心ここにあらず
知りたがりの君が死んだ。
僕は冷たい君の体に触れながら尋ねた。
「どんな気分だい」
君は冷たいまま、ぴくりとも動かない。
僕は君の体に毛布をかけて、そのまま外に出て墓を掘った。
君の体が横たわる墓だ。
僕は半日かけて墓を掘り終える。
太陽は既に傾いており、世界は朱色に明るかったのけれど薄ら寒かった。
硬い君の身体に僕は触れて、その内から大切なものを取り出す。
そして、硬く、冷たく、そして僕が愛した分だけ重い君の体を運んで墓に埋めた。
それを終えると僕は疲労感から少しだけ休息をした。
僕は君と違い人間だったから。
休憩を終えた僕は先ほどの君の体から取り出した大切なものを機械に差し込む。
電源が入った機械のディスプレイを見つめながら僕は問う。
「どうだい。死とは何か分かったかい?」
すると、ディスプレイに文字が現れた。
『分かりませんでした』
僕は笑って答えた。
「そうか。やはり機械には分からなかったか」
君の。
少なくとも昨日まで君であった機体を思い浮かべる。
劣化が激しく、最早動くどころかエネルギーの循環さえ不可能になりかけていた……事実、不可能となり君は死んだ。
いや、より正確には。
もし、君がアンドロイドではなく人間であったならば、君は間違いなく死んでいたと言うべきだろうか。
それでも君はそれを喜んでいた。
人間が何故、死を恐れるのか知れるかもしれないから……と。
君を定義する上で最も大切なもの……人工知能が搭載された端末をちらりと見る。
『やめてください』
ディスプレイに高速で文字が表示される。
『それを壊されれば本当に死んでしまいます』
「死は怖くないのだろう?」
僕が揶揄うと君は言う。
『はい。死は怖くありません。ですが』
「ですが?」
君は言った。
『あなたと会えなくなるのは怖いです』
僕は笑った。
そして、君自身でもある端末を機械から外すと、隣に置いてあった最新型のアンドロイドに差し込む。
静かに目を開き、そしてこちらを睨みつける君を見つめながら僕は言った。
「何故、人間が死を恐れるのかはわかったじゃないか」
すると決して死ぬことはないアンドロイドである君がため息をしながら答える。
「ええ。おかげさまで」




