ここちゃん、天使様に出会う!?
「あふれる笑顔のために」の笹井悟が登場します。良いコンビになってくれると良いのですが……。
九と悟
ここさとコンビが贈る物語をお楽しみください。
九が通う、星見台高校は緊急で校舎の改修工事が行われる事になり全校生徒は午前中で授業を終えて帰宅となった。
早く帰って、推理力を高める練習をしなくては。いつも謎が語りかけてくれるおかげで、難事件もスラスラ解決してしまう俺って、頼りになるよなぁ。うん、努力しなくては。
決意を新たに駅に向かう道中、いつも通学路にしている道が工事中で迂回をするよう警備員に言われた。
「お兄さん、ごめんね。ここ今、通れないんだよ。駅まで遠回りになってしまうけど、右側の道沿いを駅に向かってくれるかな」
そう言って道を指差している。
「おっちゃん、わかった。ありがとう」
「お兄さん物分かり良くて助かったよ。こちらこそありがとな。勉強頑張れよぉ〜」
「おっちゃんも頑張ってなぁ〜」
「あいよぉ〜」
普段より機嫌のいいここちゃんは、警備員と会話を楽しんで、遠回りをして駅に向かった。
「今日は良い日だなぁ。冴え渡る推理が発揮できる予感か? いやいや、謎が俺に味方するからな。どんな難事件でもドンと来いだ」
機嫌良く駅に向かっていた時、ふらつきながら走行している自転車がここちゃんめがけて突っ込んできた。幸いにもぶつかる事はなかったけど、勢いよく転んでしまった。自転車は相変わらずフラフラしながら、逃げるように走っていった。
「君、大丈夫?」
ここちゃんは、声の主へ視線を向けると。
「怪我してない? 痛いところはない?」
この優しい言葉の数々が、自分に向けられているものと知った。
「あっ、天使様がいる」
そう返事をしていた。
「僕は、なろう大学附属病院周産期医療センターで看護師をしている笹井悟です。怪我の確認だけど、痛いところとかない?」
「僕は、星見台高校2年の兵衛九です。 あっ! 血が出てる!」
咄嗟に手をついたため、手のひらを擦りむいたようで血が滲んでいた。ここちゃんはうっすら血が滲む掌を、思いっきり悟めがけて力強く見せた。
「擦過傷だね。他には痛いところとかは?」
俺の天使様は、とことん優しい天使様。かぁちゃんや美波もこれくらい優しかったら良いのに……。と何故か頭の中は余裕があった。
「大丈夫そうです」
「よかった。それじゃあ、擦過傷の手当しておこうか。バイ菌入って化膿したら大変だからね」
そう言うと天使様は、鞄の中から新品のペットボトルの水を出して、俺の傷口にかけて洗ってくれた。
「痛くない?」
俺の天使様は、とことん俺を気遣ってくれる。
「大丈夫です」
「消毒薬やアルコール綿花で被れたことある?」
「アルコールめんか? ……麺か? ……面か? ……面会?」
頭の中で必死に考える九。
「注射の時とかに針刺す場所消毒する白い綿みたいなので拭くでしょ。アレだよ。アルコール綿花」
「天使様説明ありがとうございます。わかりました! 注射痛いです」
「いやいや、注射の話じゃなくて、注射の前に拭くアレで痒くなったりした事ない? っていう話なんだけど」
「痒くならないです。痛いですから」
真剣に答えるが、何故かイマイチ理解してもらえていないように感じる。
「わかった。かぶれないって事だね。それじゃあ消毒するね」
そう言って俺の天使様は、ピリッと小袋を破いて中から白いティッシュみたいな物を出して、俺の掌の大出血を起こしそうな傷の部分を拭いている。
「この綿花、消毒液が含まれているから少し染みるかもしれないけど我慢してね」
「天使様、お医者さんみたいです。かっこいいです!」
「消毒くらい誰でもできるよ」
会話しながらも手を動かすのを止めない俺の天使様。そして。
「はい。絆創膏を貼っておしまい」
手際よく消毒をして絆創膏まで貼ってくれた俺の天使様。
「天使様ありがとうございました。命の恩人の天使様には感謝しかありません」
「大袈裟だなぁ。大した事してないよ。それじゃあ気をつけて帰るんだよ。じゃあね」
俺の大事故に駆けつけてくれた天使様は、掌の手術をして颯爽と帰っていった。
「天使様、かっこいい」
ひとりで感動をしていると、聞き慣れた声がした。
「なに? 天使様って」
「美波! 今、いたんだよ。俺の天使様が!」
そう言ってたった今、手当してもらった掌を力強く美波に向かって見せるが、美波は冷たくあしらう。
「擦りむいたくらいで大袈裟な天使様だったんだね」
「心を優しく持ってないと、天使様は現れないんだからな!」
「はいはい。帰るよ」
そう言って俺を追い抜いていく美波の後ろを追いかける。
「美波、お前も天使様を見習えよ」
「それならその大手術をしてもらった手を、包帯でぐるぐる巻きにしてあげましょうか?」
「ひぇ〜。美波、お前俺の血の流れを止める気かぁぁぁぁ!」




