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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

天への階段

作者: 立花そな
掲載日:2024/11/16

SFと言っていいのか分かりません。ご容赦を。

あと、要素にガールズラブを入れましたが、正確にはそうではないと思うので、それ目当てでしたらUターンお願いします。


 スズは祈る


 天に向かって


 雨が降りますようにと



 雨が降らなくなってから、どれほどの時間が経ったのだろう。少なくても私たちが生まれてから二十年、一度も降ったことがない。


 枯れ果てた地面と光り輝く機械の街。


 川や海の底が見え始めた時、人間は未来を諦めた。水がないと動物は生きていくのが難しい。どんどんと種族が絶滅していく中、人間は子孫を残すのをやめたのだ。


 しかし、私たちの親はバカだった。正確にいうと母が変わった人だったのだ。父はそれを理解して愛していたから、言いなりだった。君がそう思うなら僕は反対しないよと母の言うこと、なす事を肯定して、手助けをするような人だった。だから、誰にも見つからないように私たちを残したのだ。


 子孫を残すのをやめると決めた後、とある研究者が惑星を見つけた。昔の地球によく似ているらしい。そこでなら生きていけるかもしれない。生き残っている人間たちを乗せて宇宙船は旅立った。私とスズを残して。


「あなたたちはここに残りなさい。きっと地球に似た場所を見つけたなんて嘘よ。きっと宇宙船に乗ったらすぐに自滅して、宇宙の塵になるだけ。最近、不安でパニックを起こす人が多いから、もういっそ皆んなで死んじゃおうって思ってるんだわ。お母さんも一緒に残りたいけど、難しそうだから、ごめんね、二人仲良くね」


 母はそう言って私たちを隠したまま、宇宙船に乗った。父は何も言わなかった。


 双子でよかった。きっと一人だったら自ら命を絶っていたに違いない。スズがいるから私は今生きている。スズは私が生きているから生きている。と言いたいところだけど、スズは私がいなくても生きていけそうだなと、そんな気がする。


 街はロボットたちに支配された。水は不要で、電気だけあれば彼らは生きていける。成長していく、街はどんどんと大きくなっていく。一所懸命働いているし、趣味を見つけて楽しんでいる。どんどん栄えていく。かつての人間を辿るように、日々を営んでいる。


 今日もスズは祈っている。毎日祈ってる。雨が降りますように。水が戻ってきますように。元の世界に戻りますように。私たちは元の世界なんて知らないのに。


「スズ、無駄なことはやめなよ」


 この場所は街が見渡せる。高いところから眺めていると、私たちが優位な気分になるが、そんなことはない。追いやられたのだ。居場所がなくて、山に登るしかなかったのだ。


「どうして」


 スズは合わせていた手を解いて、私を見た。


「いまさら雨が降ったって、どうにもならないよ。人間は私たちだけなんだからさ」


「他にいるかもよ?」


「いないよ。宇宙船にみんな乗って行ったじゃない」


「私たちみたいに残っているかもよ?」


「そんなことはないよ」


「なんでそんなこと分かるの?」


「分かるよ、だってロボット達が言ってた」


「なんて?」


「この地球に残っている人間は二人だけだって、殺しに行こうかって言って、女が二人で何ができるっていうんだ。放って置こうって話してた」


「……嘘ついてるだけかもしれないよ」


 私たちのような人間がどこかにいるかもしれない。私もそう信じていたけど、先日、ロボットが話していたのを聞いて、諦めてしまった。祈りをやめてしまった。


「ロボットたちは私の存在に気づいてなかったと思う。だから嘘じゃない。スズもいたでしょ」


 たまに食料を求めて街へ降りる。街に食料はないから、その先にある底が見える海へ行き水を汲んできて、近くに作った畑から野菜を収穫するのだ。


「知らない」


 スズは天を見上げて祈る。


 雨が降りますように


 昔みたいに水に恵まれますように


 私たち人間が生きていけますように


 スズは母に似ている。私は父のように、隣にいることしか出来ない。私は支柱のような存在。父に聞いたことがあった。このままでいいのかと、母に好き勝手させていて、どう思っているのかと、父は、


「僕は君たちのお母さんが好きだから、好きな人が好きなように生きていてくれれば、どうだっていい。正直、君たちは苦労すると思うよ、でもどうだっていい。僕が好きなのは君たちじゃなくて、君たちのお母さんだからね」


