ここちゃん、猫との対決!?
「いらっしゃいませ」
店員さんの明るい声が出迎えてくれた。
「空いているお好きなお席へどうぞ」
「はぁ〜い」
「ここちゃん、小学生みたいな返事しなくてもいいと思うよ。店員さん笑ってたよ」
「美波、挨拶は基本だぞ。お前こそ無視して通るなよ。店員さんに失礼だぞ」
ちらっと振り返ると店員さんは、くすくす笑っていた。
「ほら、ここちゃん、笑われてるよ」
「笑顔と癒しを届けてられて俺、偉ぁ〜い」
「はいはい、そうでした」
美波の返事を聞く事なく、早速メニュー表を開いて格闘中のここちゃん。
「おっ、新メニューかぁ。心奪われる。いやいや、こっちのメニューも捨てがたい。料理が俺の心を掴んで離さない。困ったぞ」
「出た出た、ここちゃんの大きな独り言。私、チーズインハンバーグにしよう」
美波はテーブルの上に設置してあるタブレットで、注文品を打ち込んでいる。
「私のは打ち込んだよ。ここちゃんは? 決まった?」
「ハンバーグ、いやいやチキンステーキが、俺に食べて欲しそうにしている。いやいや、ミックスフライの海老が俺を呼ぶ……」
こうなったら話し掛けても無駄なのを知っているので、しばらく放置するしかない。
「美波、おまえ決まったのか?」
「ず〜っと前にね。既に打ち込んであるわよ」
「お前昨日から来て決めてたのか? へぇ〜そうかそうか」
謎の独り言を呟きながらタブレットを手に、格闘し始める。
「あれ? 俺のメニューどこにあるんだ? 俺に食べさせないつもりか? そうなんだな。こうなったら勝負だな、絶対に食べてやるからな。でも、ないなぁ」
「ここちゃん、やってあげようか? お腹すいたでしょ」
「おぉ! 美波がどうしても打ち込みたいみたいだから、打ち込ませてあげる。ビーフシチューのライスセットな」
「はいはい」
やっとふたり分の注文を済ませて、料理が届くまで、何気ない会話を楽しんでいた。しばらくすると。
♪♫〜
軽快な音楽と共に、猫型ロボットがやって来た。
「なんだ?」
『青く光ったところからお料理をおとりくださいにゃあ」
「お前、働き者だなぁ。時給いいのか?」
「ここちゃん、猫に話し掛けてないで料理取ってよ」
「おぉ! そうかそうか」
美波に言われ、料理を取ることに。
「俺のビーフシチュー。あれ? 猫、俺のご飯は? まさか、お前食べたのか?」
「ここちゃん、店員さんの乗せ忘れでしょ! 猫が食べるわけないでしょ」
「俺のご飯」
言うより自分で請求した方が早いと思い、テーブルの呼び出しボタンを押す。しばらくして店員さんが来てくれた。
「あの、ビーフシチューのご飯セットのご飯が来てないです」
「申し訳ございません。すぐにお持ちしますね」
すぐに店員さんが、ご飯を持ってきてくれた。
「大変申し訳ございませんでした。ライスお持ち致しました」
「ありがとうございます。やっぱり猫がご飯食べちゃってたんですか? お腹空く時間ですもんね猫も」
「ふふっ、後で叱っておきますね。ごゆっくりお召し上がりください」
店員さんも冗談で返してくれたが、ここちゃんは。
「やっぱりな! そうだと思ったんだよ。しかたねーなぁ」
この後も、猫が通るたび、ここちゃんはひとり。
「よく働くなぁ」
猫に視線を向け、称賛の言葉を送っている。
「ここちゃん、料理冷めるよ」
「猫に食われるな。俺のお昼ご飯。気をつけよう」
近くを通る度に猫にライバル意識を向けているここちゃん。美波はマイペースにのんびり食事を楽しむのだった。
「なぁ美波。それにしてもあの猫。よくここ通るな。あいつ絶対俺のご飯狙ってるよな。ははっ。しつこいよな」
しつこいのはここちゃんだよと思いつつ、落ち着きなく食べるここちゃんのトレイには、猫のご飯の量くらい食べこぼしがあった。