ここちゃん、世界へ羽ばたく!?
私とここちゃんが住む街にはアーケード商店街があります。
梅雨入りした今、傘を差さずに歩けるのはありがたい。
そして、今日はここちゃんが大事なミッションを遂行するため、二人で商店街へとやって来ました。
「それにしても商店街も太っ腹だよな。特賞オーストラリア旅行なんて。俺がこの伝説の左手で引き当ててやるからな!」
「その左手にどんな伝説があるのかはわからないけど、ここちゃんじゃ……」
「引くよな! 絶対! 日頃の行いがいいもんな」
めちゃくちゃポジティブなここちゃん。案外、こんな人が引き当てるのかも知れません。
「あった。福引き所!」
ポケットからくしゃくしゃになった福引き券を取り出すと、ここちゃんは緊張の面持ちで、ガラガラに手を掛けた。
「お兄さん。当てちゃってちょうだい。特賞はオーストラリア旅行だよ」
「いただきます。レッツ! オーストラリアァァァ!」
ぽとりと落ちた玉の色は──
「……白」
「残念。白はポケットティッシュです」
まぁそんなにうまくはいかない訳で。
「そういえば、私も一枚あるんだった。お願いします」
絶望の顔がニコッと反転したここちゃん。
「よし、美波。お前の運をここで使い果たせ!」
「いやよ! 私は一等の有名ホテルのスイーツ食べ放題を狙うんだから」
「お姉さん当てちゃって。一等もまだ出てないからね」
ゆっくりと回し、ガラガラと音を立てながら一つの玉が落ちてきた。
「なんとっ! これはっ! おめでとうございま〜す! 特賞のオーストラリア旅行です!」
カランカランと鐘が鳴り、アーケード中に響き渡る『特賞』の声。
「み……美波。お前……ととと特賞だぞ!」
「一等が良かったのになぁ」
「あほ。そんなこと言うもんじゃないよ。オーストラリアの神様が泣くぞ。で、いつ行く?」
「オーストラリアの神様って何よ。それから、何で一緒に行く感じになってるのよ」
「だって、ほら」
ここちゃんが指差した先には。
「特賞。オーストラリア旅行。ペアでご招待! ぺぺぺペアだからって、別にここちゃんと行くとかじゃ……」
「あっ! 俺パスポート無いから作らないとな。おい美波行くぞぉ!」
特賞の目録を手に持ったここちゃんは、満面の笑みで私を呼んでいる。
「……何か……付き合ってるみたいじゃないのよ」
このオーストラリア旅行で、私とここちゃんは想像を絶するような体験をすることになるのですが、それはまたいずれ──
「ここちゃん、待ってよぉ!」