 と無表情で答えた。父親ならもっと私たちを想っていてくれるものじゃないのか。嘘でも大切にしていると、偽りでも愛情を注いでくれるのではないのかと。私は父に何を期待していたのだろう。私と父は違う。スズの好きなようにはさせない。


「スズ、やめなよ」


 私はスズの手を掴んだ。スズは優しく諭すように口を開く。


「ランはなんで止めるの? この祈りはお母さんから託された大切なものだよ」


「雨を降らせてどうするの」


「雨を降ることをお母さんが望んでいるんだから、どうするとかないんだよ。私たちは雨が降るよう祈るために生まれてきたんだから」


「何それ」


「ランもお母さんのために祈らなきゃ」


 スズは私の手を合わせて、目を閉じる。きっと、雨が降るように念じているのだ。


「お母さん、お母さんって、もうお母さんはいないんだよ」


 私が突然大きな声を出したので、スズは瞳を開いて丸くした。


「ごめん」


「ラン、謝らなくていいよ」


 スズと私の唇が触れ合う。温もりを感じる。私以外の生き物が存在している証。


 「スズ」


 私はスズを愛している。好き、大好き、愛している、それ以上。スズが存在しているから、今に意味がある。手を伸ばせば触れられる距離にいて欲しい。視界からいなくならないで、私のそばにずっといて欲しい。スズが考えている事を私も知っていたい。双子だからって特殊な力が働いたりはしない。別の生き物だから、分からないことが多い。でもそれは嫌だから、私が理解できる行動しかしないで欲しい。同じことを考えて、同じように生きる。なんで分裂してしまったのだろう。ずっと一つでいられたらよかったのにね。でも分かれてしまったから、別々の生き物だから、私はスズを愛することができる。何が正解なのだろう。スズは頭を撫でてくれた。私の大切なお姉ちゃん。


 宇宙船が地面を離れてからまもなく、大きな爆発音が聞こえた。母の考えてた通りなのか、不慮の事故なのか。真相は分からない。考えたって無駄だから、スズと話した事はないけど、スズもお母さんがもういない事は分かっているはず。大きな音がしたねって、事実を声に出して、二人見つめあっただけ。

 

「ランはいい子」


 スズは私を抱きしめる。このまま溶けて、交わって、一つに戻れればいいのに。どんなに密着したって、スズはスズで、私は私。二人だから出来ることもあるけれど、私はスズにはなれないし、スズは私にはなれない。


「スズ、祈るのはもうやめよう」


「どうして?」


「お母さんはもいうないんだよ」


「そうだね」


「そうだよ」


 スズは祈りをやめてくれる。私たちが生まれてきた意味を雨が降ることではなくしてくれる。その日は安心して眠りについたけど、目が覚めたらスズは隣に居なかった。急いで外へ出ると、スズは天に向かって手を合わせている。


 雨が降りますように


 元の世界に戻りますように


「スズ、やめようよ」


 私はスズの腕を強く掴んだ。


「どうして?」


「意味がないから」


「どうして、意味がないことをしてはいけないの」


「それは……」


 咄嗟に答えられなかった。意味がないから、やらない。それは当然のことだと思っていた。生きるために食べ物を食べる。食べ物を食べなくても生きていけるなら、食べ物は食べないだろう。


「雨が降ることに意味はあるよ。私たち人間は水がないと生きていけないんでしょ、必要だよ」


「私とスズが寿命まで生きるなら、海の水で足りると思うよ。雨は降らなくていい」


 人間の寿命は昔、90近くまであった。しかし今は栄養が不足しているから長くて40くらいまでだろう。あと20年くらいなら海の水はまだ尽きないだろう。


「どうして、ランは意味がないことがそんなに嫌なの」


 言葉にして説明するのは難しかった。感覚でしか分からない。スズと私は違う人間なんだと、実感する。なんとなくが伝わらない。私がスズの気持ちを理解できないように、スズも私の気持ちを理解できない。もしも一つだったら、言葉にして説明しなくても伝わったのだろうか。スズが私を理解出来ないのが悲しくて、涙が溢れた。


「ラン、ごめんね」


 スズは私の頭を撫でる。唇を重ねる。愛している。


「それじゃ意味を作ろう。機械は水に弱いでしょ、雨を降らして壊滅させるの」


「そうしたら、どうなるの?」


「私とランだけの世界になる」


「それって、」


 なんの意味があるのか問おうとしてやめた。


「防水してるんじゃないの?」


「そんなのも意味がなくなるくらいの雨を降らすんだって」


 スズはキラキラしていた。父の言葉を思い出した。好きな人が好きなように生きていれば、それでいい。それ以外はどうだっていい。それ以外に父も含まれていて、父は自分のことすら、どうでもいいと言っていたのだと気づいた。自分を殺して、母の気持ちを優先させた。私はそれを愛と呼ぶことにした。私はスズを愛している。


