ここちゃん、恐怖の忘れ物!?
「ここちゃん。家の机の引き出し掃除してたら、こんなもの出てきたんだけど、何か覚えてる? これ、ここちゃんの字よね? 汚いからすぐわかったの」
「初手で心臓突き刺すような一言とは驚きだな」
「ごめんごめん」
何だかよくわからないけど、とにかく軽い。消しゴムを一回り小さくした程の大きさで、枯れ葉色のような色をしている。
私はそれを受け取った記憶が無く、でもそれには、たしかにここちゃんの字で『五子』と書かれていた。
「ごこ? ほんとだ。俺の字だ。なんだっけなぁこれ。どっかで見たような。何で美波の机に……あっ」
何かを思い出したここちゃんは、ゆっくりと謎の物体に手を伸ばし、そのままポケットへとしまった。
「ちょっとここちゃん! それ何なのよ。思い出したのなら教えてよ。気になるじゃない」
「いや〜。でもほら、世の中には知らない方がいいこともあるわけでして……」
「私の机の引き出しに入ってたのよ? 関係ないじゃ済まないでしょ。いいから教えなさい!」
「美波のためにも知らない方が……」
このままじゃ埒が明かないと思い、私はここちゃんのポケットに手を入れ、謎の物体を取り出した。
「まぁ、美波さんたら強引なんだから」
「やかましいわ! ここちゃんが言わないなら、自分で調べるからいいわよ」
スマホのカメラで撮影をすると、それが何なのか教えてくれる機能があることを私は知っている。
「何が出てくるのかしら。楽しみねぇ、ここちゃん」
「いや〜、俺は別に楽しみってことは……」
口を濁すあたり、よくない物なのではと思ったが、それは想像を超えてきた。
「こ……ここちゃん。これって……な、何で? 何でこんな物が私の机に入ってたのよ!」
スマホの画面に映し出された物を確認した私は、衝撃で握りつぶしてしまいそうになった。
「ちょっと美波! 気をつけろよ! カマキリのたまごなんだから!」
「そうよね! これカマキリのたまごよね! あっ! 『五子』ってあれ、『玉子』って書いてあったのね!」
「ピンポ〜ン。大正解! 俺の机じゃ汚くて潰れたら可哀想だろ? だから、美波の机ならいいかなって思って。へへっ!」
「カマキリの前に、私のことも可哀想がりなさいよ! このバカここちゃん! すっかり忘れてたわよね! 孵化したらどうするつもりだったのよ! あと『へへっ』じゃないわよ全くもう!」
「でも憎めないよな? そういうとこ」
「自分で言うなぁぁ!」
知らなくていいことはたしかにあるかも知れないけれど、好奇心がそれを許さないようです。皆さんもどうぞお気をつけください。




