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97 ドボル・ロウ・ファビリオン


執務室のような部屋を後にした一行は、そのまま階段を駆け下りると、大勢の冒険者が集まる酒場に出た。


「ここはどこですか?」


「あ?聞こえねぇぞ!」


ゼンジの声は、冒険者たちの喧騒な声にかき消された。

しかし逆に、ロックジョーの大声で酒場が静まり返り、視線を一点に集めた。


「ギルドマスターだ!ぐわっ!」


「ロックジョーさんがいるぞぼっ!」


「あの人が、土の暴君ですか?初めて見ばっ!」


「逃げろごばっ!」


冒険者たちは、羨望の眼差しをロックジョーに向ける。しかし、そんな事はお構い無しに冒険者を跳ね飛ばし、ロックジョーは一直線に出口へと向かう。


それに続くゼンジは、開きっぱなしの扉を潜り振り向くと、そこがギルドであった事を知った。


そのまま周りを見回すと、ラムドールに比べて綺麗な街並みが続いていた。


そして街の遥か彼方では、漆黒の山が煙を噴いていた。


「何だ、あの黒い山は」


「はぁ。ファビリオン火山です。今からあそこに向かいます」


「火山に向かうんですか?」


「ゼンジ!バイコーンには乗れるか?」


リズベスとの会話をロックジョーが遮った。


「何ですかそれは?バイクなら乗れますが」


「ガッハッハ。そうだバイクだ!そこにテイム済みのバイクが2頭いる。1頭にゼンジと嬢ちゃんで乗れ!」


相変わらず適当なロックジョーの相槌に呆れ顔のゼンジ。しかし、それを見た途端、ゼンジは目を見開いた。


「こいつは!」


そこには、角を生やした2頭の黒い馬がいた。


ゼンジの脳裏にこびりついた、苦しい記憶が蘇る。

最初の城で、バイコーンに素っ裸で引かれた悪夢が。


「さっさと乗れ」


「あ、あいつらが乗っていたものになんか乗れません」


憎悪が再び胸に込み上げる。


「ガッハッハ。走ってたら間に合わん。乗れ」


「乗馬スキルがありますので、私に任せてください。ゼンジ乗りますよ」


ポーラの言葉で、心臓が大きく跳ね我に返った。


(落ち着け。こいつは関係ない)


「ふぅ〜。分かった。ポーラ頼むよ」


ロックジョーの機嫌を損なう前に、ポーラの助け舟に乗った。

それから、手綱を持つポーラの後ろに乗り、準備が良い事を伝えると、ロックジョーは大笑いしながらバイコーンを走らせた。


「リズベスさんは行かないのか」


ポーラも手綱に力を込めて、両足でバイコーンの腹を蹴り『はっ』と声を上げた。なかなか様になっている。


街の人々は、ロックジョーの笑い声を聞き、姿が見える前から道を空けていた。それはまるで、緊急車両のサイレンを聞き、道を譲るかのように。


門を抜けた所でゼンジは振り向いた。


馬よりも一回り大きいバイコーンは、街の外に出るやいなや、速力を上げた。あっという間に門が小さくなっていく。体感速度は、時速100キロを優に超えている。

視線を前に戻すとともに、気の抜けた声を漏らした。


「は?」


ロックジョーを乗せて走るバイコーンの隣を、リズベスが歩いていた。


「リズベスさん、歩いてるよな?」


「はい……」


ポーラも目をパチクリさせている。


『あれが〈神速〉だよ。ゼンジも早く動き続けたら、覚えるんじゃない?』


メロンの本気とも皮肉とも取れる言葉に、返事を返したいゼンジだったが、あり得ない現実から目を背ける為、そして視覚が混乱して気分が悪くなったのもあり、静かに目を閉じた。


(やはりこの世界は、スキルが全てか……自衛官のスキル意外にも、獲得出来る物はしないとな。目を瞑りっぱなしで、瞑想とか覚えないかな?)


