表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/114

9 運行指令書も出してませんが



「「うわぁ〜〜〜〜!!!」」


ゼンジとポムの悲鳴は続いていた。


荷台の入り口からは空しか見えない。

しかし次の瞬間、フワリと一瞬の浮遊感と共に上下が逆になった。


「うわっ!」


「何じゃ?」


入り口から見える景色もガラリと変わり、今度は一面ゴツゴツとした岩肌が見える。


「着いたみたいじゃ!!」


「静かに!隙を見て逃げるぞ!」


その岩肌には大きな穴が開いており、ドラゴンはそこへゆっくり降下して、そのまま中へと入って行った。


「ドラゴンの巣なのじゃ!餌にされるのじゃ!」


「分かったから静かにしろ!」


「きっと子供がいるのじゃ!子供の餌にするつもりなのじゃ」


「あ〜もう!喋り方!」


「……」


「ったく!」


地面がもう目の前といったところで、バッサバッサと翼を動かす音が激しく聞こえたのと同時に、砂埃が荷台の入口から入ってきた。


そしてゆっくりと水平になり、地面に接触する音と、振動が伝わってきた。

ニ人は、ゆっくりと荷台の床に降りた。


「シーッ!動くなよ」


息を潜め微動だにせず、それぞれ自分の胸を押さえていた。それは心臓の鼓動が、ドラゴンに聞こえるのではないかと錯覚してしまうほど、大きく聞こえていたからである。


そんな心配を余所に、グルルと満足げな唸り声と共に羽ばたく音は遠ざかって行った。


しかし、砂埃が舞っていて外がよく見えないこともあり、入り口を見据えたまま、動く事が出来なかった。


とてつもなく長い時間に感じていたが、次第に砂埃が収まり視界が晴れてきた。


「こ、これは……」


「き、金じゃ!」


ニ人は慌てて外に飛び出した。


「す、凄いのじゃ」


「黄金郷か?」


そこでニ人が目にしたモノは、視界一面に広がる金銀財宝であった。


天井は吹き抜けになっており、その先からは青い三日月が覗いていた。

黄金たちは青い月光を浴びて更に美しく輝いていた。


(青い……雨が上がってる…)


「あのドラゴンが集めたのか?」


「きっとそうじゃろう。ドラゴンは、黄金の輝きに目が無いと聞くしのう」


「それにしても集めに集めてこの量か……凄いなぁ。まさか一匹じゃないのかも」


「!?何をボサッとしとるのじゃ!早う逃げるのじゃ!妾を担いで登るのじゃ!」


「喋り方!!」


「!?とにかくここを登るには高すぎます。他の逃げ道を探しましょう」


(こいつ二重人格か!?興奮すると別人格になるぞ!)


乗って来た荷台を見ると、黄金では無くなっていた。


「普通の荷台に戻ってるぞ!」


「錬金術が解けたのでしょう。ドラゴンに運ばれてる時じゃなくて良かったですね」


「そうだな。しかしここの黄金はどうする?」


「マジックバッグが有れば良かったのですが、所持してませんし、有るのか分からない、この黄金の中から探すのも時間が掛かります」


「マジックバッグ?何だ?それは」


「マジックバックも忘れているのですね。アイテムが大量に入るバッグです。サイズや種類によって入る量も異なりますが、手の平サイズのバッグでも馬車一台分の荷物が入るそうです」


「便利だな!」


(黒の魔女が言ってたアイテムボックスの事か?自分も女神様に貰ったはずだけど、城の奴らに奪われたのか?)


「上級冒険者は必ずと言っていい程所持しています」


「そうか、どうして上級冒険者なんだ?」


「とても珍しく、とてつもなく高額だからです」


「じゃあここの金を持てるだけ持って帰って、アイテムバッグを買ってから、またここに戻って来るって手もあるな。ドラゴンがいなければの話だが」


「そうじゃった!ドラゴンが戻って来る前に、早く抜け道を探すのじゃ!あの大きな黄金の鳥が怪しいのじゃ!」


「喋り方!」


「シ〜ッ!静かに!手分けして抜け道を探しましょう」


(…ワザとやってないか?)



