ここちゃん、ライバルあまなすちゃん登場!?【後編】
お買い物も済み、私とここちゃんはフードコートへ向かって歩いています。
「あまなすちゃんの限定シャツも全色買えたし、またグッズが増えてうれしいな」
「美波くらいなもんだぞ? あいつに課金してるの」
「あいつ言わない! あと課金言わない!」
すると、すれ違う家族の子供達が一様に涙を浮かべていることに気がついたのです。
「ねぇ、ここちゃん。何か子供達泣いてない?」
「どうせお化け屋敷にでも行って来たんだろ?」
「昔ここちゃんも泣いたもんね」
「あれは……お前の分だ!」
「私は泣いてるここちゃんを見て、怖く無くなっちゃったんだよ……って、勝手に人の分泣かないでよ!」
子供達の手には、あまなすちゃんがプリントされた風船が握りしめられており、この先で配っているのであろうと察しました。
「ここちゃん! 行くよ! きっとこの先にあまなすちゃんがいる!」
「よしっ! 倒しに行くか!」
「倒さない!」
あまなすちゃんに近づくにつれ、子供達の泣き声が大きくなってくるのは、どうしてなんだろう。
泣き声の中心には、私の大好きなあまなすちゃんが、係員さんに支えられながら立っていました。
「あまなすちゃんだぁ!」
実はあまなすちゃんは、自立が難しいらしく、支えてもらわないと立つことすら困難なのです。
「すみません。あまなすちゃんと一緒に写真撮ってもらってもいいですか?」
私が係員さんにお願いすると、快く受けていただいたのですが。
「彼氏さんも一緒に。隣に並んでいただいて」
「彼氏っ!?」
「彼氏? 俺?」
今日はよく意識しちゃうことが起きるなぁ。
「とにかくほら、ここちゃんも一緒に撮ろうよ。ここに立って」
「それでは、撮りま〜す」
数枚撮影してもらい、私が抱きつくと、バランスを崩して倒れそうになってしまうあまなすちゃん。
「おい、あまなす。大丈夫か? お前はずっとふらふらしてるけど、俺はな? 幼稚園の遠足の時から、早く手が生えるといいなって思ってるよ!」
「…………」
喋れないあまなすちゃんを、係員さんが慌てて支えに来ました。
「じゃあな! あまなす! 手落ちてたらあげるからな!」
その場の全員を凍りつかせるだけの威力を持った言葉は、子供ランドを静寂に包み込みました。
私とここちゃんは風船をもらうと、あまなすちゃんに手を振り、この場をあとにしました。
「ねぇここちゃん。あまなすちゃんかわいいでしょ?」
「悪いやつじゃなさそうだってことは分かったよ。風船くれたしな」
「そっか。じゃあこれあげる。さっき売店で買ったの。ここちゃんのイニシャルKとあまなすちゃんのキーホルダー。学校の鞄につけて」
つまむように持つと、揺らしてみるここちゃん。
「本当にこれ付けるのか?」
「あっ、あまなすちゃん付いてたら、テストでいい点取れるよ」
「マジか!」
好感触な反応を得た私は、ここちゃんが乗りたがっていた観覧車に誘いました。
「俺んち見えるかな!? ほら、早く行くぞ!」
「待ってよ、ここちゃん!」
そして、始業式の日──
ここちゃんの鞄には、私がプレゼントしたあまなすちゃんが付けられていました。
これは内緒なのですが、実はこっそりお揃いで、私のイニシャルキーホルダーも買っていたんです。
「あまなすちゃん。また会いに行くね。二人で」