ゼンジは目的地に辿り着くまでの間、ただ目を瞑り続けた。


途中、メロンが桃色の玉は転移石というもので、1つにつき1箇所、場所を記憶させる事ができる。何処にいても、それに魔力を込めると、記憶している場所に転移することが出来る。と説明していた。ゼンジは目を瞑ったまま聞いていた。


周囲の温度が少し上がり、水の流れる音が聞こえ始めるが、それでも目を瞑り続けた。


しかし新たなスキルは覚えなかった。


「遅かったな」


やがてバイコーンが止まると、かすれた声が聞こえてきた。ゼンジはそれで目を開けるが、同時に口も開ける。そしてそのま固まった。


目の前の人物にではなく、壮大な光景に圧倒されたからである。


そこは巨大な峡谷だった。ゼンジたちは、切り立った谷の間にいた。

高山に挟まれた中央には、浅い川が流れてはいるが、モンスターの気配はなかった。

そして目の前の黒い山からは、至る所から煙が噴き出していた。


ただ、ゼンジが圧倒された景色は、これらではなく、目の前の岩壁の建造物にである。


黒い岩肌を精巧に削られ、朝日を浴びたそれは、まるで神殿の入り口を彷彿させる、神々しいものであった。


更に驚くのはその全長。およそ100メートルはあろうか。一体、誰が何の目的で創り上げたのか。しかし一瞬頭をよぎった疑問は、あっさりと何処かへ消えてしまっていた。


見上げる柱が4本並んでいる。その中央には、50メートルほどの縦長の穴がぽっかりと空いており、そこへと続く階段の両側には、上から下へと伸びる龍が彫られている。


向かって左の龍の頭は、地面に向けて大きな口を開けている。右の龍は、地面を睨みつけたまま口は閉じている。その更に両側には、幅の広い緩やかなスロープのような、平な道が併設されている。


