ここちゃん、勝利の女神は雨の日に!?
「また雨かぁ」
窓から外を眺め、ひとりつぶやく。
「九、今日も……だな」
「はへっ? ごめん、なんか言った?」
「お前なぁ」
「ごめんごめん、んで、なに?」
「今日も練習中止だな」
俺と、声をかけてきたクラスメイトの長尾は、クラス代表でリレーの選手に選ばれているため授業後に担任指導の元、練習が予定されている。
「長尾なら練習なくても、ぶっちぎりでゴールテープ駆け抜けるから大丈夫だぞ」
「九、お前は練習したほうがいいぞ」
「長尾、そこは、俺を褒めちぎるところだろ?」
「誰を褒めちぎるんだって?」
2人の会話に割り込むように声をかけてきた美波。
「美波、そりゃ俺をだろ」
「長尾君、担任の先生が相談したいことあるから職員室来て欲しいって」
「ありがとう。行ってくるわ」
片手を挙げ挨拶して教室を後にする長尾の背中を見送った。
「みんな俺がぶっちぎりで駆け抜ける姿を期待してるからな。練習頑張らなきゃな」
「去年は、途中で派手に転んでなかった?」
「あれは転んだんじゃなくて、グラウンドが俺を抱きしめたんだよ。俺の走りがあまりにも華麗だったから」
「はいはい」
「九君の颯爽と風のように走るの期待してるよ。ちゃんと応援してるからね」
「おぉ! 女神が舞い降りた!」
クラスメイトの阿部麗奈が、話しかけて来た。
「九君が練習できるように、てるてる坊主作って晴れますようにってお願いしておくね」
「麗奈はやっぱ女神だな。美波、お前も見習えよ」
「はいはい」
「練習は、明日からだな。さぁ、今日は帰るぞ!」
帰る時だけは颯爽と風を切るように駆けていく九。
「美波、九君って帰る時だけは行動早いね」
「麗奈、今頃気づいたの?」
教室に、美波と麗奈の笑い声が響く。
「やる時はやる男だって、ここちゃんはいつも言ってるけど、今違うってタイミングで本気出しちゃうのよね」
「美波は九君に厳しいなぁ」
「そう? ほら、ここで活躍しないと、ここちゃんあと出番ないから、張り切って応援するぞぉぉ!」
「あんた達ってホントお似合いだわ」
「ん? 何か言った?」
「ううん。なんにも。あっ、九君戻って来た」
「美波、傘忘れた」
「全くしょうがないなぁ。ほら帰るよ」
「ありがたやぁ」
麗奈はそんな二人を微笑ましく見送るのであった。




