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僕は断罪される公爵令嬢に恋をした ~彼女を救うためなら王太子だって敵に回す~  作者: ぱる子
第3章:噂の糸口

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第7話 王太子派閥の影②

 クラウスは一冊の手帳を開き、そこにメモしてある情報を改めて読み返した。王太子派閥の名士、セレナの周囲で仕えている侍女、過去にレティシアと顔を合わせたことのある関係者――書き込みは散乱としているが、どうにか点と点を結びつける糸口を探っている最中だ。


「これだけ根回しが行われている以上、彼らは必ず『決定打』を握ろうとしているはず。そうじゃなければ、あそこまで強気にレティシア様を追いつめるのはリスクが高すぎる……」


 小声で考えをまとめながら、彼は焦る気持ちを抑え込む。いかにレティシアが誇り高く反論したとしても、根拠を積み上げられればどこかで隙を突かれ、完全に敗北しかねない。しかも、時間が経つほど噂は強固になり、世間の認識は固定化されていく。


 王太子派閥の後ろ盾は計り知れない。王族という血筋に加え、宮廷内の有力貴族からの支援も受け、さらにセレナを「救う」ことで王太子の慈悲深さをアピールしている。政治的にも抜かりのない動きだろう。このまま放置すれば、真実がどうであれ、レティシアが完全に不利な立場に陥ることは目に見えている。


 だからこそ、クラウスは情報の裏を取り、レティシアの名誉を取り戻す手段を探すことが急務だと感じていた。幸い、彼女も「話をする機会」を認めてくれた以上、手に入れた情報を伝え、次の手を共に考えることができるかもしれない。


「……ここまで周到に仕掛けられているとなると、セレナもただの被害者じゃなさそうだ。やはり何かある……」


 そう(つぶや)いたとき、廊下でノックの音がした。使用人が来客の報せを伝える。何でも、王太子派閥に属している貴族の使者が、急ぎの要件を伝えたいと言っているらしい。


 クラウスは嫌な予感を抱きながらも、応対せざるを得ない。伯爵家の次男といえど、いきなり門前払いにしては事を荒立てるだけだ。かといって、余計な言動をすれば父からの叱責(しっせき)が待っている。


 やがて面会した使者は、遠回しにこう告げてきた。


「フォルスター伯爵家は、今後も王太子殿下と円満な関係を続けていく意思がおありでしょうか。もしあるのであれば、余計な混乱を招くような行動は控えていただきたいのです。たとえば、公爵家との接触なども……」


 それは紛れもない警告だった。王太子派閥が、クラウスの動きを警戒している証拠でもある。彼がレティシアに協力しようとしていることを、どこかで嗅ぎつけたのだろう。


 「円満な関係」という言葉を盾に、伯爵家がこれ以上レティシアに肩入れしないよう牽制する。この種のやり方は、勢力同士の水面下の闘争では定番だ。だが、それに大人しく従えば、今後はレティシアに近づくどころか、彼女を完全に見捨てる形になってしまう。


 使者を送り出したあと、クラウスは深いため息をついた。王太子派閥からの圧力は確実に増している。それだけ彼らが「レティシアの名誉回復」を脅威だとみなし、どうにか潰してしまおうとしているのだ。


「これは……時間との勝負かもしれないな」


 クラウスは乱雑になった書類をまとめながら、心の中で決意を固める。彼はもう、父の顔色をうかがって立ち止まるわけにはいかない。噂が不自然に膨らみ、セレナがそこに乗じて同情をひたすら集めている現状を放置すれば、レティシアに反撃の機会はほとんど残らなくなるだろう。


 彼女の信用を守るためには、王太子派閥が流布している話の裏をひとつずつ暴いていくしかない。セレナの泣き言の真偽も吟味し、矛盾があれば証拠を手に入れる必要がある。さらに、単なる流言とは違い、王太子の周辺が意図的に行っている「工作」があれば、それを突き止めることが効果的な一手となるはずだ。


 窓の外を見ると、いつの間にか夕陽が差し込んでいた。淡いオレンジ色の光が床に影を落とし、書斎の中に長い陰を作っている。


 これから先、クラウスの行動はさらに厳しいものになるだろう。王太子派閥に(にら)まれながらも動くというのは、家族や使用人にも迷惑をかけるかもしれない。だが、彼はそれでも引き下がるつもりはなかった。


 あの夜会で見たレティシアの姿が、いまだに胸に焼きついている。敵意に囲まれながらも折れず、ひたすら孤独と戦っていたあの誇り高い姿――それを思い返すたび、「自分ができることをやらないで諦めるわけにはいかない」という気持ちがこみ上げてくるのだ。


「レティシア。どうか、もう少しだけ時間をください。僕は必ず、この噂の闇を(つか)んでみせますから……」


 クラウスは静かにそう(つぶや)いてから、手帳を閉じ、椅子を立ち上がった。まずは自分の周辺で得られる情報を整理し、具体的な行動計画を立てねばならない。あまり長くはかけられない。王太子派閥があからさまにプレッシャーをかけてきた以上、一刻も早く反撃の糸口を見出さなければ、彼らの思惑通りにレティシアが完全に沈んでいくことになりかねないからだ。


 灯の落ちかけた書斎で、薄闇の中にクラウスの決意だけがはっきりと浮かんでいた。彼は自らを奮い立たせるように拳を握りしめ、机上の書類を鞄へ詰め始める。


 宵闇が王都を包む頃、王太子派閥の陰謀はなおも進行中であり、セレナの涙は人々の同情を集め続ける。だが、クラウスの胸には強い覚悟が芽生えていた。レティシアを守るために、自分なりの戦いを始める――それが、いまの彼を突き動かす大きな原動力だった。

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