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ここちゃん、前髪はどこへ!?
「はははははっ!」
俺を見て笑う美波。
「笑い過ぎだぞ。どうすんだよこれ」
「だから言ったでしょ。時間が解決してくれるのを待つしかないんじゃない? ぷっ!」
数分前のこと──
「ここちゃん、前髪伸びてきたね」
「髪切りに行くの面倒だなぁ。美波切ってくれよ。ジュースおごるから」
「えっ! 自分の前髪は切ったことあるけど……」
「じゃあ決まり。任せた。きれいにしてね」
「私ならジュース一本で、前髪切るの任せないわ」
そして時間は戻り──
「美波。前髪なくなってるように見えるのだが」
「よかった。私にも同じように見えてるよ」
そう話す美波の手には、俺の前髪であった物が握りしめられていた。
「どうすんだよ! もうお嫁に行けないだろ!」
「お嫁に行くつもりだったんかい。とにかく、これはもうしょうがないんだから。はい、ここちゃんニコってして」
「にこっ」
俺は美波に言われるがまま、にこっとするとピースまでしていた。
伸ばされた人差し指と中指を見つめながら、溢れ出る感情を吐き出した。
「俺のあほぉぉぉ!」