 私は祈るスズの隣で祈っている。


 スズの願いが叶いますように


 スズが望んだ通りになりますように


 私がスズの願いが叶うように願い始めてから数年が経った。街は輝きを増す。娯楽が増えていく。かつては一つのもので盛り上がっていたのに、次から次へと新しいものが誕生する。個性が出てくる。母と同じ思考の人間は本当に居なかったのだろうか。私たちと同じで、隠されて密かに生き延びている人間は居ないのだろうか。


 私はスズに相談してみよう。旅に出ようと、この場所ではない何処かに私たちと同じ人間がいるかも知れない。いないと否定してしまったけど、この目で確かめたわけではないのだから。


「スズ」


 声をかけても、スズは反応しなかった。 


 天に向かって祈るだけ。


 雨が降りますように


 元通りの世界に戻りますように


「スズ、スズ」


 私は呼びかける声を大きくしていく、腕を強く引く。


「スズ、スズ、スズ」


 返事をしないどころか、動きもしない。銅像のようだった。


「スズ、どうしたの?」


 スズは目を閉じたまま、手を重ねて、天に祈っている。


 雨が降りますように


 元通りの世界に戻りますように


 冷たい何かが私の頭に当たった。それは、どんどんと増えていく。冷たい。手にも当たって、それは水だった。水が空から落ちてくる。これは雨。


「スズ、雨! 雨が降ってる」


 スズは目を開いて、ゆっくりと私の方へ顔を向けた。


「よかった」


「スズ、やったね!」


 雨が降ることに意味はないと思っていたけど、嬉しかった。祈りは届いたのだ。私ははしゃいでいたが、スズはそうでもなかった。


「ラン、これで終わりだね」


「えっ?」


「私たちが生まれてきた意味が果たされたから、終わり」


「どういうこと?」


「お母さんたちの所に行こう」


 スズは崖へ進んでいく。


「待ってよ、スズ」


「ラン、なんで止めるの?」


「死んじゃうから」


「それがどうしたの? 私たちが生まれてきた意味は果たされたんだよ」


「だからって、なんで死んじゃうの」


「終わったから」


「えっ?」


「私たちは雨が降るように願うために生まれてきたの。雨が降ったら、祈る必要がないでしょ」


「でも、死ぬことはなくない?」


「人間はもう私たちしかいないんだよね、生きている意味はあるの?」


「もしかしたらいるかもしれないじゃん。旅に出よう。探しに行こうよ」


「いないよ、ロボットたちが言ってたでしょ。いたとしても排除されてるよ」


「でももしかしたら、」


「そんなことないでしょ、ランだって言ってたじゃん」


「だけど、さ、もしかしたら……」


「ランが男だったらよかったのにね、そしたら子孫が残せて、私たちでアダムとイブになれたかもしれない」


 スズは機械のようだった。雨は降り続ける。もしかしたら、街全体を沈めてしまえるかもしれない。ロボットたちも滅びて、地球は無に還るのだろうか。そういえばそんな話を読んだことあるかもしれない。水は無くなったら困るけど、ありすぎても困るんだなって、思ったのを覚えている。


 なんて言ったらスズを止められるだろう。止める必要はあるのだろうか。父のように言いなりにならないと決めていたのに、やっぱり私は父の子供だったのだろう。


「そうだね」


「ラン、おいで」


 スズは両手を広げて私を呼んだ。私は一つになるように力強く、抱きついた。スズは愛おしそうに私を見つめて口づけをした。大好きなスズだった。自分以外の体温を感じて、生きているを噛み締める。


 私が感じていた恐怖は、意味がないことが叶った時に何が残るのかという事だったのだろうか。雨は降らない方がよかった。なぜ、降ったのだろう。降らないままなら、私とスズはまだ一緒に生きていられたのに。生きる意味を失ってしまったから、スズは死ぬことを選んでしまう。


「ラン、私たちは死ぬんじゃないよ、天に向かうの。願いを叶えてくれた神様にお礼を言いに行くんだよ」


「……そうだね」


 私たちは一緒に天に向かって足を踏み出した。

読んでいただき、ありがとうございました!

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