可愛い男爵家の末妹である私が、婚約者と不仲の公爵家の御令息にアプローチした結果
「それで、僕に話しってなに?」
「私、リリム様から虐めを受けてるんですっ…」
「…へえ、それで?」
「え?」
「なんでそんな話しを僕にするの?」
訳がわからない。普通可哀想にって心配してくれるところなのに。
「…ルシフェル様に守っていただきたいんですっ」
「なんで僕なの?」
「え?」
「先生とか、もっと適任がいると思うけど」
そこは普通僕が守ってあげるよって抱きしめるところでしょ!?
「で、でも、リリム様は公爵令嬢だから…」
「守ってもらえないかもって?」
「はい…」
「なら余計に、僕にその話するのバカじゃない?」
「え?」
その言い草に驚く。
「だって、俺は公爵家の息子。婚約者であるリリムも公爵家の娘。そして君は男爵家の末妹。しかもその出自は怪しい」
「…」
「身分差を考えてみなよ。あるいはリリムと俺の関係性と君と俺の関係性の差でもいいけど。…俺が君の言い分を信じる理由、ある?」
そんな、だって私はこんなにも可愛いのに。
お父様もお兄様たちも、可愛い可愛いって言ってくれた。
だからあの婚約者と不仲の公爵家の御令息を落として来いって言われたの。
「…で、でも、リリム様と不仲なんですよね?」
私がそう言えば、ルシフェル様の機嫌が目に見えて悪くなった。
「そうだよ」
「じゃあ!」
「お前らみたいな勘違い女のせいでね」
「え」
「俺のせいで、お前らみたいな女のせいで…リリムはたくさん傷ついた。だから俺を拒絶するようになった」
怒りに燃える目に、ぞっとする。
「覚悟してろよ」
「あ…」
その背中を追う勇気はなかった。
数日後、男爵家に強盗が押し入った。みんな殺された。生き残った私は行くあてもなく、結局マニアックな趣味のお店で働くことになった。そこでの生活は案外性に合ってるし、お金も貰えるけど家族を想うと気持ちが重くなる。
多分、あの強盗はそういうことだよね?でも、私が悪いから何も言えない。そもそも多分信じてもらえないから、やっぱり言えない。言うと今度こそ殺されそうで、どうしても言えない。…それがずっと胸につっかえてる。
また一人、犠牲者が出た。
あの人は…ルシフェル様は異常だ。私を傷つけた人を容赦なく叩き潰す。
ルシフェル様のことは…正直今でも愛してる。たとえ何人もその手にかけていても、それが私を想ってのことだと知っているから嫌いになれない。
けれど、私がそばにいるとルシフェル様はダメになる。これからも人を手にかけてしまう。
だから私は彼から離れなくてはいけない。そう思って突き放しているのに、彼は私を離してくれない。
「リリム、愛してるよ」
「私は愛しておりません」
「それでもいい。僕は君を愛してる」
好き。
どうしてもその想いが溢れてきて、彼にバレないように必死な私。
いつか、なにもかも投げ出して彼に完全に依存してしまいそうで。
それがすごく怖いのに、そうなって欲しいと夢想してしまう。
愛してるから幸せになって欲しい。でも、愛しているから私と一緒に落ちて欲しい。…ああ、私はやっぱり悪い子だ。
「ルシフェル様」
「なに?」
「いい加減婚約を解消してください」
「…それは嫌」
ああ、別れ話をするたびに見てしまうその仄暗い瞳。その全てが愛おしい。
「ねえ、愛してるよリリム。愛してるんだ」
「私は愛しておりません」
「それでも愛してるんだ!」
いつかこの必死な声に負けそうで、私は心の中で耳を塞ぐしか出来ない。
愛してる。
いっそそう言ってしまえば、楽だろうか。
【長編版】病弱で幼い第三王子殿下のお世話係になったら、毎日がすごく楽しくなったお話
という連載を投稿させていただいています。よかったらぜひ読んでいただけると嬉しいです。