その後ニ人はドラゴンに警戒しつつ、落とし穴のような縦の洞穴を隅々まで探したが、結局抜け道は見当たらなかった。


「隠し通路らしい物はどこにも無いな……そうだ!さっき何故かレベルが上がったな。役に立つスキルを覚えてるかも!」


「錬金術ですか?早く確認して下さい!」


「よしきた!ステータスオープン」


ゼンジは期待を込めて、眼前に現れたステータスウィンドウを凝視した。


「レベルが9になってるぞ!6も上がってる。何があったんだ?階級も一等陸士に昇任してるぞ!」


「ステータスの確認は後にしてください!錬金術はどうなんですか?」


居ても立っても居られない、と言うように催促した。


「あ、ああ、すまん、え〜っとスキルは、双眼鏡とヘルメット、それに防弾チョッキ…」


ポムが祈るように見ている。


「ビックリするくらい、使えそうな物がない…すまない」


明らかに落胆するポム。


「これってかなりやばくないか?脱出するには何処かに隠れて、ドラゴンが降りて来るのを待って、さらに気付かれずに背中に乗って外まで行くのか?」


「無理ですね。絶体絶命……」


そう言ってポムは壁際にある、黄金の柱に寄り掛かった。

すると、突然柱がグラつき始めた。


「え?」


「危ない下がれ!崩れるぞ!」


柱は、グニャングニャンと更に激しく揺れ始め、四つに折れて地面に倒れた。


「…これは黄金の樽だな。樽が重なってて柱に見えてたんだな?ん?」


何かが割れるような音が響き渡る。


足元を見ると、黄金の樽の下の地面に、亀裂が入るのが見えた。


「おいおい!ヤバいぞ樽から離れろ!」


ゼンジとポムは慌てて樽から離れた。


黄金の樽が崩れた衝撃で、地面に亀裂が入り、その亀裂が壁に到達すると、壁の岩がゴロゴロと向こう側に落ちて穴が空いた。


そして壁の傍にあった幾つかの財宝と、二つの樽が穴から外へと落ちて行った。


(なんと隠し通路を発見した…ってゲームなら言いそうだな)


「なんと隠し通路を発見したのじゃ!妾のお陰なのじゃ!」


「はぁ。台無しだな…」


ゼンジはそう呟き、穴に向かって歩き始めた。


「風が強いな」


穴の外からは風が吹き込み、外を覗く邪魔をする。飛ばされないように踏ん張りながら、外を覗いたゼンジの目には、絶望的な光景が広がっていた。


「ここは……」


「どうしたのですか?」


「ここは山の中腹だ。しかも木や岩みたいに、隠れる場所がない真っ平な山の斜面だ……ちんたら降りてたら、途中でドラゴンに見つかるぞ!走って降りる分けにもいかないし……」


「良い案が有ります」


ポムはそう言うと、残ったニつの樽に近寄り、樽の向こう側から中を覗き込んだ。

樽には模様のように、赤いラインがニ本あるだけで、蓋や底が無く筒抜けであり、ゼンジは中を覗くポムと目が合った。


「まさか…」


「そのまさかです!樽の中に入り転がり降ります」


「絶対死ぬぞ」


「ここにいても、ゆっくり下山しても結果は一緒です。ならば一番可能性のある樽に賭けましょう!そして、絶対と言う言葉は有りません!」


しかしゼンジは、冷静になるために深く息を吐き腕組みをすると、壁の穴を見据えて考え始めた。


(歩いて降りた方が生き残る可能性があるんじないか?しかし、隠れる木や岩が無いから直ぐ見つかるか?他にもモンスターはいるかもしれない。樽の方が安全なのか?だがもし、何かに衝突したり、落ちたりしたら)


「いや!やはり危険すぎる。もし途中に崖や谷が…!?」


ふと辺りが暗くなった。


空を見上げると、入り口付近でドラゴンがホバリングをしていた。


「やばい!戻って来た!」


「樽を押すのじゃ!早う押すのじゃ!」


ポムは樽の中からゼンジを呼んでいた。


(いつの間に樽に入ったんだ…)


