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ここちゃん、バレンタインと走馬灯!?

 今日はバレンタインデイなので、朝からそわそわする男子達が無駄にロッカーを開け閉めする音で、一日中騒がしくなりそうです。


 毎年私はここちゃんにチョコを渡しているのですが、今年は手作りのため例年にない緊張と不安に襲われています。


 皆さんもお気付きかとは思いますが、私はどうもお料理が苦手なようで、出来上がりがいつも漆黒色になってしまうのです。


 とは言っても、今年は英里ちゃんと一緒に作ったし、練習では失敗も多かったけど、最後には英里ちゃんから合格をいただいたので、漆黒の中に差した一筋の光を頼りに、これから渡そうと思います。


「あぁぁ、何か手が震えてる。やだなぁ。ここちゃんにチョコ渡すのガチみたいに思われそう」


 私の隣では、小柄な師匠の英里ちゃんが瞬きを忘れるほど一点を見つめ、何かを呟いています。


「九君。いつもありがとう。これ受け取って下さい……チョコって言った方が分かりやすいかな。いつもありがとうも変かな。考えれば考えるほど分からなくなっちゃう」


 まさか英里ちゃんもここちゃんにチョコを渡そうとしていたなんて思ってもいませんでした。そして、私の記憶が正しければ、ここちゃんがここちゃんのお母さんと私から以外にチョコをもらうのは初めてなはずです。


「ここちゃん、どんな顔するんだろう」


「ね……ねぇ美波ちゃん。あのさぁ。やっぱりロッカーに入れて置こうかな」


「えっ? せっかく一緒に作ったんだから一緒に渡そうよ。それに……」


「それに?」


「ここちゃんなんかに緊張したらもったいないよ」


 これは英里ちゃんに向けて言いながらも、自分自身に言い聞かせる言葉でもありました。英里ちゃんはきょとんとした顔の後、笑顔になると肩の力が抜けたように見えました。


「そうだね…………あっ、緊張がもったいないって意味じゃなくてね!」


 必死に取り繕う英里ちゃんがかわいくて、私が男子ならきっとこう思う。


「……付き合っちゃう?」


「みっ、美波ちゃん? 九君が来ちゃった!」


 にやにやしただらしない表情のここちゃんはきっと、チョコをもらえると思っているに違いない。そう思ったら少しだけ、意地悪な気持ちが登場してきました。


「よぉ美波。おっ、笹羅もいたのか。二人してどうしたんだよ。何か俺に渡したい物でもあるのか?」


 バレンタインを意識し過ぎて、言葉選びがおかしくなっているので、ここはとぼけてみようと思います。


「渡したい物? 何で?」


「えっ!? だって今日バレンタインデイだろ? あれ? 今日だよな? あれぇ?」


 腕を組んで首を傾げ、口をぽかんと開けた姿が面白く、私と英里ちゃんは顔を見合わせると声を出して笑いました。


「ここちゃん、はい。これは私から。今年は手作りだよ」


「ありがとう美波。手作……り……」


 おそらく今、ここちゃんの脳裏には走馬灯のように、私のお料理の黒歴史達が上映されていることでしょう。なので、それを消し去る魔法の言葉を唱えることにします。


「英里ちゃんと一緒に作ったのよ」


「えっ! 笹羅と? じゃあ安心か。笹羅は料理うまいもんな」


 ここちゃんも英里ちゃんが料理上手なのは知っているのでホッとしたようです。私としては複雑な気持ちではありますが。


「こ……九君。これ……あの、受け取ってくれますか?」


 ずっとタイミングを見ていた英里ちゃん。チョコを入れた箱が小刻みに震えているのが分かる。


「笹羅、ありがとう。ん? お前寒いのか? ちょっと待てよ。ほら、これやるよ」


 ここちゃんはポケットからまだ使っていないカイロを取り出すと、英里ちゃんに差し出しました。


「あっ、それはチョコのお返しじゃないからな。ちゃんとホワイトデイにはお返しするからお楽しみに。じゃあ俺、チョコしまってくるわ。二人共ありがとう!」


 うれしそうなここちゃんの背中を見送ると、隣でうれしそうにしているもう一人に声を掛けました。


「よかったね、英里ちゃん。それ、使わないの?」


 英里ちゃんはもらったばかりの未使用のカイロをポケットにしまい、ささやくようにこう言いました。


「使えないよ。もうあったかくなったから……」


 胸の前で両手を握る英里ちゃんを見た私は、自分の胸の内にも、同じような気持ちがあるのかと考えてしまうバレンタインデイでした。


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