表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/114

80 合体【Side.ビニール仮面】


教会の前で、人間と亜人の子供たちが、キュウとミミを追いかけて楽しそうに遊んでいる。


それとは対象的に、シワシワのシスターと亜人の美女が、険しい顔でアスカを囲んでいる。


「言い方が悪かったね。ワイアットを助けてくれて感謝してるよ。ありがとう……でもね、貴族に歯向かったら最後。あんたの命は無いに等しいよ」


「冗談だろ?殴っただけでそこまでは……」


アスカは先程の貴族を思い出した。ワイアットが道を塞いだだけで殺されそうになったのである。


「……あるかもな。まあ、何とかなるだろ」


「あら。何とかなりませんよ。貴族でもない貴方が、例えこの街から姿を消したとしても、貴族は執念深いので、お金や権力を行使して文字通り地の果てまで追い掛けて来ますよ」


(俺やっちまったかな?)


「……ピンチワン」


「それにしてもスカッとしたよ。大声上げて笑いたいくらいだ。アンタには悪いがね。しかし今後の事を考えると、そうも言ってられないよ」


シスターは悲しそうに呟いた。


「あの貴族は、アンタを探しにまたここに来るだろうね……そうなれば、あの子たちもどうなることか……」


ミミを伸ばして、キュウをモミクシャにして遊ぶ子供たちを見つめるシスターの顔のシワが、一気に増えたように見える。


「雨が降ってた方が、私たちには幸せだったんだけどねぇ。無粋な話だよ」


「申し訳ありませんシスター・ガッキーラ。私が外に出てしまったから……」


(美女無表情!反省してない!だがそれもいい!)


「フランは悪くないよ。済んだ話さ。例え貴族と言えども、教会の中では乱暴はしないはずだからね。私たちは教会の中に籠るとするよ」


(シスター・フランっていうのか。いい!)


「いい……あっいや、なんかごめん。珍しく上手く行ったと思ったら、やっぱりそうは問屋が卸さないみたいだな……」


「あそこでアンタが助けてくれなければ、ワイアットは死んでただろうからねぇ。ワイアットも感謝してるよ。さっきからアンタの後ろで何か言いたそうだからね。ワイアット!言いたい事があるならボケボケしないで言いなさい」


「え?うわっ!ビビった!」


アスカが振り向くと、ワイアットが手混ぜをしてモジモジしていた。


「俺のせいで……大変なことになって……ごめんなさい!」


ワイアットは勢い良く頭を下げた。


「謝るな!こういう時は、ありがとう!って言うんだぜ」


アスカは笑顔でワイアットの頭を撫でた。


「助けてくれてありがとう……おじさん」


「な!」


(鉄板だな!鉄板だから仕方ない!笑顔で許そう)


「おいガキンチョ!お兄さんだ!!」


アスカは鬼の形相でワイアットに顔を寄せた。


「ぷはは!変な顔。お兄さん!ありがとう!」


ワイアットは至近距離の変顔に噴き出すと、満面の笑みをアスカに向けた。


「変顔した分けじゃぁないんだけど……よし決めた!貴族に話を付けてくる!」


「あんぽんたん!!アンタ全然理解してないねぇ!貴族に逆らったらダメなんだよ!」


「だから話をしてくるんだよ」


「すかぽんたん!!あいつに話が通じると思ってるのかい!?」


「だよなぁ……じゃあ、この辺に魔石を売ってる店ってない?」


「どうして『じゃあ』に繋がるんだい!」


「あら。緑の魔石なら一つ持ってますよ」


シスター・フランはポケットから拳大の、緑に輝く魔石を取り出した。


「おお!グリーンだな!それをりんごと交換してくれ!」


「いいえ、お礼に差し上げます。手を加えてますが宜しいでしょうか?」


アスカはシスター・フランから綺麗な球体に加工された魔石を受け取ると空に掲げた。太陽の光を浴びて輝く緑の魔石は、ウインドウルフのそれよりも美しく感じた。


「ん〜、大丈夫……かな?サンキュ!」


魔石を超亜空間へ圧縮すると、素早く手を叩きりんごを取り出しフランに投げた。


「あら。綺麗なりんご。これを頂くと、魔石がお礼にならないのですが」


フランはアスカにりんごを返そうとした。


「り、り、りんごかい!?それはりんごかい?」


ガッキーラは、焼きりんごのように顔をシワシワに、そして真っ赤にさせて叫んだ。


「えっ!あれがりんご?」


「そうなの?初めて見た!りんご食べて良いの?」


子供達もガッキーラの叫び声を聞き集まり始めた。


「お前らも食うか?ほら」


アスカが手を叩く度に、次から次へとりんごが現れた。子供たちはマジシャン顔負けのマジックに興奮し、気が付けば大量に転がるりんごを見て、さらに興奮した。マジックではないのだが……


「あら。こんなに沢山のりんごを良いのですか?」


「良いの良いの。どうせ俺たちだけじゃぁ食べ切れないし。まだまだあるからね。食べるも良し、売っても良し、子供たちが喜ぶように好きにしてくれ」


『キュウ』


『ミミ〜』


「アンタ何者だい?ボケボケしないで名前を教えなよ!」


ガッキーラは神に祈るように手を組んで、瞳を潤ませながら懇願している。


「アスッ……」


(はっ!名前を言っても良いのか?知られたらヤバイんじゃあないのか?イセカイザーがバレなきゃあ良いのか?)


