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そろそろ本格的に魔術をしたい。
エッちゃんはいつ帰ってくるかわからないし。なにか方法はないだろうか。
エッちゃんから言いつけられた修行は、それなりに毎日やってるつもり。でも、目に見える変化がないのでちょっと飽きてきたのであります。
研究都市の図書館…いや、目立ちそうだ。リファーカの魔獣王についても知ってる人多そうだし。
じゃあそこそな大きさの街の…魔術に詳しい人いないかな。研究所とか学院とか所属じゃなくて、フリーな人。そんな人がいるのか知らんけど。僕に魔術本とか読んで聞かせてくれるような変人がいいな。探せ!目指せ変人!(違)
馬車に揺られつつそんなことを思っていた僕。
到着した街が、じつにそんな感じの街だったので思わず尻尾ぴーん!てなった。
御者の見ていないすきを狙って、ぴょい。
ここまでありがとうございましたー!
さって、一時の家を探しつつ、変人探しだ!
と思っていたのが約1週間前。
「なんじゃおぬし、またそんなところにいよって」
椅子の上のクッションにもたれかかってうとうとしていた僕に対して、爺さんはあきれたようにそう言った。
さて僕は今、この偏屈な爺さんのところに勝手に居候している。
この爺さん、なんと都合の良いことに魔術師なのだ。昔はエリートではあったんだろうが、今は田舎暮らしをしている偏屈で口煩い頑固者。それが近所の人の評判だ。
この爺さん、お爺さんより爺さんのほうがしっくり来るんだよねー。だから心のなかで爺さんって読んでる。
この爺さんと出会ったのは、この街を探検している最中だった。道具屋さんっぽいお店で、店主と話しているところに偶然遭遇した。話してるというか、ちょっと揉めてるといった感じだったけど、なんだか仲良さそうな感じ。喧嘩友達みたいな?
その最中で「偏屈魔術師」というワードが飛び出したんで、僕の耳がピクっと反応したわけだ。
僕、魔術師ってエッちゃん以外にはエニシしか知らないんだよね。しかもエニシの場合は杖が特殊っぽかったし。だから普通の魔術師にはとても興味がある!あわよくば魔術のやり方を学びたい。くっついていればそのチャンスがあるかも。
そう思って、あとをつけた。そしてここのお家にたどり着いたってわけ。
まあそんなこといっても、見知らぬ魔獣に魔術の教えを説く酔狂な人物がいるはずもない。なので、ここに居座って、魔術が使われるさまを観察しようと思った次第であります。
偏屈爺さんは最初僕を見かけたときは鼻を鳴らしただけだった。シッシッと追い払われたこともあった。しかし何度も僕が現れるようになると、わりとすぐに気にしないようになった。一人暮らしっぽいし、これはいけるんでない?
これ幸いと、隙をみて家に入り込み、なぁんと鳴いてアピール。いーれーて。もう入っちゃったけどね。
そんな感じで、ちゃっかりと居座ることに成功したサブであります。
爺さん、実は動物嫌いではないと見た。
ある日、なんか本を読んでいた爺さんがおもむろに立ち上がって、僕の方によってきた。おっ?僕に構おうなんて珍しいな。
「飼い主がいるのはわかっとったが、おぬし、冒険者の連れか。飼い主はどうした」
首元の冒険者プレートに気がついたらしい。今頃?まぁあんまり僕に興味なさそうだったし、こっち見なかったしね。
飼い主というか先生のエッちゃんはお留守です。
くぁあ、とあくびをしてアピール。
これが通常運転だよん。今は僕一人(一匹)放浪中なの。
首元の冒険者プレートを確認した爺さんは、驚いたように呟いた。
「なんじゃ、おぬし組合の監視付きか。何をやらかした。それにしては単独行動をしておるようだが」
やらかしてないもん!やらかして…いや、あれはやらかしたのか?
いやいや、僕が魔獣王だから監視がついている、だったはず。そうだよね、うん。多分。
どうでもよいことは忘れてしまうのよねー。
というか、監視付きってわかるものなんだ?
見る人が見れば、ってやつなのかしら。
魔術を見るために入り込んだ爺さんのお家だが、非常に居心地がよく、魔術が割とどうでもよくなってしまった。だって来客もほとんどなくて爺さん一人だから静かだし、町の外れのほうだから周囲もそんなに騒がしくないし、畑や小さな森なんかもある。快適。実に快適。
余生をこんなところで過ごせるなんて、なかなかいい人生なんじゃない?どんな人生を歩んできたかは知らないけど。
いや分からないよ、実は壮絶な人生だったとか、数奇な運命にさらされて生きてきた人かもしれないけどね。
というか、魔獣王が家にいる時点で相当数奇な運命よね。うん。
というわけで、その魔獣王にもっとかまってくれてもいいのよ?
具体的には、お尻の付け根とかトントンしてくれるとすっごくうれしいんだけどなー。




