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85 人間の王《Side.黒魔女天使》


「シルヴァは死ぬかもしれん」


「「えっ!!」」


ヒメとヴァニラは、目を見開き固まった。


「叔父様それどういう事!?」


ヴァニラは一歩前に出ると、ヴォルフの顔を見上げ、今にも噛みつきそうな勢いで睨み付けた。


「あ、ああ。実は、人間の王であるギャリバング王の命令により、アルベルトと共に、ここより南にあるギャリバング王国領内の街、レガリストアントへ出向いておるのだよ」


それを聞いたフランは、一歩後ずさった。


「それがどうして死ぬかもしれないのよ?どうしてそんなに落ち着いていられるんだよ!」


ヴァニラはギラギラとした目を吊り上げて、睨み付けるだけでは興奮が収まらず、ヴォルフの胸ぐらに掴みかかった。


「お嬢!」


「!?叔父様ごめんなさい」


フランの声で我に返ったヴァニラは、掴んだ手を離した。


「構わないよ」


襟を正し、乱れを戻しつつ笑顔で答えた。


「昔とちっとも変わらないな。シルヴァの事になると、自分の事のように怒ってくれる。シルヴァの味方になってくれる。ありがとう」


そしてヴォルフは、首を横に振り厳しい口調に変えた。


「しかし、今回はダメだ。城から使者が来たのだ。王、直々の命令だ。死ぬと分かっていたとしても止める事は叶わぬ。拒否することもまた、死を意味する事だからな。我々に選択の余地は無いんだ」


(使者?私とは違うよね?王様の使いだよね)


「どうして王様に呼ばれたんですか?」


ヒメは普通に疑問に思った事を口にした。


「噂は耳にしていたが、ギャリバング王国は雨が止まぬそうだ」


「どういうこと?それとシルヴァに何の関係があると言うの?」


不安に駆られるヴァニラは、落ち着いて話すヴォルフに苛ら立ちを隠せないでいた。


「直接の関係は全く無い。今回使者から聞かされた事は、雨が全く止まない事と、その原因についてであった」


「シルヴァは何をしに行ったの?」


寒さで震えるヒメが喰い入るように聞いた。


「この場で全てを話すには、あまりにも長すぎる。続きは屋敷の中で話すとしましょう」


「ダメよ叔父様!今教えて!」


ヴォルフは再び、ゆっくり首を振った。


「きっと城へ行くつもりなのだろうが、それはやめなさい。相手が悪過ぎる。それと折角誤解が解けたというのに、ヴァニラを城に向かわせたとなると、再びジュドウたちと合わす顔が無くなってしまう」


「……」


ヴァニラは、うつ向き言葉を失った。


「さてヒメ様、食事の前に風呂に入られて、冷めた体を温められては如何でしょうか?」


「是非!」


「では、こちらへどうぞ」


ヴォルフの後に続きヒメたちは屋敷の中へと入って行った。


一方、馬車に残る双子は、顔を見合わせ首を捻っていた。


「「お嬢に言いそびれたが、シルバーウルフが忽然と消えた……」」


そして双子に戦慄が走る。


「「足跡が無い!奴らは一体何者だ?」」


不思議なことに、馬車を取り巻いていたシルバーウルフ族は、屋敷に着くと同時に姿を消していた。

その足跡と共に。


〜〜〜


「この露天風呂やっぱり最高!」


ヒメたち三人は、露天風呂に浸かり、雪が散らつく夜空を見上げていた。


「ねぇヒメ。ヴァニラは城に行きたい……シルヴァを助けたい」


「お嬢。ギャリバング王国と言えば、人間の王が治める王国。人間は、亜人を同じ生き物として見ておりません。良くて奴隷として使われます。街を自由に歩く事は出来ないかと」


「そんな事は分かってる!でも、どうしてシルヴァなの?たった一人の友達なのに」


ヴァニラは涙を流した。


「ヴァニラ。私もそこに行くつもりだよ」


「ヒメ!」


「でも、先ずは話を聞いてからじゃないとね。雨が止まないとか言われても、何が何だか分からないし、それに私は人間だから動きやすいと思うんだ」


「ありがとうヒメ」


〜〜〜


「好きなだけ食べてくれ!」


豪華な料理が並ぶ中、ヴァニラの表情は、やはり優れなかった。


「ありがとうございます」


ヒメはそんな事はお構いなしと、両手に肉を持ちモリモリ食べ始めた。


「このお肉やっぱり最高!」


「語彙力!!似た台詞さっき風呂場で聞いたし!まったく両手に肉持って食べるなんて行儀悪いよ!

ところで叔父様。さっきの話だけど続きを教えて」


「そうだな」


ヴォルフはうつ向き目を閉じた。


「分かった。話そう。しかし約束してくれ。人間の国には行かないと」


頭を前に突き出し、食い入る様に見るヴァニラを見て、ヴォルフは深いため息をついた。そしてヒメへと向き直ると、重い口を開いた。


「ヒメ様がホムンクルスと、いや、ボッコスとバッコスと共に出て行かれた後、傷ついた者たちを村の教会に集め、回復魔法やポーションにより治療しました。私もそこで全快しました」


「え?でもその目の傷跡と左腕は……」


ヴォルフは右手で左目の傷を触った。


「ヒメ様、これはその後に出来た傷。干からびる呪いが消えて喜ぶ者、ヒメ様が連れ去られ悲しむ者、村の者たちは一喜一憂しておりました。そこへ突然ワイバーンが現れました」

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