1
短編 にゃんこの生活 のはじまり から続いています。この話からでも問題ありません。
ふわーーーぁ、よく寝たぁ。
なんか頭が重いなぁ。
くしくし。
ふぅ。
ではあらためて、自己紹介しようか諸君。
僕は鈴木玉三郎、アダ名は小学生の頃からずっとタマ。どう考えてもタマサブローとかサブローとかサブちゃんとかになりそうだが、タマ。何故なら僕が猫好きだから。
元人間、今は猫、らしき生き物。尻尾が2本でキトンブルーな瞳の三毛猫、のようなものらしい。
先程偉そうで変な人に頼まれて、「観測手」になりました。
以上。
うん、わけがわからないね。
かんそくしゅ、って何?ってきいたら、観測する者、だってさ。何を観測するの?て聞いたら、基本的にはなにもする必要ないときた。好きにしてていいよ、との仰せだ。
何かあったら連絡するから、自由に過ごしていればいい。できるだけ長生きしてね、とさ。
うん、わけがわからないね。
そもそもなんで僕?って、聞いてみた結果。
なんと僕は元の世界から消えて、この世界に来たんだって。でそれで、猫(?)として長い間生きてきたんだって。で、白羽の矢が立ったと。
ここは僕の元いた世界と似た部分も多いけど、違う部分も多いらしい。その比較もしたいから、僕にこの世界の観測を頼みたい、と。
世界はものすごく沢山あって、常に色々なことを観測しているんですってー。
まず、僕が消えたってなんだ。元の世界とかこの世界とか、どこの三文小説だ。いやラノベか?
観測ねえ。なに、神様なの?それとも謎の秘密結社か何か?さっきのヤツは下っ端ぽかったけど、組織立ってる感じなの?
大体何もしなくていい観測って何。動物園か何かなの?それとも実験場か何か?
うっわ物騒…。
僕アニマルチップとかGPSでも仕込まれてんの?カメラとか?
うわーーこの身体大丈夫なのかよ。可愛いけど!
なんとなーく、猫として過ごしていたことは覚えてる、気がする。でもそんなに長生きしてる?基本的に寝てただけだから、よくわからない。ごはんも食べてなかったし。
うん、色々わけがわからないね!
偉そうな人、貴方何者ですか。だってさ、姿見えないんだよ?声だけどこからか聞こえるの。遠くから響いているような、耳元で囁かれているような、それでいて妙に落ち着く声。妙だろ?おかしいだろ。
うわー背中ゾワゾワする。今の僕、毛逆立ってるわ。わー気持ち悪い落ち着け僕!
くしくしと顔をかき、しぺしぺと念入りに毛繕いする。あ、胸元の毛が乱れてる。あー肉球の隙間に違和感。しぺしぺしぺしぺ。ざりざり。あー何か身体強張ってる。ぐいーと腰を高く上げてのびーー。もいっちょのびーー。今度は逆方向にのびーー。左後ろ足がちょっぴりプルプルした。
ん?
んん?
今更だけど、いやめっちゃ馴染んでるね、猫。
何か実感ないけど、やっぱり長年猫やってたんだな僕。あ、猫ではないのか?まぁいいか。
考えてたことも、急にどうでも良くなった。
いやほら、猫だしね。
気まぐれで自由気まま。細かいことは気にしなーい。
元の世界(?)にいた頃はそりゃもう毎日疲れきっていて、毎日死にそうだった。もうなにもしたくない猫になりたい猫になりたい猫になりたいなにもしたくないなにもしたくない…と思い続けていた。
それがいまや、猫である!
最高。至福。
好きなときに寝て、起きて、やりたいことだけやる。
しかもお腹は空かないときた。食べることは出来るけど。
やっほう!なんて快適!最高!
よし、寝よう。
そうして玉三郎ことタマは、再び眠りについたのである。
※
リファーカ大陸南部、通称魔の大山脈森林地帯。
魔素が濃く、数多の魔獣が跋扈する危険地帯。
弱肉強食ながら均衡を保っていたはずであったが、ある日突然それは一変した。
膨大な魔素を秘めた一匹の獣。
山頂付近に現れたとみられるその生き物の気配に、魔獣達は戦慄した。
気配を殺し、山頂付近から麓の森林地帯、さらにはその先の大草原地帯まで魔獣が後退していく。
これにより、魔獣や動物の生息域が大きく変動し、それに伴い
人類の生活や魔獣との関係などが大きく変わっていくこととなる。
後の歴史書ではこの出来事をこのように語る。『聖獣の降臨』と。
※
昼寝して、しばらく。
何かが近づいてくる気配がして、耳がピクリと反応した。
明らかに、こっちに向かってきている。
なんだろ?何か用?
このキュートなにゃんこボディ、とてもつよい、らしい。よく覚えてないけど。喧嘩の仕方とかわからん。いきなり勝負をしかけてきたらヤだし、とりあえず隠れよ。
誰だってこのキュートなボディにメロメロ~んになるに決まってるけど、一応ね。一応!
近くの木をかけあがり、木々の葉が茂る中に身を潜める。山頂近いというのにこんなに木が繁っているとは不思議よねー。森林限界とかないのかな。とりあえず、これで見つかるまい。
僕は目もいいからね、遠くでもよく見えるよ。少し先に、小さな影がこちらに向かってきているのが見えた。
そしてしばらくして。
僕のお気に入りの昼寝岩の前に、ミニスカートのしょうじょがあらわれた!
いやいやいや。
なんでやねん。
座り込んだ少女は、ボロボロの服を着ていた。痩せっぽっちだ。髪の毛もボサボサ。ここに来るまで大変だったんだろうか。中々の身のこなしだったけど。
あ、震えてる。
そして、突然少女は声を上げて泣き出した。
なんやねん!
僕何かした?!
あーあーそんなに泣いて、この辺だからいいけどちょっと離れたら魔獣猛獣のいいエサだよ!危ないよ!どうしたの!何が起きたの?!
よしここは猫の出番だな!
お猫サマがいれば他のことはどうでもよくなるじゃん?
ヒトは須らく猫の下僕なのさ…(得意気)
弱そうだし、問題なし!行くぞタマサブロー!おー!
てし。
わざと足音をたてて、木から飛び降りた。
少女が顔をあげる。驚いた表情、強張った身体。
いまだ!
お腹を見せて
「にゃぁああーーーーーん」
魅惑のボディをくねらせる!
必殺!かまってちゃんポーズ!
……………………………………………
沈黙が痛い。
ねこってかわいいですよね……
ねこ吸いたい