ここちゃん、ニンニンで万事解決!?
ここちゃんの通う星見台高校は、午後から緊急で校舎の改修工事が行われるため、全校生徒は午前中で授業を終えて帰宅となった。
「天気はいいし、午後の授業は無いし良い日だなぁ」
公園のベンチに座り、空を見上げてぼんやりしていた。目をつむり現実逃避のように数学の課題のことなど忘れひとときの幸せな時間に浸る。子供達の賑やかな声が聞こえて思わず笑みが溢れる。
「なな、かなしゃんに、おしえてもらったですよ」
「なにをおしえてもらったでしゅか?」
「しゅりけんっていうのを、なげてつかうです」
「なげたらあぶないのことでしゅ。ろく、こわいのこと」
かなちゃんが、折り紙を使って作った色とりどりの手裏剣を大事そうにポケットから取り出すななちゃん。
「かなしゃんが、つくってくれたですよ。ろくしゃん、これならこわくないよ」
「ろく、ピンクのがいいでしゅ」
「いいよ。はちしゃんは、どれにしますか?」
どんぐり探しに夢中だった、はちちゃんは、ななちゃんの声に、どんぐり探しをやめて。
「ななしゃん、なにでちゅ」
ななちゃんと双子の妹のろくちゃんの元へと駆けてきた。
「かなしゃんが、つくってくれたしゅりけんです。くのいちしゃんのれんしゅうするですよ」
「はいでしゅ」
「はいでちゅ」
3人揃って手裏剣を投げる練習を始めた。元気いっぱいの、はちちゃんの手裏剣は、しゅ〜んと飛んでベンチの方へ飛んでいった。
ここちゃんの足元に、はちちゃんが投げた手裏剣がポトンと落ちた。ここちゃんが、折り紙でできた手裏剣を拾って眺める。
「しょれ、はちのしゅりけんでちゅ」
「はちちゃんって言うんだね。上手に投げられるんだね」
「おにいしゃん、だれのことでちゅ? はちと同じくのいちがっこのことでちゅか?」
突然、可愛い子に話しかけられて、ここちゃんは、数学の課題のをすっかり忘れて相手になる。
「お兄さんはねぇ、星見台高校の2年生、兵衛 九だよ」
「はちでちゅ、しゃんしゃいでちゅ」
「はちちゃんは、3歳なんだね。上手にご挨拶できるんだね」
「ここしゃん、あいがとでちゅ」
ここちゃんは、カバンの中からノートを取り出して、1枚破り手裏剣を作ると。
「お兄さんが、手裏剣の投げ方を教えてあげるよ」
そう言うと、はちちゃんと一緒にななちゃんとろくちゃんの元に歩いていく。
「ここしゃん、しぇんしぇいでちゅよ」
はちちゃんが、ここちゃんを紹介する。そして手裏剣の授業が始まった。
「まず、先生がお手本を見せるからね」
そう言ってここちゃんは、ノートを破いて作った手裏剣を投げるために構える。
「こう構えて、目標に向けて手首を使って勢いよく投げると……」
ここちゃんの放った手裏剣は、ここちゃんの足元にポトンと落ちる。
「あれ? なんでだ? あっ、そうか。謎が俺に語りかけてきたぞ。そうか、そう言うことか!」
「あのおにぃしゃん、どちたでしゅか?」
ろくちゃんが、心配そうにここちゃんを見つめる。
「忍者界の事がバレないように、俺に見事な手裏剣投げを披露させないんだな。そうか、そう言う事だったんだな」
「おにぃしゃん、おっこちたでちゅ」
「はちちゃん、お兄さんねぇ、忍者界の人に正体がバレないように手裏剣投げを下手になるように魔法をかけられてるんだよ」
忍者に魔法をかけられていると説明すると、素直な3歳児たちは、ここちゃんの話を真剣に聞いている。
4人でノートで作られた足元に落ちた手裏剣を囲んで座り込んで話していると、聞き慣れた声が響いた。
「なな、ろく、はち、練習終わったの?そろそろ帰るよ〜」
公園の入り口で電話を終えたかなちゃんが3人に声をかけた。3人はかなちゃんの声に反応して。
「かえるでしゅ」
「おにぃしゃん、にんにんがんばるのことよ〜」
「ばばぁい」
ここちゃんにそれぞれ声をかけてかなちゃんの元へと走っていく。ポツンとその場に残されたここちゃん。
「誰が忍者界の人に魔法をかけられたんだって」
ここちゃんの後ろから美波が声をかける。
「お前、声が大きいぞ。存在がバレるだろ」
「はいはい、それより数学の課題のこと忘れてはないでしょうね」
「あっ、も、もちろん。そんなの俺にかかれば数分で終わる」
「じゃあ、私に答え聞いてこないでよ」
「美波、お前も忍者界の人にケチケチ魔法をかけられてるのか?」
「バカじゃない? 忍者が魔法使えたら、手裏剣投げて戦わなくても良いんじゃないの」
「おぉ! 美波、お前頭いいな」
「くだらない、もう先に帰るからね」
「おいおい、置いてくなよ」
ベンチに置いてあった荷物を慌てて抱えて美波の歩いて行った方へ走って追いかけた。
「なぁ美波。数学の答えが合ってるか確認してやるから言ってみ?」
「そんな新手の詐欺みたいなのに引っかかりません! せいぜいニンニン頑張りなさい」
「ニンニンじゃ数学解けないってぇぇぇ!」