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さて、ここで断っておく。

僕は『観測手』である。

みんな覚えてるー?僕は覚えてるよ、一応ね!だって、ここにいる原因だし。普段は正直忘れてるけど。



観測手という役割は正直よく分からない。が、『観測』するというとこは、見守る、つまり手を出さない、ということだろう。そう判断してきた。

なので実は、今まで僕は、他の生き物同士のやりとりに介入したことは無いのだ。あくまで自分が当事者のときだけ、関わってきたつもりだ。自ら積極的に動くこともまた、無い。


動物達の争いも手を出さないし、川で溺れている子を見たって助けない。

弱肉強食、人間でなくとも万事塞翁が馬だ。


僕は、見ているだけだ。



なぜこんなことをわざわざ説明するのかって?

決まってるじゃん。

そこを気にするくらいには、僕はあの子のことを気に入っているのである。




という訳で、謎の偉い人通称エッちゃーん!


ーー1回呼ぶごとに1ポーズ!


んんん……なぁんっ


ーーぐはっ



コントのようなやりとりののち、エッちゃんがあらわれ……なかった!

声だけです。いつものこといつものこと。




ねえ、エッちゃん。


僕が手を出すのは、観測手としてルール違反?


ーーそうともいえるし、そうでないともいえる


好きに過ごしていい、って言っていたよね。駄目な点は?


ーー観測手と悟られること、だよ


そこの定義をもっと詳しく。


ーー君の後ろに、世界を観測している存在がいるということ。それを命あるものに認識されること、だよ


ーー君自身が、この世界を観測する、見ていると思われるのは構わない。但しその背後に我々がいることを察せられた時点でアウトだ


ふむ。

観測手っていっても、けっこうフリーダムなんだね。そこさえ気を付ければ、何をしても構わない、と。

なら。僕が例えばこの世界の神様だと思われても、その上位がいるとこを悟らせなければオッケーなのね。


じゃあ。

観測手と悟られたらどうなるの?



ーー聞きたい?



エッちゃんの声のトーンは変わらなかった。でも、周囲の気温が急に氷点下になったような気がした。

小さな針が肌を刺すような気配。沈黙の耳鳴りで頭痛がする。

背中の毛がそそけ立った。



……なるほど、やめておくよ。


そう言うと、世界が温度を取り戻した。





ねぇ、エッちゃん。

お願いがあるんだ。聞いてくれる?


ーー中身による


二つの尻尾をゆらりと、左右に広げて先端を緩やかに曲げ、


お願いっ(ハート型)


ー何でも言ってくれたまえ!!



締まらないね、まったく。





エンゾーは、焦っていた。

『強き力をもつもの』が現れて1年。村が、生け贄の少女を捧げてから、季節が一つ変わってしまった。

なのに、加護が、一向に与えられない。

村の巫女である大婆様が、嘆き、不審に思っている。本当に生け贄は捧げられたのか、と。


古くからの村の伝承で、『強き力をもつもの』へ生け贄をささげると加護を得る、と言われている。むかしはその存在を感じ取れる者が沢山いたらしいが、今は村長のいる巫女の一族のみだ。そう言われている。


エンゾーは常々、村長を胡散臭いと思ったいた。だから今回、巫女の占いによって選ばれた少女を連れていく任務についたのだ。

名誉ある任務といわれ、支払われる手当ては僅か。危険な魔物が溢れている森を護衛しつつ進むなど、それこそ馬鹿げている。

だが、年若く麗しい少女がいる。巫女が作った魔物避けもある。()()()()楽しい思いをして、目的地に適当に放り込んで、村に帰ったら村の英雄だ。さぞイイ思いが出来るだろう。

護衛は4名、皆狭い村の中でそれなりに気心の知れたやつらばかり。皆考えることは似たり寄ったり。


オイシイ、と思ったのだ。その時は。



想定外だった。襲った生け贄に逃げられるなど。

目的の場所は近い。しかし、この危険な森の中、たった1人の小柄な少女を見つけるなどほぼ不可能だ。見つける前に死んでいる可能性だって高い。それに、魔物避けの入った袋に傷をつけられた。真っ直ぐ村に帰らないと、自分達の命だって危うい。


そして、生け贄の少女を放置し、急いで村に引き返したのだ。


村には、きちんと『強き力をもつもの』の拠点に生け贄を捧げてきたと伝えた。実際に近くだったし、構わないだろう。所詮は生け贄、殺されることに変わりはないのだ。



まさかまた、行くことになるとは。4人いた護衛のうち、オレだけ。しかも今度は見張り付き。村の手練れのオッサンが2人だ。とても勝てる気がしねぇ。

やってらんねぇぜ、と不貞腐れつつ村を出た。


泥濘に足を取られ、霧のような雨のなか、周囲を警戒しながら進む。見通しも悪く、敵の接近に気付きにくい。魔物避けだって万能ではない、効かないものもいるのだ。外気温は寒いのに、汗がふきだす。

前回は、それでもやる気に満ちていた。その先で、明るい未来が待っていると思えたから。しかし今回は、自分たちの不始末がばれたらどうなるか分からない。場合によっては、見張りを巻いて逃げ出して、『強き力をもつもの』の情報を売れば何とかその先で生活出来る……いや、そもそも1人では森から抜けられない。見張り役は真面目なやつらだ、こちらに取り込むことも厳しいだろう。どうする。どうする!


今更ながら、自分の置かれた状況に焦る。

そもそも、『強き力をもつもの』が本当に居るのだとしたら。自分達のやったことは、生け贄の横取りともいえるのでは。そうしたら、無事目的地についても……


思考が巡る。まとまらない。汗が目に入って、視界が霞む。足が重い。見張りの2人がなにか言っているが、聞き取れない……


背後で、ガサリと音がした、気がした。


野良猫に警戒されないよう、立ち止まって気にしてないフリしていたら、いつの間にかいなくなってた。

悲しい……

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