95 蒼の眼帯《Side.黒魔女天使》
「晴れてる!」
洞窟を出ると、さっきまでの雨がまるで嘘のように上がっていた。しかし、湿地帯に転移したのかと勘違いしてしまうほど、辺り一面水浸しになっていた。
「やはり、リヴァイアサンが降らせていたのでしょうな」
雲ひとつない、青空を見上げながらアルベルトが呟いた。
「でも、封印されていたのにどうして雨を降らせたり、街にミズチが現れたりしたのかな?」
ヒメは、フランに向け疑問を投げかけた。
「あら。それはリヴァイアサン本人に聞くのが早いのでは?」
「そうだね!」
ヒメは、フランから受け取ったアーマーリングを、右手の人差し指に装備した。
「召喚!リヴァイアサン」
アーマーリングから冷気が溢れ出すと、ターコイズブルー、サファイアブルー、コバルトブルー、様々な美しい鱗を輝かせた、海のように青いドラゴンが現れた。
口先はアーマーリングのように尖っており、長い髭が左右に二本くねっている。
手足は無かったが、幾つもの羽のようなヒレや背ビレが、大きな体をより大きく見せていた。
その巨体をくねらせヒメに顔を近づけた。
その時、突然遠くで火山でも噴火したかのような音が聞こえ、地響きが起きた。
「ヒメ様!」
シルヴァは、ヒメを守るようにリヴァイアサンの前に立ちはだかった。大きな揺れはしばらくすると収まった。
「ふぅ。シルヴァありがとう。大丈夫だよ。リヴァイアサンとは契約したの。私が召喚したんだよ」
『ヒメよ。ワシの呪いを祓い、封印から解き放った事感謝する』
よく見ると、左の頬には赤い手の平の跡が残っていた。
「そんな事良いよ。シルヴァを食べてたら許さなかったけどね!それに封印を解いたのはシルヴァだよ!」
『彼の地の呪いによる封印から解放してくれたのはヒメだ』
「呪いによる封印?洞窟の入り口と祠を壊したのはシルヴァでしょ?」
「ヒメ様。実は入り口の封印はアルベルトが破壊したんだよ。僕が祠を見た時は既に壊れてたんだ。僕はただ暴れるリヴァイアサンを止めようとしたけど、何も出来なかったんだ」
シルヴァは申し訳なさそうに下を向き、上目遣いでヒメを見た。
『あの祠もワシの力を抑えていたに過ぎない。
彼の地に縛られていた呪いから解き放ったのは
ヒメ、其方だ』
「祠に封印されてたんじゃなくて、地底湖自体に封印されてたって事?」
『そうだ。彼の地底湖には元々膨大な魔力が蓄えられており、ワシを封印するために、それを利用したに過ぎん。しかし地底湖にしろ、祠にしろ、完全にワシの力を封じる事は出来なかったのだろう。あるいは、そこを利用されたのか」
「誰に?」
『誰に封印されたのか、何のために封印されたのかは全く覚えておらん。と言うか分からんのだ』
「どうして分からないの?」
『ワシは大海を統べる者として、深海の更に最奥にある大地の傷跡に身を潜めていた。そこからワシの化身であるミズチを放ち、大海を荒らす者共を抑えていた。
しかしある日、突如ワシの目の前に、底が見えぬ程の闇が現れた。すぐさまその場を離れようとしたが既に遅かった。ワシは闇に包まれ、気が付けば祠に押さえ込まれ、湖から出る事が出来なかった』
「それがあのドロドロした呪いね!」
『そうだ。逆らう事も抗う事も出来ぬ、ただ激しい怒りのみがワシを支配していた。そこからの記憶は断片的であり、怒りを祠に向け放つ事しか出来なかった。結局は周囲に雨を降らせる程度の力しか出せなかったのだがな』
「あら。逆にその程度で済んで良かったのでは?
街がミズチに襲われ始めたのは、祠がシルヴァ様に壊されてからでしょう。ヒメ様の到着がもっと遅ければ被害は更に甚大だったでしょう」
『あるいは、その雨を降らせ続けるのが目的だとしたら…考えても分からん事だがな』
「リヴァイアサンの力を抑えて雨だけを降らせる封印って何?どうやったのかな?」
『あの祠には元々何か別の者が居たのだろうな。今となっては、それも分からぬが』
「でもここまで水浸しなのも、ミズチの滝登りのせいだよ!」
『それについては返す言葉もない。だが、祠が崩れ、あの程度の時間であれば、水の影響はこの付近だけの筈だ。街までは届いてないと思うが』
「何にせよ全てヒメ様のお陰です。ありがとうございました」
アルベルトはヒメに深々と御辞儀をした。
それに対し、ヒメは恥ずかしそうに右の頬をかいた。
「痛っ!あ!そう言えばこれはどうして?」
右手の人差し指に装備したアーマーリングを思い出した。
『おお!すまない。それはワシには依代が無かったからな。壊れていた片眼鏡を依代にしたんだが、どうもしっくりこなくてな。その指輪イケてるだろ?』
「イケてるって…死語じゃない?」
『祠は装備出来んだろう?』
「それはそうだけど、あのモノクル気に入ってたんだけどな。鑑定も出来たし」
『ワシをアイテム召喚すれば鑑定が出来るぞ』
「えっ?本当?アッシー!リヴァイアサン」
リヴァイアサンは一瞬で蒸発し水蒸気のようになると、アーマーリングに吸い込まれた。
するとアーマーリングから冷気が溢れ出し、ヒメの左目に集まった。
冷気が収まると、ヒメは眼帯を装備していた。
その眼帯は刀の鍔のようなデザインで、中央には刀を通す為にある溝のような物が縦長に彫ってあり、リヴァイアサンの瞳孔と似ていた。
「目だけ?」
ヒメはゴスロリに変てこな帽子を被り、蒼い眼帯を嵌めた不思議な格好をしていた。
「とりあえずフラン鑑定するよ?」
「はい。構いませんよ」
「じゃあ、鑑定!」
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名前 :フラン
種族 :フランケンシュタイン
分類 :造魔
属性 :風属性
年齢 :24
性別 :女
Lv :43
HP : 450/753
MP : 108/520
攻撃力:875(+ 300)
防御力:722(+ 420)
素早さ:596
知 能:610
器用さ:295
幸運値:88 (+ 30)
装備:グリーンドラゴンの服、グリーンドラゴンのズボン、白夜のコート、グリーンドラゴンのグローブ、グリーンドラゴンの靴
アクセサリー : 竜の枷、グリーンドラゴンの髭
スキル : 竜格闘術Lv7、竜の暴力Lv6、竜の戯れLv3、竜の詩Lv2、竜化、魔眼(赤竜の一瞥)、魔眼(蒼竜の活眼)、風魔法中級Lv8
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「何このステータス!フラン強すぎ!」
「あら。リヴァイアサンは、こんなものじゃありませんよ」
「竜の戯れとか、竜の詩って何!?それより竜化ってもしかして竜に変身できるの!?」
「出来ますよ!ただ完全なものではないので、あまり使いたくありませんが」
「凄い!凄いねフラン!」
「あら。凄いのはそのリヴァイアサンの眼帯じゃないでしょうか?私は震えが止まりませんが」
フランは僅かに震えていた。
「そうだね!モノクルで見れなかったステータスが全部見れるもんね」
「それだけではない気がしますが」
無表情のフランは、震える体を抑えようと両腕を掴んだ。
「よ〜し!シルヴァの村に帰りたいけど、まずはレガリストアントの街に戻ろう!」
一行は膝まで水に浸かる湿地帯を進み、レガリストアントへ向けて歩き始めた。