また、柱が支える屋根には、所狭しと長い体を幾重にも折り返す、巨大な龍の石像が鎮座していた。それは今にも炎を吐き出しそうに、大きく口を開けている。


それらはいずれも、黒光しており、不気味ではあるが、反面神々しくもあった。


「すご……」


ため息にも似たゼンジの感嘆の声は、目の前の人物の耳に届いたようだ。


「ようこそドワーフの聖地、ドボル・ロウ・ファビリオンへ。初めて来たみたいだが、次はないだろう」


「次は……ない?」


目の前に立つ子供のような小柄の男は、その風貌には似つかわしくない、筋肉質な体格と、口元が見えないほどの髭をたくわえている。

おそらくドワーフであろう男性は、ゼンジの返答に眉をひそめて顔を振った。


「ロックジョーの悪い所だ。おおよそ、何の説明もせずに連れて来たんだろう」


「ガッハッハ。急いでたんでな。ガノンは耐えているか?」


「彼だけではない。3日前から長老を含め、皆準備完了だった。ワシもここでロックジョーを待っていた。しかし長老と付き添いを除き、皆、元の生活に戻った」


「ガッハッハ。その話振りからすると」


「ああ。間に合わんかった」


「やはりそうか。おめでとう」


「皮肉だなロックジョー!めでたい訳がなかろう」


「はぁ。ロックジョーさん。間に合わなかったんですよ。少しは反省してください。はぁ。しかしダンバールさん、あなたも人が悪いですよ。まだ間に合うんじゃないですか?」


「……そうだ。だが……」


「そうか!間に合うか!ガッハッハ。それなら行くぞ!案内してくれ」


「だが……」


「はぁ。この気配は2人ですね」


「ガッハッハ。そう言うことか!1人は既に産まれた。ならば、もう1人に賭けるとするか」


「待て。双子なんぞ、これまで産まれた事は一度としてない。そんなものに賭ける事など出来るはずがない」


「ガッハッハ。うるさい!案内ぐらい出来るだろう」


「あり得ん事だ!!……まあ。良い、好きにしろ。ついて来い」


ダンバールと呼ばれた小柄の男は、重い足取りで階段を登り始めた。


ゼンジとポーラは顔を合わせ、お互い眉間に寄るシワを確認して、そのシワを取り除く為にロックジョーへと質問をした。


「どういう事ですか?何が何だかさっぱり分かりません」


「ガッハッハ。セキチョウに会いに行く。2人目が産まれる前にな」


更にシワが深くなった2人は、相手を間違えたと、リズベスに顔を向けた。


「はぁ。話せば長くなります。掻い摘んで説明すると、ロックジョーさんが言った事が全てです」


「ガッハッハ。要は着けば分かる」


ゼンジはポーラに小声で呟いた。


「説明するのが面倒なんじゃ?」


「私もそう思います」


一行はダンバールの後に続き、ドボル・ロウ・ファビリオンの中へと入って行った。


内部は、ひんやりとしており、どこか厳かな雰囲気を醸し出している。

まず最初に足を踏み入れた部屋は正方形であった。その部屋の正面と左右に、1箇所ずつ縦穴が空いている。

そして中央には樽があり、ドワーフの男性がそれに座っていた。


「黒一色だな」


ゼンジの呟きに、ため息混じりのダンバールが答える。


「ここは、マグネタイトの岩盤を削り取り、神殿を形成している」


「マグネタイト?」


ゼンジは咄嗟に聞き返した。


「磁気を帯びた鉱石だ。奥に行くに連れて、金属で作られた剣や鎧が使い物にならなくなる。そこの者に渡しておく事をお勧めするよ」


「自分は大丈夫です」


小銃等は、衣のうにしまっているため、ゼンジは金属を装備してはいなかった。しかしポーラは、手にはめた指輪を不安げに触った。


「はぁ。その指輪くらいなら大丈夫でしょう」


リズベスがポーラの指を見て、面倒臭そうに言った。


「良かった……」


ポーラは指輪をはめた手を、反対の手で包み込み、とても大事そに胸元に引き寄せた。


「では行こう。着いて来い」


ダンバールは右の縦穴へ入って行った。ゼンジたちもその後を追った。


「……同じだ」


縦穴を潜ると、正方形の部屋だった。

最初の部屋と全く同じである。少し暗くなった事を除いて。


「遅いぞ。もっと早く着いて来い。飛ばされるぞ」


ダンバールはそう言うと、再び右の縦穴の前まで歩いた。


「飛ばされる?いやそれより、そっちに行ったら、外に出るんじゃないですか?」


「いや、こっちで合っている。後3回で最奥に転移するぞ」


「転移?じゃあさっきの部屋は!」


ゼンジが振り向くと、隣の部屋の中央にいたはずのドワーフはおろか、樽さえも無くなっていた。

そしてその代わりに、見た事も無いモンスターが我が物顔で跋扈していた。


「モンスターじゃ!」


大声を出した事を、失敗したと言わんばかりに、ポーラはメロンで口を塞いだ。

しかしモンスターは、ポーラの声に反応を示さなかった。


「どうなってるんだ!」


「だろうな。初見ではそうなるな。しかし、何の説明も受けんと着いて来たお前らもお前らだ。そもそも良く、このダンジョンを知らんかったな」


「「ダンジョン!!」」


ゼンジとポーラの声が揃った。


「そうだ。まさかダンジョンが初めてとは言わんだろ?このダンジョンの一部は我らドワーフの住処となっているが」


ダンバールは、行くぞと付け足し縦穴に向き直った。ゼンジとポーラは、隣の部屋からモンスターが向かって来るのを警戒しつつ、ダンバールに駆け寄った。


「ガッハッハ。知らん方が楽しいだろう」


「こ、心の準備がいるのじゃ!」


「そうですよ!ちゃんと説明してください!」


「ガッハッハ。冗談だろ?楽しみを奪うような事はせん。ガッハッ……」


ロックジョーは大声で笑いながら、ダンバールを押して縦穴を潜った。すると笑い声が聞こえなくなり、不安を感じた2人は急いで後を追った。


「はぁ。説明するのが面倒なだけでしょう。はぁ。人の事は言えませんが」


リズベスはため息混じりに呟き、足を動かした瞬間その場から消えた。


(女神様、こちら自衛官、

転移、転移、転移!転移はもう嫌なんで助けど…事実は転移が怖いのを隠してます。どうぞ)

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