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僕は、よく眠る。

猫の語源は「寝子」だなんて説もあるくらいだ。もともとこの生き物もよく寝る性質を持っているんだろう。


ただ。僕の場合、それだけではないらしい。


「君はね、前の世界で魂を傷つけ過ぎたんだよ」

だから寝ることで癒やしている、らしい。

この世界にきてからさんざん寝ていたから、もうほとんど癒えているらしいけど。





もう習慣化した睡眠。暖かい日溜まり、心地よい風。木々のざわめきと匂い。ああ、なんという幸せ。

こんな時間がずっと続けばいいのに。


「ーーーー!」


幸せとは長く続かないものだ。

また。まただ。あの子が呼んでいる。


「ーー!」


昼寝を邪魔されるのが不愉快だって、さんざんアピールしたのに。あの子はそんなことお構いなしだ。


子育てって、ほんと時間足りないよね!自分の時間ないよね!!


「ーーー!!」

「ーー!!」


ああ、あの子が何か叫んでいる。

やれやれ、今度はなんだ。

片目を開けて様子を伺うと、こちらを見つめるあの子と目があってしまった。


「ーーー!」


何かを指差している。泉から流れる沢の方だ。トイレか、水浴びか、魚が食べたいのか、単に遊びたいのか。

言葉が通じないっていうのは、不便だ。あっちはあんまり気にしていないようだけど。


痩せっぽっちだったあの子も、多少肉が付いてきた。初めは泣いてばかりで僕に怯えていたあの子も、僕が危害を加える気がないと気付いてから割と好き勝手に振る舞うようになった。

一体何故ここに来たのかわからないけど、元いた場所に戻ろうとする気配はない。外見から察するに、10歳くらい。保護者はどうしているのだろう。それともみなしごなのか。

いずれにせよ、ここでの生活を満喫するのは構わない。


僕に迷惑をかけなければね!


「ーーー!ーー!」


僕は単独行動派だ。前の世界でも、こちらの世界でも。言葉の通じない相手の面倒なんか見たくない。しかも相手はこちらの都合を全く気にせず好き勝手に騒ぎ立てる。

ああ、安息の時間はいずこ。


まあ、子どもを放っていくわけにはいかないよね。何するかわからないし、僕の周りを離れすぎると他の生き物に襲われるし。仕方ないなぁもう。

僕がこういう判断をするとわかった上で、あの子は騒いでいるんだからタチが悪い。



あの子がここに住み着いて約1ヶ月経った。

森へ食料を取りに行ったり、周囲を歩きまわったり、薪や何かを拾い集めたり、何かを作ったり。寝ている以外、いつも何かをしていて、とにかく忙しない。それに付き合う僕はお人好し(お猫好し?)だろう。でも子どもは放っておけない。

子どもは宝。安全、安心できる環境をつくるべき。常に気遣い、導き、守り育てるべきもの。


この世界では難しいけど。前の世界でも、理想論だったけれど。自分でできる範囲で、出来ることはしてあげるよ。

無理のない範囲でね。



……そういえば、昔迷い混んできたあの子も、危なっかしかったな。すぐ死にそうで、力も弱くて、お喋りで、でも好奇心旺盛で。

あの頃の僕はある意味本能のまま行動していたけど、ちゃんとお世話出来ていたんだろうか。

無事に大きくなって旅立っていったから、きっと大丈夫なはず。今は何をしているか、ってもう寿命でとっくに亡くなってるか。……もう昔の話だ。



僕は大きく伸びをして、昼寝岩から降りて賑やかなあの子のところへ歩いていった。


昔育てた子は、短編にちらっと出てきた子です。

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