「アッシュ兄ちゃんありがとう!」


ワイアットがすかさず御礼を言った。


(ん?アッシュ?)


「テイマーのアッシュだね!覚えたよ。くれぐれも死ぬんじゃないよ」


(アッシュ?俺の事?そんなヘアカラーのような名前じゃぁ……)


「あら。素敵なお名前ですね」


無表情だったフランが少し微笑んだかに見えた。


「おう!アッシュだ!テイマーのアッシュだ!」


(やっぱり惚れてるだろ!その笑顔美しい!)


「本当にありがとうございました。しかしやはり、この街から消えてください」


「たはは……」


(惚れてなかった……それにしても口悪過ぎ!せめてオブラートに包んでくれよ……)


「貴族を説得してからね。君の未来のために」


アスカは、キザったらしくフランに流し目を決めた。


「あら。貴方の未来が終わりますよ」


流し目は決まらなかった。


(まただ!あの貴族のせいだ!)


「良いんだよ!その綺麗な顔に笑顔を取り戻すからな!俺が勝手に決めた事だ!」


(振られたわけじゃあないからな!)


アスカの目から自然と涙が出てきた。しかしその事を悟られる前に、貴族が消えた道へと向き直り空を見上げた。


「太陽が眩しいぜ」


涙を隠すため、燦々と照り注ぐ太陽の光が眩しいフリをして腕で涙を拭った。


「太陽の馬鹿野郎……キュウ!ミミ!行くぞ!」


アスカは振り向かない。そのまま逃げるように走り出した。


「アッシュ兄ちゃん助けてくれてありがとう!」


「りんごありがとう!」


「アッシュ!死ぬんじゃないよ〜!」


涙が止まらない。流れる涙はそのままにして、振り向く事なく手を振った。


「私の顔が……綺麗……」


シスター・フランは遠ざかるアスカを見つめ、無表情のまま顔の縫い目を指で辿った。


「アッシュは太陽のような青年だね。フラン、助けに行かなくても良いのかい?」


「私は……」


フランは一歩踏み出したが、そこで踏み止まった。


「私は亜人です。太陽から隠れて生きる亜人です」


そして太陽を見上げた。


「そうかい……」


ガッキーラも眩しそうに太陽を見上げた。


アスカは振り向かない。


「この世界でも俺には春は来ないのか……きっと出会い方が悪かったんだ!あの貴族のせいだ!待ってろよ〜って、どこで?」


アスカは立ち止まると腕組みをして考えた。


(で……どこでに行けば良いんだ?)


「あの貴族はどこにいるんだ?しまったなぁ場所が分からん!今更戻って聞くのもダサ過ぎる……仕方ない、デカい屋敷を探すか」


アスカは街の奥へ向かった。


教会付近には食材を売る店や、武器屋、道具屋が並んでいたが、そこを抜けると、道の脇には街路樹が並び、街並みの景観に美しい彩りと統一感がもたらされ、ここからは貴族の世界なのだと感じた。

行き交う人の雰囲気や、服装、アスカを見る視線が変わった。


「人を排泄物でも見るような目で見やがって。この格好は場違いだな。こいつらを連れてると更に目立ちそうだな……ミミ中に入れるか?」


『ミ〜』


アスカは服の首元を広げた。ミミは体を薄く変形させて、アスカの懐に隠れた。


「少し我慢しててくれ。キュウもなるべく静かにするんだぞ」


『キュ』


右肩のキュウは小声で鳴き、体をすぼめて3本の尻尾をアスカの首に巻いて、ファーのようになった。


広い敷地に豪華な屋敷が散見されるエリア。ここはまさに貴族のテリトリーである。


「さてと、どの屋敷だろうな?虱潰しに探す訳にも行かないし……この街一番の貴族って言ってたよなぁ」


しかしそれは、簡単に見つけることが出来た。


「あった」


居心地の悪さを肌で感じつつ、豪華な屋敷を選別していると、如何にもという立派な屋敷が目に入った。


「あれで間違いなさそうだな」


屋敷の前には門番が四人。門扉は閉ざされている。しかしその門扉は鉄格子で、中の様子が外からでも伺える。

アスカは、門番に見つからないように街路樹に身を隠すと、その陰から奥の様子を伺った。


「慌ただしいな」


屋敷の扉の前に執事やメイドが列を作り、それを隠すように馬車が停まった。


「馬車が来た。まさか、もう教会に向かう気か!ふざけやがって!グリーンに変身だ」


アスカは周囲に隠れる場所を探そうと、振り向こうとした瞬間、後頭部に衝撃を受けその場に倒れ込んだ。視界が狭窄して耳が遠くなる。

遠のく意識の中で声がする。


「手間が省けたな。ダズカス様に報告しろ」


「はっ!では、このモンスターはどういたしましょう」


『キュウ!キュウ!』


「傷つけるなよ。そいつはレアなモンスターだ。売れば大金が手に入る。この無力の腕輪を首にはめろ。スキルを使って暴れられても面倒だ」


「はっ!」


そこでアスカは意識を手放した。



『シスターから、あすかぽんたんと罵られたアスカ。子供たちの笑顔を消さないため!というのは立前で、実はフランに良い所を見せたいのは見え見えである。恥ずかしい程に。

ぽんたんアスカ!

川を渡らないのかイセカイザーグリーン!

次回予告

貴族』


「あんぽんたんと、すかぽんたんを合体させたら、あすかぽんたん!まあ素敵……ってなるか!次回予告の合体ってこの事か!次回予告の次回予告をするな!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