82 救助【Side.ビニール仮面】
教会にいた美しい亜人が、アスカの窮地に颯爽と現れ、ゲレイドとミハエルを吹き飛ばした。
「ゲレイド!ミハエル!おのれぇ!き、貴様ぁ!」
ダズカスは明らかに動揺し始めた。
「シスター……フラン?ど、どうして……ここへ」
しかしよく見ると、緑のマフラーをひるがえす、イセカイザーグリーンの姿であった。
(ぐ、ぐりーん?)
朦朧とした意識の中、左側にも誰かがいる気配がした。その時、椅子にアスカを縛り付けていた紐が解けた。同時に左の視界から、イセカイザーピンクが現れた。
(ぴん、く?)
ピンクはアスカの右手にはめられた、無力の腕輪を引きちぎった。
『ミミ〜』
(まさか)
落ちそうになる意識を繋ぎ止め、アスカは両手を叩いた。それは力無く、ぺちんと鳴った。しかし条件は満たされた。
アスカの手に緑の魔石が現れた。
震える手で、それを胸元へ添えると、あの言葉を呟いた。
「変…身」
しかし、その条件は満たされてはいなかった。
(変身できない。何故だ?)
「何だ、その魔石は!どこから取り出した!何をするつもりだ!」
甲高い声を聞き、そこでアスカは理解した。
(あいつに見られていると変身できない……)
視線を上げるとゲレイドが立ち上がり、腰の剣を抜いてグリーンに斬りかかった。
「死ねぇ〜!」
だがそれを難なくかわし、拳を腹にめり込ませると、ゲレイドはくの字に曲がりミハエルの側に崩れ落ちた。
「き、貴様何者だ!」
更にグリーンは振り返り、ダズカスを担ぎ上げると、その場から立ち去った。
「やめろ!は、放すのだ!ワシを誰だと思っておるのだ!金か?金が欲しいのか?それなら好きなだけ……」
ダズカスの声は遠ざかり聞こえなくなった。
(ありがとう。だがすまない……力が、残って、ない)
しかし最後の力を振り絞るが、魔石を持った手は重くて上がらなかった。
アスカは右手をダラリと降ろすと、緑の魔石を落としてしまった。
硬質な音を響かせ、無情にも緑の魔石は転がって行く。
そしてピンクの足に当たり止まった。
(だめだ……ここまで、か)
ピンクは緑の魔石を拾い上げ、アスカの右手に握らせると、そのまま、その手をアスカの胸に導いた。
「は、はは……ありが、とう」
ゲレイドとミハエルは、白目を剥いて気を失っている。
「へ、ん、し、ん」
右手の魔石が激しく輝き始める。
それと同時に意識がハッキリとして、頬の痛みがなくなり、左目も見える様になった。そして身体中に力がみなぎってきた。
緑の魔石がアスカの胸に吸い込まれ、眩い光に包まれた。
「ふぅ〜。ギリギリだった。サンキュ!ミミ!今回は危なかった!マジで助かったよ」
『ミミ〜』
「そうか、お前がキュウを助けてくれたんだな」
『ミミ』
その時、気を失っていたゲレイドが立ち上がった。
「き、貴様ら何者だ!ダズカス様は無事か!?あの男を何処へやった!」
ピンク(ミミ)は地面を蹴ると、猛スピードでゲレイドへと肉薄した。
「ミミ!殺すな!」
ピンクは地面に足を立て、急ブレーキをかけたが間に合わず、ゲレイドにぶつかり吹き飛ばしてしまった。ゲレイドはまた壁にぶつかった。
その音を聞き、意識を取り戻したミハエルであったが、再びゲレイドが倒れ込み、頭と頭をぶつけて二人は気絶した。
「悪りぃなミミ。だが人は殺すなよ。こいつらと同じにはなりたくないからな」
『ミミ〜』
「それにしても今回はマジでダメかと思ったよ。貴族怖えな。そうだ!あの貴族。キュウは何処まで行ったんだ?」
『ミミミミ〜』
「ミミ分かるのか?そもそも、どうしてここが分かったんだ?いや、今はそれどころじゃないな!キュウの元に連れて行ってくれ」
『ミミ〜』
走るミミの後をアスカは追いかけた。
部屋を出ると、同じ石造りの通路が伸びていた。
