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僕は断罪される公爵令嬢に恋をした ~彼女を救うためなら王太子だって敵に回す~  作者: ぱる子
第4章:すれ違う想い

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第12話 再び同じ方向へ①

 翌日、書庫に朝陽が差し込み始めたころ、レティシア・アルヴァトロスはいつもより少し早く机に向かっていた。前夜はクラウス・フォルスターと若干の交流を深めたものの、これまでのすれ違いを完全に解消するには至っていない。


 けれど、「わたしたちは明確な目的を共有している」という感覚が以前より強まったのは確かだった。王太子派閥の疑わしい動きを暴き、自身の名誉を取り戻す。それが二人の共通の誓いだと、改めて認識できたからだ。


 ほどなくして、扉の向こうから人の気配がし、静かなノック音が響く。レティシアが「どうぞ」と声をかけると、クラウスが遠慮がちに顔を出した。やや睡眠不足の面差しは変わらないが、昨日よりは多少気分が安らいでいるようにも見える。


 クラウスはペコリと頭を下げると、前に座ったままのレティシアに声をかけた。


「おはようございます。今朝は、なるべく早めに来ようと思って……」

「わたしも同じつもりだったわ。今日は早いのね」

「はい。せっかく調整した時間を無駄にしないように、と考えまして」


 その短いやりとりに刺々しさは感じられなかった。決して明るく和やかな雰囲気とは言い難いが、先日までのギクシャクした空気よりは幾分ましだ。二人は軽く視線を交わすと、それぞれ机の上の資料を確認し始める。


 しばらくの間、会話もなく淡々と紙をめくる音だけが書庫に響いていた。レティシアはセレナ・グランの過去の動向について書かれたメモを読み返し、クラウスは王太子派閥の側近名簿や噂話の出どころを整理した紙を取り出している。


 やがてクラウスが口火を切った。


「これまでに得た情報を、もう一度整理してみませんか。セレナや王太子派閥の動きは日ごとに活発化している気がしますし、そろそろ次の手を打たないと……」

「そうね。わたしも同感。あの人たちが『新たな証言』を取り付ける前に、こちらとしても確固たる証拠や筋書きを示したいわ」


 レティシアは言いながら、机の引き出しから綴じられた数枚の書類を取り出した。それは、セレナが「いじめ被害」を訴えた特定の日付とレティシアのスケジュールを照合した対照表、さらに王太子派閥が動いたと思しき金の流れや人事異動の記録など、多岐にわたる内容がまとめられている。


 クラウスはそれを受け取り、一枚ずつ丁寧に目を走らせた。


「なるほど、これだけ並べてみると、確かに不自然な点が浮かび上がりますね。セレナが『あの日に呼び出され、侮蔑の言葉を浴びせられた』と言っていたとき、実際にはレティシア様が公の会合に出席していた証拠がある……。それも複数の証人がいる場だった」

「そうよ。わたしだけでなく、同席した貴族たちが全員『わたしがその時間どこにいたか』を証明できる。もし必要なら、この出席名簿と会の議事録も公開できるわ」


 その出席名簿には、複数の爵位ある者の名が連なっている。彼らの証言を得られれば、セレナの訴えが事実無根だと証明するには有効そうだった。


 クラウスは感心したように微苦笑しながら、紙の束をトントンと揃える。


「こうした客観的な証拠が増えれば、王太子派閥も安易に押し通せなくなるはずです。ただ、彼らは政治力を駆使して隠蔽や捏造を続ける可能性があるので、タイミングは慎重に考えたいですね」

「同感よ。わたしがその名簿を手に堂々と人前で言い張るだけでは、相手も『そんなものは偽造だ』などと言いかねない。王太子派閥の取り巻きは、こちらを断罪するためには手段を選ばないでしょうし」


 二人の会話は淡々と進むが、その合間にもわずかな気遣いが見受けられる。互いが互いを尊重し、昨日までに比べればずっと自然に意見交換ができている。


 レティシアは続けて、セレナの「過去の関係者」にまつわる資料を取り出した。


「それから、これはセレナの実家に近かった使用人の証言。どうやら、彼女はそれほど『弱々しい』人物ではなかったようなの。むしろ、自分の地位を守るためにはどんな言葉も巧みに使うタイプだという話があるわ」

「……やはり。あの夜会で見たとき、僕も違和感があったんです。王太子殿下の前だと涙を見せながら一歩後ろに下がるように振る舞っていたけど、あれは演技にも思えて……」


 セレナが王太子の庇護を得るために、あえて「弱く儚い女性」を演じている可能性は高い。彼女には王太子を利用してでも社会的地位を上げたいという野心があるのかもしれない。


 そう考えると、クラウスとレティシアが抱いていた疑念がより強固な形を帯びてくる。単なる噂ではなく、セレナ自身が計算づくで行動している――そこに王太子派閥の後ろ盾が加わり、捏造した「いじめ被害」の話を拡散している可能性が高いのだ。


「やはり、彼女の過去をもう少し深く探る必要があるわね。わたしの人脈の中には、王太子殿下周辺と付き合いのある者もいるし、そこから情報を得られるかもしれない」

「僕も協力します。王太子派閥の動きを探っている知人がいて、その人から書状が届く予定なんです。どうやら王太子の側近の一部が不審な書類のやり取りをしているらしく……内容を確認できれば、大きな手掛かりになるでしょう」


 そこで、クラウスは手帳を開き、日程を書き込む。彼とレティシアは次の打ち合わせの頻度や調査の分担など、具体的な計画を立て始めた。


 途中、レティシアがふと見やると、クラウスは真剣な表情で手帳にメモを取りつつ、時折チラリとこちらを(うかが)う。彼の微妙に揺れる瞳を目にし、レティシアは胸の奥がこそばゆいような感覚を抱いた。


(この人、やはりわたしのことをとても気遣っている……? ただの義侠心以上のものが感じられるけれど、どう捉えればいいのか。)


 それが恋愛感情に近いものなのか、彼女はまだはっきりと認めきれない。公爵令嬢としての責務や名誉回復という重大な問題を抱えているときに、個人的な情に流されるのは避けるべきだとわかっているからだ。

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