ここちゃん、恵方巻はお静かに!?
豆まき後の後片付けが、今年は過去最高に面倒でしたが、それもこれも全部ここちゃんが、ミックスナッツを用意したのが原因でした。
「いや〜、すっかり部屋も綺麗になったな。ってことで、恵方まきまき、食べようぜ!」
「ひと巻き多いけど、まぁいいわ。食べましょう」
ここちゃんは自分用の恵方巻を持参していたので、私も近所のスーパーで予約していた物を持ってきた。
「今年の恵方は西南西かぁ……こっちね」
「こっち向いて食べるんだな? あと何かしちゃいけないことあったよな?」
私は方角を調べると、ここちゃんに恵方巻のルールを説明した。
「えっと……恵方を向いて、食べるのを止めずに一気に食べる。あとは、お願い事をしながら黙って食べるだって」
ここちゃんは宙を仰ぎながらインストール中のようです。
「あっち向いて、お願い事をしながら黙って一気に食べる……」
「まぁ、そうね」
去年もやってるし大丈夫だろうと思っていても、相手がここちゃんとなれば、皆さんもお察しの通り話は別です。
「お願い事言いながら食べたら、黙って食べれなくないか? あといくら神様だって、もぐもぐしながらお願い事されたら聞き取れないと思うぞ?」
「心の中で唱えながら食べたらいいんだよ」
「そっか。じゃあさぁ。こんなおっきな物、一気に食べるにはどうしたらいいんだ?」
「一気ってひと口ってことじゃないわよ! 途中で食べるのを止めなければいいんだから。ほら、食べるよ。いただきまぁす」
私とここちゃんは西南西を向きながら、大きく口を開けて恵方巻を食べ始めました。
お願い事を反芻しながら、口いっぱいに広がる贅沢にうっとりしていると、何やら視界の端がうるさくなってきました。
「おいしいな、美波」
そうです。普通に食べて、うれしそうな顔をこちらに向けながら、感想を述べているここちゃんがいたのです。
「美波のも美味しいか?」
疑問形で話し掛けないでもらいたい気持ちと、無視するのも悪いという気持ちがせめぎ合い、私は頷きながら食べることで精一杯でした。
何とか最後まで食べ終わり、ここちゃんの方を向くと、私が話し掛けるのを制するように手を出しながら、待ってとジェスチャーで伝えてきます。
「ここちゃんのせいで、途中からお願い事するの忘れちゃったじゃない! いいわ、今しちゃおう。どうかここちゃんが、言われたことを出来るようになりますように! よしっ!」
するとここちゃんの口が止まり、こちらに出していた手を、一度全部握り親指だけビシっと立てたのです。
「わかったぜ! じゃないわよ! 出来てないんだからね!」
こうして、騒がしくも恵方巻をいただき、今年の節分は終わりました。