「こうなったら覚悟を決めるか!!少しでも生存確率を上げるぞ!ヘルメット!防弾チョッキ!よし出た!」


「な、何じゃそれは!」


「これを装備しろ!この穴に頭と腕を通せ!そしてこれを被るんだ!」


迷彩色の鉄ヘルと、防弾チョッキをポムに渡した。


「これも錬金術?凄いのじゃ!」


「感心してる場合か!急げ!」


ポムは受け取った物を、慌てて身に付け始めた。


「頼む!出てくれ!ヘルメット!防弾チョッキ!」


ゼンジの祈りが届いたのか、もう一組出てきた。


「よし出た!やはり、幾つでも出るんだな!」


そしてそれらを、急いで装備した。


「ドラゴンが来るのじゃ!早う押すのじゃ!」


「準備は良いか?一か八かだ!全身で固定しろ!弾き出されるなよ!そらっ!」


ゼンジはポムの入った樽を穴に向かって転がした。


「ひっ…キャァァァァ…………」


「ポム、死ぬなよ」


見えなくなるのを確認して、もう一つの樽も穴に向けて転がした。

それを追いかけて走り出す。


「危険手当を頂くぞ!」


走りながら黄金に手を伸ばし、掴んだ物をポケットにねじ込んだ。


そして転がる樽に飛び込むと、更に反動をつけて穴へ向かった。

ゼンジは歯を食い縛り覚悟を決めた。


「男は度胸!」


ーパッパッパッパカパ〜ンー


その時レベルアップの曲が聞こえた。


「え?今?…まさか、ポム?自分が押したから…そんな…」


先程の覚悟が嘘のように冷めて行く。

しかし時既に遅し。樽はゴロゴロと転がり、ガッコンという若干の停止の後に、徐々にスピードを上げ、とんでもない速さで樽が転がり始めた。


「痛っいたっああああああああああ!!!」


弾き出されないように力一杯踏ん張った。


グルングルンと天地が回り、ガッタン、バッキンと何かに当たって砕けるような音がする。


ドゴッ  『ギャ』

ガコン  『グワッ』

ドッゴーン『ゴボッ』


ーパッパッパッパカパ〜ンー


「レ、レベルがあぁぁぁ」


ドガッ『ギャッ』

バキッ『ウホッ』

ドンッ『ウホホッ』

ガンッ『ニャー』


ーパッパッパッパカパ〜ンー


「またレベルゥゥぅぅぅ〜」


その後も様々な物にぶつかり、そして弾かれた。それでも順調に転がって行く。


しばらくすると徐々にスピードが落ち、永遠に続くと思われた長い長い時間に、ようやく終わりが訪れる。


「ハァハァ。と、止まった…」


樽から顔を出して周囲を確認する。


ちゃんと雨が降っており、地面は黒っぽい岩肌が続いているが、平坦で緩やかな地面である。


「溶岩が固まって、そのままって感じだな」


草木は全く生えていなかった。


「ポムは無事か?」


運良く近くに、他の三つの樽も転がっている。


「無事でいてくれよ」


ゼンジは一番近くの樽に駆け寄り、中を覗き込んだ。そこには、ずれたヘルメットが目元を隠し、歯を食い縛るポムの姿があった。


「ビンゴ!ポム無事か?」


「ハァハァ。カガミゼンジさん。ぶ、無事でしたか。見ての通り、手足を突っ張ったまま固まって動きません。ハァハァ」


「良かった。ほら、リラックスしろ。もう大丈夫だ。引っ張るぞ」


ゼンジはポムを引っ張り出した。


「動かないな。それ!」


ガチガチに固まったポムを、力一杯引き抜くと樽から飛び出しその場に倒れた。


ニ人は大の字で仰向けになった。


「ふふふ」


「ははは」


「「あはははははは」」


「ははは……し、死ぬかと思いました。ふふふ」


「はははは。もうダメかと思ったな。ふははは」


雨がニ人の笑い声を掻き消して行く。


「…生きててよかったな」


「怖かった…雨が気持ちいいですね…生きてて良かった」


「そうだな」


「はい」


しばらくの間、雨に当たり興奮と恐怖を洗い流した。


「聞いていいか?」


「な、何でしょうか?」


質問をすると、やはりポムは身構えた。


「レベル、上がらなかったか?」


「知りません!」



(女神様、こちら自衛官、 

ドラゴンの巣でレベルアップしたのは、自分が押したポムの樽が、モンスターを轢いたからですね。ビビらせないでくださいよ。どうぞ)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