そして、似たような部屋がいくつもあり、全ての扉が開かれていた。
「なる程ね。全部開けて確認してたのね」
階段を登ると、豪華な装飾品や骨董品が並ぶ部屋に出た。
「宝物庫か?」
様々な武器や防具が、所狭しと飾られている中、壁に飾られた刀に目を止めた。
「日本刀か?」
アスカはそれを持ち上げた。
すると、たった今、出てきた扉が一人でに閉まり、他の壁と見分けがつかなくなった。
「隠し部屋だったのか」
(貴族が開けっ放しだったんだろうな。閉まってたらキュウたちには見つけられなかったかも)
アスカは身震いをした。
(この刀は頂いとくか)
「圧縮」
宝物庫を出ると、執事やメイドが逃げ惑っていた。
気にする事なく二人のイセカイザーは、二階へ駆け登り、通路を奥に進んだ。ここもやはり全ての扉が開かれていた。
ピンク(ミミ)は通路の中間まで来ると立ち止まった。そして開かれた扉の部屋に正対した。
「この部屋か?」
そこにはグリーン(キュウ)と、貴族ダズカスがいた。
「厨房かよ!」
そこは広い厨房だった。
料理人は逃げ出して一人もいなかったが、幾つもの豪勢な料理が皿に乗せられていた。
ダズカスは厨房の真ん中で頭を抱え、座り込み震えている。
グリーン(キュウ)は料理の乗った皿を両手に持ち、グリーン(アスカ)に駆け寄った。
『キュ』
そして、皿を差し出し首を傾げた。
「全く。お前らは、可愛いな。腹が減ってたのか?持って帰って、後で食べよう。圧縮」
グリーン(アスカ)は料理を受け取り、超亜空間へ送った。
「待たせたな畜生!圧縮。お前は貴族という皮を被った畜生だ!圧縮。もう逃げ場は無い観念しろ!圧縮」
グリーン(アスカ)は、ダズカスの元へ歩くのと同時に、並ぶ料理を片っ端から超亜空間に送っていった。
「か、金なら好きなだけやる!だから頼む。命だけは助けてくれ!」
「何だそのダサい決まり文句は!お前が殺した人たちも同じ事を言っただろ?助けてやったのか?
あ、いや、その人たちはダサくない。ダサいのはお前だけで……だ〜!締まらない!地球では悪役ばかりやってきたからな。決まり文句は絶賛練習中だ。圧縮」
「あ、あの男も殺してないだろ?今から回復してやるところだったんだ!な?頼む助けてくれ!」
「あのイケメンの美青年は、既に解放した」
「ひっ!く、来るな!」
「次回予告だ。お前は金輪際、人を、いや、生き物を傷つけない。そして教会には指一本触れない。それどころか教会に寄付をする。更には教会のシスターや子供たちを、末代まで守り続ける」
それを聞いたダズカスは、入り口を見てニヤリと笑った。
「ヒーッヒッヒッ!このワシが、そんな事する訳ないだろう!観念するのは貴様らだ!お前らかかれ!」
ダズカスが叫ぶと、イセカイザーたちが入ってきた入り口から、鎧で武装した兵士が次々と入って来て立ち塞がった。
「そいつらを殺せぇ!」
「はぁ。無駄だよ」
グリーン(アスカ)は、素早くダズカスとの距離を詰めると肩に担ぎ上げた。
「は、離せ!」
「I’m ready!」
そして窓際に走り出した。
「や、やめろ!ここは三階だぞ!ギャ〜!」
そのまま窓を突き破り外へ飛び出した。
グリーン(キュウ)とピンク(ミミ)もそれに続いた。
「落ちる〜〜〜!!」
『貴族の恐ろしさを目の当たりにしたアスカ。
仲間の力に救われて窮地を脱する事に成功した。
そして、キュウがダズカスを連れて来た場所は調理室。ミミがアスカを案内した場所も調理室。
ただ単に、腹が減っていただけであった。
食え!イセカイザーグリーン(キュウ)
食せ!イセカイザーピンク(ミミ)
次回予告
追走』
「何を見たんだ?見てはいけない物なのか?
しかし貴族は思っていた以上にヤバいな。これからは関わらないようにしよう」