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今から食べようとしている物が虫に似ていると気づいたらもう食べられなくなるよね

 この日を境にわたしの周囲は一変した。

 まずわたしは母方の祖父の領地に向かう事になった。

 主治医がわたしに毒を盛り続けていた事が判明したからだ。

 今回の狩猟祭でわたしが倒れ、主治医以外の医師が診察しなければこのまま毒を飲み続けていただろう。

 わたしが寂しくないようにと第三王子である腹違いの兄上とカサブランカも同行する事になり、側室である兄上のお母上と、わたしの母上も共に領地で過ごす事になった。

 父上は、王妃様か第二王子の母である側室が毒を盛らせていたと考えたようだった。

 わたしと第三王子の兄上は城内が落ち着くまで、母方の祖父の領地に避難する事になった。

 兄上のお母上は他国から側室に迎えられた為、そちらに里帰りをするわけにもいかず、共に来る事になったのだが……


「殿下! あの木の枝を! ほら! 鳥の巣が!」


 今は皆と庭園でお茶をしている。

 カサブランカは今日も元気だな。


「そうだな。雛のかわいい声が聞こえてくる」


「はい。殿下は鳥の雛が何を食べるかご存知ですか? 親鳥が✕✕(ピー)✕✕(ピー)して✕✕(ピー)するのです!」


「あぁ……カサブランカ……今からそれに似た物を食べようと……もう食べられなくなったよ……」


 大好物だけど二度と食べられなくなったかも……

 気持ち悪……


「え? 確かに似ていますね。ですが、それはあれとは違います。さぁ殿下、早く召し上がってください! あれに似て栄養価が高そうです!」


 この純粋さが怖い……

 食べるまで催促されそうだ。


「無理だよ……気持ち悪くなってきたよ」


「ふふふ。殿下とカサブランカは仲が良いのですね」


 母上が嬉しそうに笑っている。

 生まれ育った領地に帰ってきてからの母上は、いつも笑顔でわたしまで嬉しくなる。


「本当ですね。とてもお似合いです。ふふ」


 兄上のお母上まで……

 城内では王妃様ともう一人の側室に虐げられていたから、この場所はお二人にとっても過ごしやすいのだろうな。

 わたし自身も毎日穏やかに過ごせて幸せだ。

 バカにする兄上二人もいないし。

 カサブランカもいてくれる。

 共に避難してきた兄上はいつも優しくて、分からない事や剣術を教えてくれるし。

 だが、わたしは家族に囲まれていても、カサブランカは……

 

「カサブランカは騎士団長と離れて寂しくないか? わたしの為にすまない」


 本当に申し訳ない。

 カサブランカは両親や兄を愛しているからな。


「殿下、わたくしはクマポイを一撃で倒せるのですよ? 殿下をお守りする為にこちらにいるのです。それに毎日おいしいお菓子が食べられて幸せです」


 あぁ……

 カサブランカ……

 カサブランカは嘘をつけないから、寂しくないとは言わないのだな。

 一日も早く城に戻らなければ。


 だが、一か月を過ぎても『戻って来い』との知らせは無かった。

 父上は、王妃様の子にも側室の子にも平等に愛を与えてくださる、まさに『名君』だ。

 その父上が知らせを寄越さないという事は、城内がまだ安定していない、つまり首謀者が捕まっていないという事だ。

 

 わたしには王になりたいという考えはなかった。

 共に来ている兄上もそうだった。

 わたし達は、ただ『王にならなくても生きていたい』『生き延びたい』と願うだけだった。

 そうだ。

 カサブランカと共にいつまでも……

 

 でも、その感情に恋心が微塵も無い事はわたし自身、よく分かっている。

 妹のように思っていた者がいつの間にか恋人に……

 わたしはそういう考えには絶対にならないのだ。

 なぜならわたしは年上が好みだからだ!

 包み込んで肯定してくれて大人の余裕を感じられる女性が好みなのだ。

 カサブランカはかわいいが、なんというか……

 全てにおいて『雑』というか……

 そうだ、弟のような存在なのだ。


 今も……


「殿下、猫がいました! ほら!」


 猫がいましたって……

 髪も服もボロボロだ。

 クマポイを一撃で倒すくらいだから猫なら安心か……

 ん?


「カサブランカ……腕から血が……」


「え? 平気です。木から下りられなくて怯えていたのです。きっと、怖くて必死にしがみついたのでしょう」


「あぁ……カサブランカ……木登りをしたのか? 誰か! 傷の手当てを!」


「殿下、わたくしは大丈夫です。あ! 猫が行ってしまいました。怪我は無かったのでしょうか?」


 自分より猫の心配とは……

 カサブランカはいつも困っている弱い者の味方だな。

 さすが、父親である騎士団長の娘だ。

 困っている弱い者の味方……か。

 だからわたしにも優しいのか?

 哀れんでいる……とか?


「いてて……」


 カサブランカにも消毒はしみるようだな。

 侍女に手当てされている体が小さく震えている。

 

「これに懲りたらもう木登りはダメだ。分かるか?」


「ですが、困って震えている子猫を助けないわけにはいきません。わたくしは常に自分に恥じない生き方をしております」


「恥じない生き方……? 髪も服もボロボロなのは令嬢として恥ずかしくないのか?」


「はい! 服は身体を守る為に着ています。髪は頭への衝撃をやわらげる為に生えています」


「え? カサブランカの考え方は……冒険者のようだな」


「冒険者?」


「ああ。世界を巡るのだ。魔物を倒したり宝を探したりしてな」


「うわあぁ! 楽しそうです!」


 瞳をキラキラ輝かせて……

 カサブランカは令嬢としてではなく冒険者のような生き方をしたいのかもしれない。

 遥か彼方まで遮る物が無い青空の下で、楽しそうに笑うカサブランカはかわいいだろうな。


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