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大牙銅猪が2。、雲霧鳥が1。ーつぎ、宵越赤蛇が1。

本来なら同時に出現する可能性が低い魔物だ。


つがえた矢を、放とうとして、一瞬。

感じた違和感は、すぐ確信に変わる。


「ふたりとも、木の後ろに隠れて!できるだけ身体を小さく丸めるんだ!」


奴らは、こちらを狙っていない。

ただ全力で走っているだけだ。


自身も木の後ろに回り込み、二人をかばうように立つ。矢をしまい、木の陰から前方を伺う。魔獣たちはすぐそこまで迫っているが、進路はこの場所とは重ならない。

(よし、このままやりすごす!)



まるでなにかに追い立てられるように、隣を走り抜ける魔物を横目に見送った。案の定、魔物はこちらに見向きもしなかった。だが。

魔物が走ってきた方向をマキムは見つめる。



(まだだ、まだ次がくる!)


気配が入り乱れて、うまく距離がつかめない。

焦る気持ちを抑え込みつつ、商人と少女に声を出さぬよう言い聞かせる。

「次がきます、そのまま息をひそめて、しゃべらないで。大丈夫、こちらを狙ってはいないようです」


二人は震えつつ、言うとおりにする。こういうとき、冒険者の言うことに逆らうのは文字通りの命取りだ。冒険者初心者の少女も、普段から冒険者に依頼している商人も、そのことは充分理解してくれている。

がたがたと震えているから、単に足が動かないだけかもしれないが。



地上にいる魔物だけでなく、空を飛ぶ魔物、普段地中にいる魔物たちまでもが、次々と現れては走り去っていく。

一体何がおきている?


(まるで森にいる魔獣が一斉に…まさか、これが噂に聞く魔獣暴走か!?)

(いや、それなら魔獣は凶暴化して、襲いかかってくるはず。

こちらを狙わないことに説明がつかない)



(なにかから、逃げているのか?)

必死に考えを巡らせる。

(こんなにも多くの魔物が逃げ出すような、なにかが、現れたのか?それとも自然災害の前触れか?)


時間としては、2、3分といったところだろう。しかしマキムには、その時間が何倍も長く感じられた。



そして、突然の静寂。



そっと木の陰から顔を出し、周囲を伺う。

もう魔物は来ないようだ、と息を吐いたとき。




ーガサササッ


黒い影が、前方の岩の上に





マキムは思わず膝をついた。


まずい、力がはいらない

いますぐに逃げ出したい

二人を、守らなければ

なんだこれは 

さっきまでは何も


顔があげられない。膝がふるえて立てない。

一瞬で汗が吹き出してきた。


(なんなんだ、何が起きた)




「にゃおおーーーーん!」







一方その頃、尾行者の一人である男は、エッちゃんと呼ばれる男と向かい合っていた。



あのカッツが走り出した直後、他の尾行者二人はカッツを追うことを選択したらしい。

自分は、そこまですることは命じられていない。


尾行者の男、ヒューズは、カッツの飼い主に接触することを選んだ。ここまでやれば上司も文句は言わないだろう。本来なら、三つ巴になった時点で離脱しても良かった。そうしなかったのは、カッツとあの冒険者のことを、ヒューズの上司が気に入っていること以上に、ヒューズ自身も気に入っているという私情もあった。が、これ以上の危険を犯す必要はないと判断した。



たまたま居合わせた冒険者を装い(こんな森の中に一人で居るのは冒険者くらいだからだ)、ヒューズはカッツの飼い主に話しかけた。



「すみません、ちょいとお伺いしたいんですがね。あんたはあのカッツを連れている冒険者の方、であってるかい?」


「ええ、そうです」


「先程、カッツだけ走っていってしまったように見えたが…」


「ええ、そうですね」


平然と答える、エッちゃんという男。この男、本名がわからないので、呼び方に少し困る。エッちゃんさん、という呼び方もなんだか微妙だ。



「…ええと、心配にはならないのかい?最近魔獣は高額で取引されているし、闇取引とかの噂があることは、あんたもおそらく知ってるかと思うが」


「ご心配には及びませんよ、ありがとうございます」


ところで、とエッちゃんという男は続ける。


「エリザベート様のところでお会いした方ですね。どうやらご配慮頂いたようで、御礼申し上げます。残りのお二方は放っておいてよろしいので?」


おや、尾行のことも、自分の正体もお見通しとは。

見た目に騙されそうになるが、なかなか冒険者としても優秀なのかもしれない。


「そこまでご存知でしたら、予想はついているかと」


「なかなかに熱い視線を頂いていたのでね、印象に残っていましたよ」


いやぁ、バレバレでしたか、とヒューズは笑った。

ヒューズは動物好きだ。なかなか見られない魔獣、しかもその可愛らしさで有名なカッツのことを、気にならないわけがない。


しかもあのカッツ、そんな自分に気付いているかのように、チラチラ視線を向けながらごろにゃんと身体をくねらせたり身体をなめたりしっぽをふったりにゃーんとないたり、あまつさえ足もとにすり寄ったりしてくるのだ。仕事中なのに、気が散って仕方なかった。


エリザベート様はお元気ですか?と尋ねる男に、お陰様でと返事をする。あの方は、何事も楽しむ才能を持っており、日々が刺激的だ。カッツを触りたいといって冒険者を呼びつけたときは頭を抱えたが。どこの世界に、主人にしか懐かない魔獣を触ろうとする馬鹿がいるのだと思ったが、まさか懐っこい魔獣がいるとは。挙げ句ともに食事を楽しむ仲になるとは、世の中本当にわからない。


「そこまで余裕がおありとは、カッツ殿のことは放っておいてよろしいのですな」


「ええ」


ほがらかに笑う、飼い主の男。

残りの尾行者について、気にした風もない。


「万事塞翁が馬ですよ」


「バンジサイオウガ?」


「いえ、なんでもありません」


朗らかに笑う、この男。

なんというか、世の女性陣が嫉妬するような顔だ。神やら天使やらはこんな顔をしているのかもしれない。



「大丈夫ですよ」



瞬間。

強烈な魔素が叩きつけられ、ヒューズは思わずよろめいた。



「あの子は、とても強いので」




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