ここちゃん、脱走される!?
「九、昨日の課題ヤバかったな」
「俺にかかれば、あれくらいちょちょいだからな」
「すげ〜な、お前やる時はやる男だったんだな」
クラスメイトの西畑真悟と並んで昨日の課題の話に花が咲く。
「珍しいね。ここちゃんがそんなに自信満々に課題の話をしてるなんて」
美波が荷物を片付けながらふたりの話題に入り込む。
「いつまでも、頼りない俺ではありません。やる時はやる男なのです」
「へぇ〜、いつまで続くんでしょうね」
適当に聞き流す美波を横目に、真悟との話に戻って行く九。
教室前方の入り口が開き担任の先生が入ってきて朝のホームルームが始まる。提出物や連絡事項などのことが滞りなく進み、そのまま1時限目の授業が始まる。
「月曜日ってホームルームと授業の切り替えが難しいなぁ」
「九、切り替えが難しいのは月曜日だけじゃないだろ。毎日だろ」
ひとりの生徒の正論のツッコミに失笑が漏れていた。
1時限目の授業は担任の先生が受け持つ数学だったからホームルームからそのまま授業に移行していくからだ。
「課題として出してあったプリントと赤ペンだけ机の上に置いて、残りは片付けて」
先生が生徒に向かって指示を出す。ここちゃんは鞄を取り出してモゾモゾ始める。
「兵衛、どうした? 早くしろよ」
「先生! プリントが脱走しました」
「兵衛、プリントのせいにするな。それを忘れた。と言うんじゃないのか?」
「えぇぇ! 俺が忘れ物したことなんてありますか!」
「いやいや、ほぼ毎日していただろう」
この光景も毎度のことなのでクラスメイトは、特に気にかけることもなく行方を見守っている。
「俺のプリント、どこに行ったんだ?すぐに戻ってきたら怒らないから戻ってきてくれぇぇ〜」
「兵衛、うるさい。静かにしろ。兵衛以外にプリント忘れた人はいるか?」
先生は生徒を見渡し、プリントと赤ペンだけを机に準備する生徒を見て声をかける。
「それじゃあ、プリントを隣と交換して。西畑は、適当にその辺と交換して。今から答え合わせして行く。50点以下の者と兵衛は追加プリントを配るから明日提出。わかったな」
「せんせ〜、俺、満点の自信あります。そのプリントが脱走しただけです」
「兵衛、いくら満点だったとしても提出しなかったら0点だ」
「先生、俺の頑張りをどうするんですか」
「提出期限は守れ!」
「それでは答え合わせ始まるぞ」
先生のこの声に、俺はノートの余白に答えでも写しておこう。いざという時に頼りになるからな〜。
「九、答え移すつもりだろうな」
「たぶん。いや、絶対だね」
今までのやり取りを見ていた西畑と美波が、ヒソヒソ話す声が聞こえたが、気にしずせっせと板書する、ここちゃんであった。