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カサブランカはずっとカサブランカだな

「わたしが別の場所に小舟を用意した。シャムロックにも連絡済みだ。途中までいけばシャムロックの船が助けてくれるだろう」


「兄上? どうして?」


 兄上はカサブランカを好きなのにどうして?

 シャムロックにも連絡をしてあったという事は、かなり前から準備をしていたのか?


「誰だ!? 侵入者か!?」


 しまった!

 見つかったみたいだ。

 どうしよう。

 逃げたい。

 怖いよ。

 でも、兄上しか小舟の場所は知らないから……

 もう覚悟はできている。

 船を押さえられた時点でわたしの処刑は決まっているはずだ。

 カサブランカが逃げられるならわたしは……

 この命を使いたい。

 ずっと守ってもらったんだ。

 今度はわたしがカサブランカを守る!


「兄上、ここはわたしに任せてください。どうか二人を小舟に乗せてください」


 怖い……

 怖いけど……

 カサブランカの為だから……

 大好きなカサブランカの為だから!


 わたしは三人を秘密の通路から逃がすと、地下牢に囚われる身となった。


「はぁ……あっけなく捕まったなぁ。最後まで弱かった。恥ずかしいくらい激弱だった……」


 だが一人は倒せたからな。

 あのクマポイ騒ぎの時にカサブランカが教えてくれた『眉間を全力で殴れ』の言葉を思い出したから……

 まぁ、そのあとすぐに捕まったが。 


 カサブランカは無事に逃げただろうか。

 わたしは明日にでも処刑されるだろう。

 処刑台で、未練がましくカサブランカの名を呼んでしまったら……

 死んだ後まで迷惑をかけるわけにはいかない。

 カサブランカへの恋心には蓋をしよう。

 カサブランカ……

 すまない。

 わたしが処刑された後……自分のせいでわたしが死んだと苦しまないでくれ。

 どうかシャムロックで幸せに暮らしてくれ。

 最期に今までの恩返しができて良かった。



 その頃、小舟のある船着き場に着いた兄上は慌てて王子とカサブランカを小舟に乗せていた。


「このような事を……王が黙っているはずがありません」


「カサブランカ……大丈夫だ。わたしは……王になるつもりだ」 


「え? 王に?」


「カサブランカを守りたい。その為には今の王には消えてもらう」


「わたくしの為に?」


「それだけではない。今のままではアルストロメリア王国は滅亡するだろう。カサブランカも王が何をしているかは知っているだろう?」


「神力を使って新たな魔法石を作り出そうとしているようでしたが……」


「この事を他国に知られればアルストロメリア王国は地図上から消えるだろう」


「そんな……」


「カサブランカ……案ずるな。お父上はわたしが王になればまた騎士団長に復帰するだろう。今、カサブランカがシャムロックに行っても罪には問われない。明日にはわたしがこのアルストロメリアの王になっているからな。ひとつ頼みがある。聞いてくれるか?」


「はい。なんでしょう?」


「二日後の夜、弟を海に投げ込む。そこに偶然船で通りかかって欲しいのだ」

 

「それはどういう……?」


「わたしが新王になる事で弟の首を斬らなければならなくなる可能性がある。それだけは避けたい。わたしは嫌われても構わない。ただ弟には幸せに生きて欲しいのだ。今、弟のお母上は保護してもらう為にリコリス王国に向かっている。弟はシャムロックの船に救われてもシャムロックには行かないはずだ(カサブランカが他の男と笑う姿は見たくないだろうからね)きっとリコリス王国に行きたいと言うはずだ。もうアカデミーには入学金も支払い済みだしお母上と二人で過ごす邸宅も完成している」


「いつの間にそこまでの準備を……まさか……」


「ああ。父上がご存命の頃にこれからの事を話し合っていたのだ。わたしは父上の最期の望み通りアルストロメリアの新王になる」


「……はい。きっとなれます。絶対になります!」


「カサブランカに言われると頑張れそうだよ」


「……はい」


「カサブランカは今までほんの少しでも……わたしを大切に想ってくれた事があったのかな……?」


「はい! ずっとずっと今までもこれからも大切です!」


「(やはり兄のようにしか思われていなかったのだな)今から話す、つまらない男の独り言を聞いてくれ。どうしても口に出したいのだ。心に区切りをつける為に」


「……? え?」


「愛しい人、貴女はわたしの全てでした。ですが貴女の心はわたしの物では無いようです。どうか、王子とシャムロックでお幸せに……」


「え? 今のは?」


「さあ! 急いでください! シャムロックの船がこの先に待っています!」



 この事実を知らされたのはそれから数十年後だった。

 そう、聖女様の生まれ変わりであられるペリドット殿下が現れた日に、カサブランカから全てを聞いたのだ。

 わたしは愚かだ。

 わたしと母上の命の恩人であるとも知らず、兄上を恨んでいた。

 なぜ海に捨てたのだ、なぜ仲の良かった兄上が新王になっても国に帰れないのだと。

 だが、全ては兄上の『弟に生きていて欲しい』と願う優しさだったのだ。


 結局、わたしは最後まで守られてばかりだったのだな。

 兄上はもう亡くなられ、謝る事もできなくなってしまった。


 それにしてもカサブランカの孫娘が、わたしの孫娘のアンジェリカの友になるとは、縁とは不思議なものだ。

 女神様に再会するという念願も叶ったし……

 まるでペリドット殿下が幸せを運んできてくださったようだ。


 それにしても、会ったのはあの時が最後だがシャムロックのあの王子(今はお互い年老いたが)は神殿に騙されてずいぶん寄付をさせられたようだな。

 大量に譲り受けた(多額の寄附と引き換えに)神聖物が偽物と分かりカサブランカは大激怒中だ。

 今はあの王子は船に乗って世界の果てを探す旅に出ているようだが……

 カサブランカに連れ戻されたら血の雨が降るだろうな……

 王太后となってもカサブランカは一撃でクマポイを倒す力があるのだろうか。

 ……見に行きたい。

 そうと決まれば久々に休暇をとるか。


 長生きはするものだな。

 これから楽しくなりそうだ。

 

成長した王子とカサブランカの物語は

『誰もが恐れる冥王ハデスの妻ですが今日もモフモフ愛が止まりません~異世界で、人魚姫とか魔王の娘とか呼ばれていますが、わたしは魔族の家族が大好きなのでこれからも家族とプリンを食べて暮らします~その後の物語』150話『活発な令嬢と気弱な王子の数十年後……か』

に続いていきます。

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