ここちゃん、10年後もよろしく!?
「美術部のみんな、英里ちゃん、恵那ちゃん…………あれ?」
届いた年賀状を整理していたときのことです。皆さんもお気付きの通り、無いんです。ここちゃんからの年賀状。
もらえるものはもらいたいスタンスでお馴染みのここちゃんですが、珍しく今回は『お楽しみに』とのこと……だったはずなのに。
「催促するみたいで嫌だけど、ちょっと連絡してみようかな」
電話を鳴らすと、すぐにいつもの元気な声に繋がった。
「おう。美波どうした?」
「あっ、ここちゃん。あのさぁ、年賀状なんだけど……」
「ちゃんと届いてるぞ。サンキューな」
「うん。それでね。ここちゃんからのが届いてなくて、もしかして忘れてるんじゃないかと思って。ほら、お楽しみにって言ってたでしょ?」
「……………………」
どうやら図星と思われる間があり、だからといってちょうだいとも言えずにいると。
「なぁ美波。その年賀状なんだけど」
「やっぱり忘れてた?」
「はははっ。忘れて……いやいや、今ここにある。なぜかわからないけど!」
言い訳が苦しいのはここちゃんの得意技なのです。
「美波。これは事件だ! 出してない年賀状ここにある事件!」
「事件の名前から犯人わかるわよ! ここちゃんがお楽しみっていうから、私待ってたのに」
「そんなに俺に会いたいのか? わかったわかった。今から行くから待ってろ」
そういうと一方的に電話を切り、一分後には家のインターホンが鳴った。
「行動力があるのかないのか。はぁい。今行きまぁす」
玄関を開けると息を切らしたここちゃんが立っていた。
「ここちゃん。急いできたのは分かるけど、それパジャマよね?」
「そんなことより! これが俺の部屋に置きっぱなしになってた証拠の年賀状だ!」
「そんなことって。ただの出し忘れじゃない。でもありがとう」
年賀状を受け取り、何気なく書いてある文章を目で追った。
「このはがきは、今後10年有効です?」
「そうなんだよ。俺頭いいだろう。今後10年有効ってことは、つまり、10年間年賀状書かなくていいってことだ!」
「まさかここちゃん、これを他の人にも送ったんじゃないでしょうね!」
「さすが美波。そうなんだよ。そりゃ驚くよな? こんな発想誰も思いつかないもんな」
「……ここちゃん! 書き直し! 年賀状書いた人全員分ね!」
私とここちゃんは家中の余った年賀状をかき集めると、手分けして書き直し始めた。
「なぁなぁ美波。初めての共同作業だな」
「やかましいわ!」




