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79 シスター【Side.ビニール仮面】


教会の前に着いたアスカは、いつまでも続く悪寒を払拭するごとく首を振ると、屋根を見上げ天辺にある十字架に向かって話しかけた。


「ギルドの前にお祓いだ!女神。遅れてすまない!」


教会前の開けた道で、人間と亜人の子供たちが楽しそうに遊んでいる。


「出たな水蛇!これでも喰らえ!牙!」


「ぐわぁ!やられたぁ!」


「今度は私にも、お姫様をさせて!」


「だめだよ!さっきもしただろ!」


子供達は戦いごっこをして走り回っている。


「ご飯の支度ができたよ〜」


教会の入り口から年配のシスターが、フライパンを叩きながら出てきた。


(フライパンを叩いて呼んでる!漫画でしか見たことねぇ!)


その時、奥の通路から騎士が先導する豪華な馬車が近付いてきた。


「お前たち!早くこっちに来なさい!ボケボケするんじゃないよ!」


それを見たシスターは血相を変えて、子供達を呼び集めた。

しかし、一人の男の子が馬車の前で転んでしまった。


「ワイアット!」


シスターは血相を変えて少年の名前を呼んだ。


「何だ?そのガキは!ワシの道を塞ぐか!無礼者!ゲレイド排除しろ!」


「はっ!」


馬車の中からホイッスルでも鳴らしたかのような、甲高い男の声が聞こえた。


すると馬車を先導していた騎士が、角が二本生えた馬から降りて、ワイアットと呼ばれた少年の腹を蹴り上げた。


「邪魔だ」


「ぐぼっ!」


(嘘だろ!子供に何てことをするんだ!)


ワイアットは、シスターの前に顔から着地してしまい、鼻血を出し泣きながらシスターに縋り付いた。


「ジズダー。いだいよ〜」


「ワイアット!我慢しな!頭を下げるんだよ!」


周りをよく見ると、子供を含めた他の人たちは皆、貴族に対して片膝をつき頭を下げていた。


(みんな何してるんだ?あいつはこの街の偉いやつなのか?)


「うわぁ〜ん、だずげで〜」


ワイアットは座ったまま大声で泣き始めた。


「うるさいガキだな!ゲレイド黙らせろ!」


「はっ!」


ゲレイドは腰の剣を抜き、ワイアットへと歩き始めた。


「この子はまだ子供です。貴族様どうかお許し下さい」


「子供だろうと関係ない」


(貴族?)


シスターが必死にワイアットを庇っているその時、教会の扉が開き、中からフードを被った長身の女性が出てきた。


「何事ですか?……っ!!!」


しかし、その女性も貴族に気が付くと、素早く片膝を付き頭を下げた。


女性の顔立ちはとても美しかった。

肌の色が緑色だと言うことと、縫合の跡が2箇所、目を通るように額から顎にかけて、痛々しく残っている事を気にしなければ。


「ゲレイド待て」


「はっ!」


馬車の中から声がすると扉が開き、中から太った貴族が降りて来た。


「おやぁ?ここには汚い亜人がいるのか?よく見ると、子供の中にも亜人が混ざっているな!」


ホイッスル声の貴族はゲレイドの元まで歩くと、剣を奪い、その切先を亜人の女性へ向けた。そのままワイアットへと歩き始めた。


「亜人は好かん!汚らわしい……貴様の顔を見て気が変わった。ワシに無礼を働いたこのガキには死んでもらう。その後は、亜人の子供だ。だが貴様は簡単には殺さん、ワシの屋敷に連れて行く。ヒッヒッヒ。死ね!」


亜人の女性は震えたまま動けない。

それを横目に貴族は剣を振り上げ、ワイアットの首目掛けて振り下ろした。シスターが叫ぶ。


「ワイアット!」


しかし振り下ろした剣は、ワイアットに届かなかった。


「ぐあっ!」


りんごが手に当たり、剣は貴族の手から抜け落ちた。


「り、りんご?何者だ!このワシにりんごを投げた不届き者は!!」


貴族が左を向くと、アスカが走って向かっていた。


「俺だよ!当たって良かった!」


アスカはりんごを投げた直後、既に走り出していた。りんごは絶対に、当たらないと思っていたから。


「誰だ貴様!ワシが誰だか知らんのか!この街一番のきぞぐぼっ!」


アスカは貴族の左頬を力一杯殴りつけた。


「貴族だろ?知ってるよ」


太った貴族は放物線を描き馬車の前に顔面から着地した。腫れた頬を押さえて顔を上げると、鼻血を撒き散らし叫び出した。


「いだいぃぃ〜!ゲレイドォォォ!助けてくれぇ!ミハイル、ヒールだぁ!!」


ゲレイドは貴族の元まで駆け寄った。


「申し訳ございません。ダズカス様が、突然出立されたのでミハイルは来ておりませんし、回復薬も持ってきておりません」


「何だとぉ!痛いぃ〜!直ちに屋敷に戻るぞぉ!」


「はっ!御者、屋敷に戻るぞ!」


ゲレイドは貴族を馬車に乗せると、自分の馬に跨り再び先導を始めた。

すると馬車の窓を開けて貴族が顔を出した。


「貴様ぁ!顔は覚えたからな!そこを動くなよ!殺しに戻ってぐばっ!」


アスカは先程のりんごを拾い貴族に投げつけた。

左の頬にヒットしたりんごは砕けてしまった。


「うるせぇ!逃げる奴が言う言葉か!一昨日来やがれ!いや、二度と来るな!って聞こえてないか」


貴族は窓にもたれかかり、白目を剥いて気を失っていた。貴族一行はそのまま逃げるように、来た道を戻って行った。


アスカは両手の人差し指を舌に付け、それを眉毛に付けてサイドに伸ばす。キリリと眉毛を釣り上げて、目を擦り無理矢理二重にすると、クールを装って振り向いた。


「君、大丈夫かい?」


(完璧だ!珍しく完璧に決まった!これは俺に惚れるしかないだろ!)


アスカは、緑の肌の亜人に手を差し伸べた。


「……」


亜人の女性は片膝を付いたまま顔を上げ、両目と口を開けたままアスカを見て固まっている。


(この目は完全に惚れてる!瞳の色が赤と青だ!綺麗なオッドアイだな)


「俺が来たからには、もう大丈夫だ」


「な、何て事をしたんだ!」


ワイアットを抱きかかえたシスターが、アスカに向かって叫んだ。


「へ?」


フリーズしたアスカを他所に、亜人の女性はアスカの手は取らず、一人で立ち上がり無表情で喋り始めた。


「あら。貴方、私の前から消えてくださいね」


「は?」


女性の意外な言葉に、アスカはハテナが頭から飛び出した。



『教会へと辿り着いたアスカ。そこで子供が貴族に殺されそうになっていた所を間一髪救助した。結果、下心ダダ漏れの救助劇。それを見透かされたか、美女からのお礼は、冷ややかな視線と冷たい言葉のみ。

逃げろアスカ!救助劇の次は逃走劇だ!

次回予告

合体』


「珍しく上手く行ったのに、意味がわからん!」

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