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パルーの大騒ぎを聞きつけて、どうしたどうした、と数人の船員がわらわら集まってきた。
そのうちの一人が、あれっと素っ頓狂な声をあげる。
「ありゃ、エッちゃんとこのサブじゃねえか」
ずいぶん高いところに登っちまったなぁ、と手をかざして見上げる男は、あの生き物について知っているらしい。
「ローノさん知ってるんですか!あいつ、ロープとか帆とか傷つけませんかね!?おれ弁償なんて出来ないっすよ」
ほとんど泣きそうな顔のパルーに対し、焦るな焦るなと呑気に返事をするローノは、特に心配する風でもない。
大丈夫大丈夫、とパルーの頭をがしがしと撫でた後、おーい、ローノは手を振った。
「サブー!そのへんのもの傷つけんなよー?」
そのサブとやらは、プランと尻尾を振っただけだったが、あれは返事をしたのだろうか。
というか話しかけただけで伝わるものなのか。
今後の船員生命にかかわるだけに、パルーは気が気ではない。でも自分は見上げることしか出来ない以上、ローノを信じるしかないのがつらいところだ。
「しっかし、今回の乗客にエッちゃんいたっけ?」
「ローノ、そのエッちゃんって誰だ?」
集まった船員の一人が言う。
「なんだ知らないのか」
ローノ曰く。
エッちゃんとは冒険者だそうだ。ものすごい美形で、一度見たらわすれられない顔をしてる。サンデローネの街ではちょっとした有名人で、水の魔術も使える上に顔もいい人当たりもいい低ランク冒険者ってもんだから、そりゃあ有難がられてたらしい。
「なんですかそいつ、出来すぎじゃないですか」
「まったくだ。それにな、エッちゃんは魔獣をつれててな、それがあのカッツだ。名前はタマサブロウで、皆にゃサブって呼ばれてる。これがまだ賢いやつでな、ありゃ絶対に人の言葉を理解しているな」
へえ、と感心したように声を上げる船員たち。その中の一人が、そういえば、といった。
「かあちゃんが言ってたな。パン屋にやたら美形のお手伝いがいたって。もしかしたらそいつのことかな」
「たぶんそうだ。エッちゃんはあっちこっちの店手伝ってたからなぁ」
へえ、魔術使いが店番ねぇ、と再び感心の声が上がる。魔術使いはそれなりにいるが、皆総じて気位が高く、冒険者依頼でも低ランクのものは受けようとしないことが多い。昇級のための最低限しか受けないことが殆どだし、愛想も悪い。
まあ魔術が使えるのはエリートの証とも言われるし、そんな輩が接客などやりたがらないのは理解できるが。
「で、そのエッちゃんてやつが連れてるはずのサブがなんでここにいるんだ?心配してるはずだろう、そいつ」
「そいつはどうかなぁ」
ローノはのんびりとしている。微笑ましそうにあの生き物を眺める姿は、心配した様子がまるで無い。
「もともと別行動も多かったからなぁ、案外まだいなくなったことにすら気づいていないかもしれん」
「じゃあ結局どうすんだよ」
「次の停泊場所で冒険者組合に報告すりゃいいだろ。それまでは、パルー、責任持って世話しとけよ」
「えー、俺っすか?」
「見つけたのはお前だろ、下っ端」
周りの船員達から言われて、ぐっと押し黙る。元々世話はする気でいたが、自分で決めたことと周りから言われてやることとは結構違うものだ。
「大丈夫だよ、心配すんな」
ローノは相変わらず、サブとやらを眺めたまま言った。
「サブは何でも一人でできるからな」




