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僕は断罪される公爵令嬢に恋をした ~彼女を救うためなら王太子だって敵に回す~  作者: ぱる子
第3章:噂の糸口

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第8話 動き始めた調査①

 翌朝、クラウス・フォルスターは早い時間から小間使いや執事らを呼び出し、こまごまとした用事を頼み始めた。書簡を整理してほしいとか、馬車の準備をしてほしいとか、雑務も交えながらあちこちに指示を飛ばしている。それらは彼自身が大まかに計画していた行動の一環だった。王太子派閥からの圧力が強まる中、あえて動いてみせることで何らかのきっかけをつかめるかもしれない――そう考えたのだ。


 父ハンスに(とが)められるのは覚悟の上だったが、これ以上じっとしていても得られるものは少ない。前日までに収集した情報に基づき、レティシア・アルヴァトロスとセレナ・グランの過去を知る可能性がある人々へ、まずは地道に当たってみることにした。


 手始めにクラウスが向かったのは、以前、レティシアとセレナの両名が通っていたという貴族学校の関係者が住む区画だ。とりわけ、王都の中心からやや離れた一角には教師たちの家が点在しており、彼らは貴族の子弟に学問を教えるために呼び寄せられることも多いらしい。


 朝のうちに家を出たクラウスは、軽く準備した馬車に乗り込み、目的地を目指す。道中、父の執事からは「伯爵様のご意向を無視して行動しておられるのですから、くれぐれも問題を起こされませぬよう」と再三釘を刺されたが、彼はただ小さく(うなず)くばかりだった。今さら引き返すつもりはない。


 貴族学校に関連した教師や職員の住居を訪ねるのは簡単ではなかったが、どうにか一人の元教師に面会する許可を得る。応対に出てきたのは、上品な初老の男性で、教鞭を取っていたころは学術や礼法を貴族の子弟に叩き込んだという。クラウスが名を告げ、多少の謝礼を示すと、渋々ながら客間へ通してくれた。


「フォルスター伯爵家の次男殿……あなたは、一体何をお知りになりたいのですか。私は今、学校を退職して静かに暮らしたいのですが」


 低い声でそう切り出した教師に対し、クラウスはできる限り失礼のない口調で尋ねる。


「お時間を頂いて恐縮ですが、少し前に王太子殿下の婚約破棄があり、その一件でセレナ・グランとレティシア・アルヴァトロスの間に何らかの問題があったと伺いました。もし先生が彼女たちを教えていた時期に、何かお気づきのことがあれば、お教えいただきたいのです」


 教師は一瞬、考え込むように目を閉じる。やがて、ひそやかな声で口を開いた。


「確かに、レティシア殿とセレナ殿は同年代で、同じ時期に貴族学校に在籍しておられたはずです。ただ、あまり深く交わっていた印象はありませんでしたね。レティシア殿はプライドの高いお方でしたが、勉学や礼法には熱心で、むしろ周囲に干渉するような方ではなかったように思います。セレナ殿については……申し訳ありません、当時はあまり目立つ生徒ではなかったと記憶しています」

「そうですか。ちなみに、セレナがレティシア様に『いじめられていた』という話はご存じでしょうか」

「いじめ、ですか。近頃、町でもそんな噂を耳にしますが……私の知る限り、当時、そのような事実は一切なかったと断言できます。むしろ、レティシア殿は表向きは淡々と振る舞われていましたが、周囲を明らかに傷つけるような行為をするお方では……少なくとも私は見たことがありませんね」


 クラウスは心の中で大きく息をついた。やはり、一部には「いじめ」を裏付ける確固たる証拠は存在しないらしい。ただし、教師という立場上、隠れた事実を見逃していた可能性もゼロではない。それでも、この証言は十分価値のあるものだ。


 ただ、教師は続けて慎重な面持ちで付け加える。


「とはいえ、殿下の関係が絡む以上、私のような一退職者が下手な話を広めるのははばかられます。ですから、この件についてあまり大っぴらに問われても困ります。どうかご理解ください」


 王太子派閥の力を恐れているのだろう。クラウスはその気持ちも十分に察しながら、教師に深々とお辞儀をして屋敷を後にした。わずかでも得られた証言を糸口に、次の手を考える必要がある。


 午後には、学校時代の友人をあたってみようと考えた。レティシアとは親しくないが、セレナとも何度か顔を合わせたことのある子女たちがいると聞く。だが、彼女らの反応も決して好意的とは言えなかった。


「ええと……フォルスター様、でしたっけ。レティシア様のことをお知りになりたいのですか?」

「そうです。特に、セレナ・グランとの関係について何かご存じであれば教えていただきたいのですが」


 軽く声をかけただけでも、相手はこわばった表情を見せる。まるで「そんな面倒な話には関わりたくない」という気持ちがありありとうかがえた。説得を続けても、言葉は尻すぼみになり、最終的には「私にはよくわかりません」「あまり覚えていない」と曖昧(あいまい)に逃げられてしまう。


 なかには確信を持っている様子がありながらも、王太子派閥の圧力を恐れ、証言を拒む者もいるようだった。わずかに見せた表情から「本当のところは違うのでは」と言いかけたものの、結局は口をつぐんでしまう。クラウスが説得しても「ごめんなさい……私には無理です」と泣きそうな顔で去っていく始末。これでは情報収集どころではない。

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