、まだ確認は取れていませんが……」

「あなたも気をつけて。あの方たちは、わたしたちの足元を揺さぶることにかけては容赦ないはず。そんな時こそ、余計な情報を広めず、信用できる人にだけ伝える仕組みを整える必要があるわ」


 二人は顔を見合わせる。先ほどまで勝利への高揚感があったが、同時に不安や警戒感が入り混じる状態でもある。


 それでも、レティシアは封筒を手に取り、改めて強いまなざしをクラウスに向けた。


「それでも、成功への手応えを感じるわ。もしこの証拠さえ公式の場で披露できれば、セレナの偽証は一目瞭然。王太子派閥が今後いくら反論しようとしても、周囲の目が厳しくなるはずよ」

「はい。しかも、これまで集めた使用人たちの証言や、あなたの過去の実績を証明する資料も合わせて提示すれば、『レティシア様が悪い』というシナリオは大崩れするでしょう」


 二人の心が一致しているのがわかる。敵の動きは巧妙だが、彼らの手元には確固たる切り札がある。その事実が支えになり、不安を抱えながらも、前に進む勇気を与えてくれる。


 何より、これまで数多くの協力者たちが犠牲を覚悟で力を貸してくれた。その期待に応えるためにも、後戻りは許されないと二人は感じていた。


「王家を相手に戦うのは並大抵のことじゃない。でも、わたしの名誉を取り戻すには、もう王太子という存在を避けるわけにはいかないわね。ここまで来た以上、堂々とぶつかるしかない」

「そうですね。僕も初めは恐怖を覚えていましたけど、もし真実を明らかにできるのなら、必ず味方になってくれる人は出てくるはずです。王太子派閥でも、セレナの嘘に疑念を抱く者はいるんですから」


 レティシアは深く息をつき、机の上に集めてある他の書類にも目を走らせる。そこにはセレナの嘘を示す数々の証言や記録が集められている。個別には弱い証拠でも、全体を通じて一貫した事実を示せれば、決して無視できない力を持つだろう。


 クラウスもまた、手持ちの情報を整理しながら強く(うなず)く。すでに二人は多くの危険を乗り越えてきた。内部スパイの存在がちらつこうとも、決定的な証拠があれば相手の隙を突くことができる。


 書庫の窓の外からは、朝の光が差し始めていた。薄暗さが少しずつ消えていくように、彼らの戦いにも光明が見えつつある。その光を見逃さぬよう、レティシアは瞳を上げる。


「もう躊躇(ためら)っていられないわね。この証拠をどこで、どう公にするか、それを吟味しましょう。王太子派閥に不意打ちされる前に、わたしたちが先手を打てる形を考えないと」

「はい。時期を誤れば、相手に先を越されるかもしれない。僕たちが攻めに転じる瞬間を、慎重に見極めましょう」


 言葉を交わすうちに、二人の心がさらに固く結束していくのを感じる。互いの存在を確認し合いながら、進むべき道を照らす――それこそが、今のレティシアとクラウスにとっての最大の支えだった。


 そして、机の上の紙束に手をやりながら、レティシアは静かに微笑む。厳しい戦いを目の前に控えているというのに、その笑みには確かな自信がある。クラウスもまた、それに呼応するように少しだけ口元を緩める。


「絶対に、彼女の嘘を暴いてみせる。その先にわたしの名誉と、あなたが捨てようとした正義が報われる道があるはずよ」

「ええ。必ず成功させましょう」


 こうして、レティシアとクラウスは本格的な「逆襲」を準備する決意を固めた。スパイの存在が示唆(しさ)される中、失敗すれば全てを失うかもしれない危険な賭け。だが、決定的証拠という光を手にした二人の瞳には、もはや迷いは少なかった。


 次なる一手をどう打ち、どの場で公表するか。二人は具体的な作戦を始動させるための緻密な議論に入る。その先に待ち受けるのは、王太子派閥との正面衝突――けれども、これまで苦しめられてきたレティシアにとって、ここが正念場であることは疑いようもない。


 書庫に差し込む朝陽が、彼女とクラウスの足元を照らす。決定的な証拠の光を握りしめ、覚悟を新たにする姿は、今まさに最終決戦へと踏み出すためのものなのだ。

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