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星々の還る場所 ~おまるちゃんピアノソロコンサート ナレーション~

作者: 音翠アイラ

この物語はピアニストおまる様のソロコンサート用に書き下ろした作品です。ソロコンサートでは音翠アイラ自身がナレーション(朗読)しました。

記載の曲は、そこにおまるちゃんのピアノ演奏があると言う意味です。

コンサートはピアノで始まり、それぞれの「星」の物語のナレーション後に、おまるちゃんがその「星」の人生の曲を演奏するという形で進行し、最後はピアノとナレーションが一緒に終わる形でした。

ピアノの音が主役なので、この物語の完成形はコンサートです。アーカイブもありますので、読んでいただいた後にぜひそちらもご視聴いただけたら嬉しいです。

(原案:おまる  作:音翠アイラ)


【月の光/ドビュッシー】



 ここは、星々が還る場所。誰もが知っていて、誰も知らない。どこにでもあって、どこにもない。地上と天の間にある、特別な場所。

 青き光が見えるでしょう?あれは星々の想いが残したきらめき。

そう、ここは星々が迷い込む場所。ほら、聴こえて来た。星の声が・・・。


 ひとつの星が近づいてきた。

 星はその形を変えてゆく。きらめきは、ある娘の姿になった。

「夢のようだったわ。でも夢じゃない。私は夢を叶えたのよ!」

 娘はうっとりと語った。

「憧れの舞台に立ったの。子供の頃からずっと目指してきた場所だったのよ。」

そう言って、軽やかに踊りだした。ポーンとジャンプして、ふわりと着地したり、指の先まで整った美しいポーズを取ったりして、楽しい気持ちがこちらに伝わる踊りだった。

「やっと理想のダンスが踊れたの。」

 娘はその場でくるくると回転して、爪先立ちで細やかにステップを踏んだ。

「ああ、もう一度あの曲を踊りたいわ!」

 綺麗なポーズを決めたまま、そう言ったので、私はその娘に告げた。

「ぜひ踊ってください。とても見てみたいです。」

 娘は目をキラキラさせて、お辞儀をすると、幸せそうに踊りだした。


【即興曲Op90-2/シューベルト】



 娘は、ひときわ眩しくきらめくと、星の形に戻った。

 そして、別の星がこちらに近づいてきた。

 その星は鈍くきらめき、ある老婆の姿になった。

 老婆はなかなか喋らなかった。表情は怒りや憎しみに満ちていて、最初に発したのは、やはり怒りの声だった。

「なぜじゃ!周りの者はみな、わしを裏切った。」

 老婆は、莫大な富と地位を持つ宝石商だった。

「やつらが欲しかったのは金じゃ。地位じゃ。権威じゃ。」

 それは魂の叫びだった。私は訊いてみた。

「貴方の人生に、幸せはなかったのですか?」

 老婆は虚を突かれたような顔をして、少し考えこんだ。

そしてゆっくりと首を振った。

「わしの幸せは他にもあった…。主人と息子じゃ。」

 老婆は目を閉じて、穏やかな微笑みを浮かべた。

「主人も息子も穏やかな性格でな。商人の家族としては向かなかったが、わしはいつも癒された。大切な安らぎじゃった。」

 そう言って、老婆は人生を語りだした。


【ピアノソナタ悲愴より1・2楽章/ベートーヴェン】



 老婆は穏やかな顔で微笑んだ。そしてまばゆくきらめいて、星に戻った。

 すると、また別の星が近づいてきた。

 星はきらきらと何度か点滅して、ある幼い男の子の姿になった。

 男の子はにこにこと笑って話しかけてきた。

「こんにちは!ねえ、知ってる?騎士ってすごいんだ!」

 騎士団長の息子なのだと、男の子は誇らしげに胸を張った。

「お父さまが騎士たちと行進してきたの!あんまりかっこいいから僕、真似して練習したんだよ。お父さまが次にお城から帰ってきたら見ていただこうと思って!」

 嬉しそうに言ったあと、男の子は急にしょぼんとした。

「でもね、見ていただけなかったの。」

 私は男の子に声をかけた。

「じゃあ、代わりに私に見せてもらえませんか?」

 男の子はぱあっと顔を明るくすると、にっこり笑った。

「うん!見てて!」

 そう言って、楽しそうに行進を始めた。


【トルコ行進曲/モーツァルト】



 男の子は明るく輝いて、星の形に戻った。

 そしてまた、別の星が近づいてきた。

 星は唐突に、美しい女性の姿になった。

 きらきらと鱗粉のような光をまとっていて、気配が少し人と違う。

女性はどうやら水の精霊という存在のようだった。

「私は、恋をしたの。」

 精霊は長く美しい髪をかき上げた。

「森をさまよっていた若い男がいたから、声をかけてみたの。とても優しい男だった。私が人でないと分かっても、全然怖がらなかった。」

 精霊は遠くを見つめて語り続けた。

