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いけすかない顔をした男を一撃。
用があるのは記憶で見た男だけだ。この男は主犯。残りの奴らは来ていないか。残念。まぁいいや、とりあえずこいつがいれば。
残りの2人は放っておこう。何かしてきたらその時はその時だ。襲ってきたところで僕に敵うわけ無いし。何もしないなら見逃す。面倒だし。
主犯の男をかっさらって、家から離れた巨木の枝の上に乗せた。それから気絶している男をさらに適当にぶちのめす。うん、いい感じに血がばらまかれたね。これで僕がいなくなれば、匂いにつられたやつらが美味しい餌目掛けて殺到することだろう。大人気間違いないよ、うん。新鮮な血の匂いを嗅ぎ付けたやつらがそわそわしているもの。
うん、やっぱり生きてる餌の方が美味しいよね!
さて。
それでは仕上げといこうか。
さっさと家に帰り、あの子を呼び出す。
なああん、あおぉん!あおあーん!
くあぁあーーーん!
あおあお、なあああーーーん!!
洞窟の前での僕の大騒ぎに、あの子がそろっと顔を出す。目だけで辺りを忙しなく眺めて、警戒している。
無理もない。でも、大丈夫だよ。
もう大丈夫。
「ーー?」
小さな声で話しかけていたあの子が安心するよう、にゃぁ、と小さく鳴いてゆるく尻尾を振る。ちょっと安心したのか、あの子が洞窟からゆっくり出てきた。よしよし。
首の後ろ辺りの服を咥えて、走り出す。
「ーーーー?!ーーー!!」
あの子が喚いているけど、今は無視無視。急がないとね。
さっきの巨木まで、僕の足ならすぐだから。
こういう時、猫の身体ってちょっと不便。まぁ仕方ない。子猫を運ぶ母猫スタイルで運ぶから、ちょっと苦しいかもしれないけど我慢してねーーすぐだからね!
あの子も、叫ぶのをすぐにやめた。何か察したのかな?それなりの付き合いだからね、僕が何か目的があってこうしているのくらいわかるだろう。……単に苦しいだけかもしれないけど。
ひょいひょいひょいっと、はい到着!
さっき放置した男がよく見える、あの巨木から少し離れた木の枝の上に、あの子をとすんとおろした。あ、立てないっぽい。ぷるぷるしてる。ちょっとかわいい、かもしれない。
ツンツンと尻尾でつついたら、頭を軽くひっぱたかれた。にゃん!復活が早くて何より……とはならんぞ!やったな!
まだ上手く身体を動かせないのをいいことに、あちこち尻尾でくすぐってやった。尻尾2本あるからね、あっちを防いでもこっちがあるぞー。えいえい。
おっと、それどころじゃなかった!
さて、どうなってるかな。
あの男の回りには、肉食の獣が数匹うろうろしている。気になるようだけど、でも何故か近付かない。数メートル離れたところの枝から、あの男を見たり、周囲をキョロキョロ見回している。
なんだろ?
あ、僕の匂いが付いちゃったからかな。僕の獲物と勘違いしてるのかも。
いらないよこんなやつ。例えお腹が空いていたとしても(僕お腹すかないけど)、こんなの食べたらお腹壊すし舌が腐るわ。
なーん、と軽く一鳴き。
ばっ、とこちらを振り返った獣達が、僕を見た。僕の様子を見て、あの男はいらないのだと分かってくれたみたいだ。早速、一匹があの男に近付いた。
あの子は、それを震えながら見ていた。
ねこって意外と「にゃー」って鳴かなくないですか?