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普段ガサツな幼馴染みが好きな男の前では乙女になる姿に絶句する 

 新王は神力のある小国シャムロックの王女を養女として迎え、その世話係としてカサブランカを指名したらしかった。

 だが、四か月程経つと王女は行方不明になったとカサブランカから聞いた。

 しかも公にはせずに捜してもいないようだった。

 カサブランカは主人のいない王女宮にいる事に時間を持て余しているようだった。

 嫌な予感がした。

 カサブランカは暇になると妙な事ばかりしていたからな。

 王女宮の肖像画にヒゲの落書きをしていなければ良いが……


 そんなある日、一人で部屋で過ごしていると突然辺りが目を開けていられないほどの光に包まれた。

 そして……

 目の前に美しい白い髪に青い瞳、真っ白い翼の生えた女神様が現れた。

 なんて美しいのだ……

 透き通るように美しい。

 女神様は実在したのか……

 まさにわたしの理想通りの女性だ……


「清らかな人間よ……地下牢に神力を持つ少女が囚われています。どうか、その清らかな心で助けてください」


 ……?

 神力を持つ少女?

 まさか、王女?

 

 美しい女神様はそう言うと悲しそうに微笑んで消えてしまった。

 しばらく目が痛くてチカチカしていたが、その痛みのお陰であれは夢ではなかったと思う事ができた。


 その日の夜、わたしは一人で地下牢に繋がる秘密の通路からこっそり確認に向かった。

 カサブランカと探検ごっこをしていた時に見つけた通路だ。

 まさか、あの探検が役に立つとは……

 

 クモの巣だらけの狭い通路を抜けると……

 誰かが牢の中で倒れている?

 王女なのか?

 なんて事だ。

 無理矢理神力を搾り取っているのか?

 顔色も悪いし……

 生きている……のか?


「そんな……」


 え?

 今の声は?

 まさか……

 振り向くと……カサブランカ?

 いつの間にか付いてきていたのか。

 酷く動揺しているようだ。

 騒ぎだす前に一旦わたしの宮に戻るとカサブランカが泣き出した。

 

「王女様は思いやりのある優しいかたです。どうしても助け出したいのです」

 

 カサブランカ……

 気持ちは分かる。

 わたしも、助けてやりたいが……

 今のわたしにはなんの力も無い。

 名だけの王弟なのだ。

 

 なにもできる事の無いわたし達は毎晩、見つからないように王女の元へ食事を運んだ。

 無力なわたし達にも、できる事はないのだろうか?

 カサブランカと何度も話し合いシャムロックに密告の手紙を出す事にした。

 今の王女の姿を知らせれば状況が変わるかもしれない。


 こうして、わたしとカサブランカで密告の手紙を送ろうとした夜、王女が地下牢から連れ出されているところに遭遇した。

 その様子を見ている事しかできなかったわたしとカサブランカは慌てて手紙を書き直した。

『王女が海に投げ込まれた』と。


 わたしとカサブランカは、なにもできなかった自分達に虚しくなっていた。

 王弟とは名ばかりで、わたしはただ十四歳になるのを待つだけの人形だと思い知らされた。

 ただ生き残りたいと願うだけの弱い存在。

 女神様……

 わたしは清らかでも無ければ、王女を助ける事もできませんでした。

 なんて愚かなのだ。

 わたしは、ひとつしか年の違わない王女を見殺しにしてしまった。


 そんなある日、大砲を積んだ船がアルストロメリア王国を攻撃しようとしたとして犯人が地下牢に入れられた。

 王女の実弟、シャムロックの王子だった。

 王子は姉を捜しに来ただけだと話したが、神力を搾り取り捨てた事を隠したい王は、ろくに調査もさせず王子を公開処刑する事にした。


 このままでは王子が処刑されてしまう。


 わたしとカサブランカは、誰にも見つからないように王子に毎晩食事を運んだ。

 王子はわたしよりひとつ年下で、とても大砲を積んで攻撃するようには見えなかった。

 王子は手のかかる子供と言うか……放っておいたら何をしでかすか分からない危うさがあった。

 

 わたしが見る限り、ダメ男好きのカサブランカは王子に心を奪われたようだった。

 頬を赤くして王子と話す姿は普段のガサツなカサブランカとは大違いだった。

 わたしと話す時は大口を開けて笑うのに、王子が相手だと恥ずかしそうにうつむきながら笑っている。

 この態度の違い……カサブランカがわたしに恋心を微塵も持っていなかった事は一目瞭然だ。

 王子に教えてあげたい。

 目の前にいる淑やかな令嬢が実はクマポイを一撃で倒すほど強いという事を。

 

 ……あれ?

 どうしてモヤモヤするのだろう?

 二人の邪魔をしたくなる。

 カサブランカがわたし以外の男と笑っているから……か?

 

 カサブランカは兄上との婚約話を知らないから、王子への気持ちを止めさせる事はできなかった。

 わたしに……

 無力なわたしにもできる事は無いのか?

 王子を助ける方法は……

 何か……

 そうだ!


 わたしはリコリス王に密書を送った。

 リコリス王とは幼い頃から何度もお会いしている。

 父上と同じ、名君と呼ばれるお方だ。

 きっと力になってくださるはずだ。

 

 だが、密書を送ってすぐ、明朝に王子が処刑される事が決まってしまった。

 間に合わないかもしれない。

 王女のようにまた見殺しにするのか?

 ダメだ!

 王子はカサブランカの愛しい人なのだ!

 カサブランカはずっとわたしの側にいてくれた大切な人なのだ!

 ……?

 大切な……人?

 胸がドキドキしている?

 わたしは……まさか……カサブランカを……?


 落ち着け!

 今はそんな事を考えている場合では無い!

 王子を逃がすのは今夜しかないのだ!

 

 わたしは気持ちを落ち着かせ、夜になるのを待ちカサブランカと共に地下牢に向かった。

 カサブランカも明朝の処刑を聞いたらしく、ずっと涙を流していた。


「王子、今夜が最後です。明日が来ればもう生きてはいられません。お願いです。カサブランカと共にシャムロックに逃げてください」


 これでいい。

 カサブランカも今逃げなければずっと王女宮に閉じ込められるだろう。

 二人を逃がせばわたしは生きてはいられないだろうが……

 カサブランカ……

 もう泣かなくて良いのだ。

 ずっと世界を巡りたいと言っていただろう?

 この破天荒な王子とならその夢が叶うかもしれない。

 わたしや兄上ではダメなのだ。

 カサブランカを閉じ込める事しかできない。

 兄上、お許しください。

 わたしがカサブランカの為にできる事はこれしかないのです。

 王女がいなくなった後も人質として王女宮に囚われるカサブランカを助けたいのです。

 そして愛しい王子と添い遂げさせたい。


「やはりな……こういう事か」


 この声は……

 

「兄上? どうして?」


 秘密の通路から来たのか?

 どうして通路を知っていたのだ?


「お前が船を用意したと耳にして……まさかと思い父上から教えられた通路から確認しに来たのだ。残念だが船はもう王に押さえられている。今行けば命は無いだろう」


「そんな……」


 また、わたしは誰も助けられないのか?

 王女も見殺しにしたのに……

 いつも守られてばかりで、ただ見ている事しかできない。

 あの時、海に投げ込まれた王女の顔……

 穏やかだった。

 生きている方が辛かったのか?

 死んでやっと楽になれると思ったのか?

 悔しい……

 なにもできない無力な自分が憎い……

 わたしに力があれば、あんな顔をさせたりしなかったのに。

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