「私達は、語り合った。楽しくて時間を忘れたわ。彼は約束してくれたの。永遠に私を愛するって。幸せだったわ。」

 精霊は急に声を荒げた。

「それなのに、裏切った!」

髪を振り乱して、体中で訴えていた。

「彼は人間に姿を変えた私にも愛をささやいた!心変わりするなんて!許せない!だから水の中に引き込んで命を奪ってやったのよ。」

 精霊は地団太を踏んだ。私は尋ねてみた。

「なぜその方を欺いたのですか?」

 精霊は悲し気に顔をゆがめた。

「本当に彼に愛されているか確かめたかっただけなの。はじめての恋だったの。ずっと一緒にいたいって思えたのに・・・。」

幸せと悲しみがそこにあるように虚空を見つめながら、精霊は愛する人について教えてくれた。


【バラード3番/ショパン】



 精霊はひとつため息をついて、

「気がすんだわ。」

とつぶやくと、美しくきらめいて星に戻った。

 青い世界には四つの星が浮かんでいた。

 娘の星、老婆の星、男の子の星、精霊の星。

四つの星は並んで、きらきらときらめいている。どの星も穏やかな空気をまとっていた。

 私は、星たちに語りかけた。

「想いは、伝えたいことは、できましたか?」

 四つの星はきらりと一度大きく光った。

 私はまた語りかけた。

「想いを、受け取りました。皆さまを、天へご案内いたします。」

 私は手を振り上げた。

 青い世界に光の柱が立ち上った。星たちはその光の方へ向かっていった。

 星々は、くるくると光のらせんを描きながら、天へと昇って行く。

 私は別れの言葉の代わりに、星々に最後の言葉をかけた。

「皆さまのお心が、安らかなことをお祈りいたします。」

 四つの星の描くらせんは美しく、切なく、優しい余韻を残した。


【幻想即興曲/ショパン】



【月の光/ドビュッシー】(ピアノに乗せてナレーション)


 ここは、誰もが知っていて、誰も知らない。どこにでもあって、どこにもない。地上と天の間にある、特別な場所。

 青き光が見えるでしょう?あれは天へと昇った星々の、想いの残したきらめき。想いの残り香のようなもの。そこにまた四つ、きらめきのカケラが加わった。

 この場所には静寂が戻った。今は星の声は聞こえない。

けれどきっと、また星はやってくる。

そう、ここは星々が迷い込む場所。強い想いを残した星が、最後に訪れる場所。

「ここで待ちましょう。次の星がやってくるのを。」

 しばしこの静寂にまどろむことにしよう。地上で懸命に生きる星々の輝きの気配を感じながら。天に昇った星々のきらめきの残滓を感じながら。すべての星が安らかなることを祈って。

 ここは、星々が還る場所。


(完)

この物語はピアニストおまる様のコンサートのコンセプトや曲への想いをヒアリングして、演奏予定のピアノ曲を聞きながら執筆しました。執筆後もおまるちゃんのイメージとすり合わせしながら何度か改訂し、ナレーションやセリフの人物像も、できる限りおまるちゃんの描きたい世界に寄せました。

バーチャル世界でのコンサートでした。白百合めしべさんが制作の、その美しいワールドの名前「星々の還る場所」がコンサートおよび作品タイトルとなっています。


今回、ずっと取り組んで来た「声」(ナレーション)と「執筆」(物語)をできて幸せでした。しかも「Vtuberピアニストおまる」としてのファーストソロコンサート。大切なコンサートで任せていただいて、すごく光栄でした。そしてバーチャルワールド自体も大変に美しく、更にそこに手が加えられた世界は本当に感動しました。おまるちゃんご自身とかかわった方皆さんが素晴らしい技術と人柄をお持ちで、その皆さんとご一緒できたこと、あれほど素晴らしいコンサートに出演できたことは、宝物の経験となりました。


幻想的な世界で、視覚的な演出があるなか、美しいピアノの音が聞けるコンサート。その曲をつないでひとつの物語にまとめる役割をしたのがナレーション。そのコンサート構成も、おまるちゃんが考えられたものでした。おまるちゃんは描きたい世界を明確に分かりやすく提示してくれたので、その素晴らしい世界を目指すおまるちゃんのもとに、白百合めしべさん、アフロッティさん、ばくだんさん、komatsuさん、私・音翠アイラも一丸となりました。完成したコンサートは幻想的で大変美しいものでした。おまるちゃんの奏でる最高に美しいピアノと視覚的にも美しい広がる世界は、ぜひアーカイブでご覧ください。私のナレーション(五役した声劇みたいなもの)も聞いていただけたら幸いです。


星々の還る場所

https://www.youtube.com/live/9MwYtZmFa4Q?feature=share

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